倒しても倒しても、どこからか湧いて出てくるアクマを見てつい舌打ちを漏らす。 「チィ・・ッ」 恐らく、伯爵がニカに仕向けた隊なのだろう。 同じような山場を彼女はたった一人で何度乗り越えてきたのだろうか。 先程、ゴーレムでマリと連絡を取り合ったがあちらも手が一杯らしい。 頬に跳ねた返り血を拳で拭い、再び六幻を振りながら高く跳ぶ。 「災厄招来、界蟲一幻!」 焦りか、不安か・・それとも頼られない自分に対しての怒りか、何とも言えない感情が胸を締め付ける。 拒絶する事が出来ないが故に逃げる彼女を捕まえられない自分は、まだまだ弱いのだと痛感した。 彼女は生まれてからずっと望んでいた物を諦めてまで、この世界を救いたいのだ。 それは7年前の最後の瞬間(トキ)とは大きく異なり、彼女自身がそれを望んでいるのだろうと、寄り添う事により気付いた。 運命やら、使命やらは、彼女にとってどうでもよかったのだろう。 今まで人間と壁を作ってきた彼女は初めて感じた温もりを、誰よりも大切に思っていた。 ・・誰よりもその尊さを解かっていた。 それなら、俺は彼女に何をしてやればよかったのだろうか。 もし素直になる事が出来、そう問えるのなら彼女は何て答えるのだろう。 ---------- 「ニカ!ニカ!」 低迷していた意識が頬を叩かれる事により浮上し、ぼやけていた視界が一瞬にして鮮やかに色付いた。 景色と焦点を合わせようと大きく目を開くと己の顔の前には眉間に皺を寄せたクロスが瞬きをせずに俺の目を見ていた。 「馬鹿野郎!」 彼はそれだけ言うと、俺の顔を挟むように肘を置き目を伏せた。 まだよく回らない頭でちらりと視線を横へと移す。 そこには服の裾を血で汚したアレンが今にも泣き出しそうな目をしてこちらを見ていた。 手には、彼の服に付着した物と同じ色をしたタオルが山済みに抱きかかえられている。 ようやく状況を理解する。 こんな時は相手にどんな言葉をかけてやればいいのだろうか。 『ごめん』?『迷惑をかけた』? わからない。 どれも今の状況に当てはまるのだろうが、どれも違うような気がする。 そんな事を考えていると、良く謝罪をしてしまう俺に対して"「ありがとう」と言え"、と仏頂面で言う神田を思い出した。 しかし、長年人との距離を保ってきた俺は応用が利かずに、その言葉に意味を込めて言うことは出来ず結局相手の背中に手を回す事しか出来なかった。 教団を抜け出した事、それから、何処で、何をしていたか・・。 自分がどのような感情でクロスに経緯を語っていたかは良くわからない。 わからない・・・・ ただ、目頭が熱くなって、ギュ、と胸が締め付けられて、どこかが痛くて、俯いて、両手で顔を覆った。 クロスは俺の肩を抱き寄せて、宥めるように『大丈夫だ』と、繰り返していた。 これの感情を「辛い」と呼ぶのなら神田達はどれくらい「辛い」のだろう、この感情を「悲しい」と呼ぶのなら、神田達はどれくらい「悲しい」のだろう。 不思議な事に彼の優しさが自分を追い詰める。 今は忘れた孤独を取り戻したいと思った。 じゃないと、彼はいつまでも俺の心の中から消えてくれないから・・。 きっとお互いが同じ事を思っていて、でも、二人が一緒にいる為には、その間にある壁が厚く、高過ぎて、越えることも出来なくて。 こんな事なら、出会いたく無かった。 こんな感情が在るのなら、人を愛したくなんて無かった。 神様は意地悪だ。 ×
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