NO.TIE.TLE | ナノ


ニカは・・誰かを傷付ける事を一番嫌がる子だった。


だからかしら。


時には非情な言葉を掛けて、勘違いされた事も沢山あった。


自分がどんなに傷付いても、嫌いと言っていた人間でさえ護ろうとする。


誰よりも優しくて・・狡くて、綺麗で、無垢とはまた違う純粋さを兼ね備えていた。


・・そんな子だった。


ニカは声を上げて笑わないし、泣かない。


今思えば極力自分の存在を隠そうとする、誰よりも感情を表現する事が苦手で、臆病。


自分が『綺麗』だと言う事に気が付いていないから。


でも私は、暖かいのに冷たくて・・不思議な雰囲気を持つ彼女が大好きだった。


いつも何処からかフラりと現れて一緒に居てくれる。


頑張れば頭を撫でてくれるし、泣きたい時は胸を貸してくれる。


決まって、最後は『ミツキには笑顔が一番似合うよ』って煙草をふかしながら微笑むの。


彼女の力が私に反映しないからとかじゃない。


ニカは私に沢山のモノをくれた。


私はニカに何かをあげる事が出来たのかしら?


解らないけど・・、


今度は、私からニカの所に行くからね?





だから・・もう、一人で隠れて泣いたりしなくても良いんだよ?






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「ルベリエ長官。ニカの捜索の再開・・許可を頂けないでしょうか・・どうか・・」


コムイが本庁に電話を繋ぐ。


彼女の全ては奴等が握っている為に俺達の好き勝手には動けないのだ。


コムイはルベリエと奥の部屋で少し話した後、静かに受話器を置いた。


詳しい事は訊かなかったが、どうにか許可は下りたらしい。


だが・・


相手はニカだ。


今は眠る事を許されていないので予知は見ていないのだろうが、厄介なのは"見透かす力"。


例え俺達が向かう先に彼女がいたとしても逃げ出すだろう。


さらに、メンテナンスを受けていない身体はボロボロだとコムイは予想していたが、彼女の姿を見たファインダーはピンピンしていたと真逆の証言をしている為に不安が募る。


それがまた彼女の"強がり"だったら?


何処かで身を隠し、一人で泣いている事になるんだ。


早く見付けてやらなければ、ニカがニカでいられなくなりそうで怖かった。





彼女は、自分を犠牲にすれば全てが終わるとそう思っているのだろう。





間もなくニカの捜索と任務の説明の為に司令室に呼び出された。


話を終え、早急に部屋を出ようとした刹那に鳴り響く一本の電話、外線からだろう。


リーバーから受話器を受け取るコムイ。


「ニカが・・・・!?」


その一言に足を止める。


振り向けば手招きされ『こっちに来て』と言うふりをされる。


小走りで駆け寄れば、受話器から雑音に混ざってマリの声が微かに・・だが、静まり返った室内には充分過ぎる程に聞き取れた。


『本人かは解りませんが・・ファインダーが言うには銀髪の小柄に碧眼、中性的な顔立ちをしているみたいです。』


ゴクリ、と唾を飲み込む。


「それで、目立った外傷は無いのかい!?」


『・・それが―・・』





―・・マリの隊がドイツでニカを発見した。


彼女は頭を押さえて踞りながらも顔だけを上げて、自分の周りに異常発生するアクマを片っ端から壊していたらしい。


その瞳には光が無く、アクマを殲滅した後仲間である彼等が近寄ろうと試みたが『見えない壁』に阻まれ拒絶。


マリが言うには心音は小さく、呼吸も浅く・・時折言葉を掛けてみるものの返って来るのは相槌と呻き声だけ。


そして遂には反応すらしなくなり、顔を伏せ咳き込み吐血・・どうにか意識を保っている状態だと言う。


『生きている事が不思議だ』


そう、マリは言った。





きっと彼女はまた笑うのだろう。


誰かにとって大切な存在であることに未だ気付けない彼女は、必死に悩み涙した俺達をまた突き放すのだ。


何も言わせないように、強がるのだ。


「馬鹿だなぁ。」


まるで人事のように。


自分は何も傷ついていないかのように。


そしてまた一人、闇の中へ消えて行こうとするのだろう。






彼女の心の中は、俺達が思う以上に空っぽなのかもしれない。







第二十ニ夜 そして始まる





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