NO.TIE.TLE | ナノ


「今、マリとデイシャとスーマンが各地でアクマの破壊、及びイノセンスの回収をしているんだけど―・・」


司令室に収集された俺、馬鹿兎、ミツキ、リナ。


どうやら奴等だけでは事を沈められなくなったらしく、最終戦力として残されていた俺達も明日から戦場へと出向く事になるらしい。


腫れた目を伏せて黙々と資料を読むミツキを見兼ねたリナは渋々口を開いた。


「兄さん・・ニカは・・?」


その問い掛けは俺達を黙らすには充分過ぎる程の重みがあった。


シン、と静まり帰る室内。


まず最初に沈黙を破ったのはミツキだった。


「どうして・・?」


そう言って、資料を捲る。


リナがミツキの手の上に己の手を置き、止めさせようとするが簡単に振り払われた。


「どうしてよぉ・・っ」


そして、叫びにも似た悲痛な声を上げてソファーから泣き崩れるミツキ。


「ミツキ・・!」


リナが肩を抱いて支える。


そんな彼女も悲痛な表情を浮かべていた。


「ね・・、コムイさん・・どうして・・?」


この資料に―・・





「どうしてこの資料に、ニカの名前が無いの・・?」





ワッ、と声を上げて泣く。


リナがミツキを抱き寄せ、馬鹿兎が肩に手を置く。


コムイは一瞬目を見開くとデスクに両肘を付けて頭を抱え、目を伏せた。


俺は座ったまま、胸に込み上げて来る感情を押し殺す様に唇を噛み締めた。


いつもなら甘ったれた事を言うな、とか、自ら消えた奴の事なんか知ったこっちゃねぇ、だとか言うのだろうが、今回ばかりはそうは行かなかった。


あの時(暴走)のニカの顔が、脳裏に焼き付いて離れない。


「室長・・・・。」


リーバーがコムイに歩み寄り、何か言いたそうな視線を向けた。


「うん・・・・そうだね、任務の前に・・」





ニカを・・探そう。





ニカは雲みたいな奴だった。


フワフワと浮遊するものだから、ひたすら目で追っていないといつの間にか何処かへ消えて無くなりそうだった。


掴みたい、掴めない。


やっと掴んだ、と思ったらすり抜けて行く。


掌に残るのは少しの温もりと、優しい虚しさ。


追いかけようと前を向けば綺麗な微笑みを浮かべていて、更に遠く感じてしまう。


・・そんな奴だった。


誰よりも人間の暖かさ、残酷さ、世界の勝手さ、理不尽さを理解していたからなのかも知れない。


無表情を装った瞳は傷つく事に慣れていた。


それに気が付かない周りは彼女を散々利用し、痛めつけ、まるで汚いモノを扱うかのように捨てた。


そしていつしか自分で自分を汚いモノだと認識した彼女は笑う事を忘れ、一人で立つ事が出来なくなる程に自分を追い込んだ。


その連鎖が繰り返される度に、人間を嫌いになっていったのだろう。


でも・・、彼女は綺麗だった。


無垢、とはまた違う純粋さを兼ね備えていて人を裏切る事、見捨てる事が出来ない。


だから、弱い癖に・・否、自分は弱いと解かっているからこそアイツは一人で泣くんだ。


周りに誰も居なくても涙を隠して、声を殺して・・存在までもを隠そうとする。


その癖人前では精一杯強がる。


もうそんな事はして欲しくない。


俺がニカを自分のモノだけにしたいからとかじゃ無く、皆が彼女を救いたいと思っているからだ。


今なら掴めると思った。


でないと、何処かでまた一人、アイツは泣き続けるだろうから・・。


そんな事、俺が耐えられるはずが無いだろうが・・。





手を離されても構わない。


只隣を歩いていたい・・それだけなんだよ。






→第二十ニ夜に続く



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