先程まで緑だった芝生が赤黒く色付き、そこからは鼻が曲がる程の異臭が放たれている。 関節を有りもしない方向に折られたガラクタ達が散らかっており、その中心に立つ彼女の手にはガラクタの首が鷲掴みにされている。 「ば・・化け物・・・・!」 ガラクタが言う。 彼女は含み笑いを浮かべてそれに問い掛けた。 「そう見えるか・・?」 刹那、膨張して行くそれ。 涙を浮かべ助けを懇願しようとするが時既に遅し。 音を立てて破裂、そして魂の解放。 その様を見ていた彼女は静かに瞳を閉じ胸の前で十字を切った。 「安らかに・・。」 教団を抜けてからどれだけのアクマを壊して来たのだろうか。 ふ、と任務の為に駆り出されたファインダーの呆気に取られた表情を思い出す。 こいつら(アクマ)と同じ、化け物を見るような目で俺の事を見ていた。 自分はどうかしてしまったのだろうかと思うが、『普通』が解らない。 「・・・・っ!」 頭を押さえて踞る。 汚れた芝生に額をつけて、こうして声にならない叫びを上げたのは何度目だろう。 持って行かれそうになる意識をどうにか保ち、制御の効かなくなりそうな身体を抑え込む。 自分で腕を抱き爪を立てれば微かな痛みを感じ取る事ができ、ほんの少しだけだが楽になれた。 フラフラと立ち上がり、屋根が有る場所で休もうと足を進める。 幸い、ここら辺は廃墟が多く寝る場所を確保するには困らない。 適当な場所に足を踏み入れ、倒れ込めば周りのホームレスが驚愕いたのか声を上げた。 「見てんじゃねぇ・・。殺されてぇのか・・!」 そう睨み付ければ怯えた表情を浮かべて慌てて逃げ去って行く。 嗚呼、やはり自分はおかしくなってしまった様だ。 生暖かい涙が頬を伝い、誰にも見られてなんかいないのに声を殺してそれを隠す。 寂しい?・・違う。 悲しい?・・何が? 表現する事の出来ない感情が常に胸に纏わり付いて気が狂いそうだ。 誰か・・ "ニカは強い"と、言ってくれ・・ ---------- 「『後は俺に任せろ』・・か。」 自室。 神田はニカが寝ていた場所で小さく丸まるセツの背を撫で、ポツリと呟いた。 あの日を境に、セツは彼女を恋しがり勝手に部屋を脱け出しさ迷うようになった。 きっと、もう教団(ここ)には居ないと言う事は気付いているのだろうが信じたくないのだろう。 俺もその一人だ。 ズボンのポケットに手を突っ込み草臥れた一枚のメモを取り出す。 『幸せ』言葉や温もり、誰かと交わし合う時にはモノ、時にはコト。それ等の全てを指す。 アイツが居なくなった日に、寝台の上に折り畳んで置いてあるのを見付けた。 アイツを探している最中にこれを見付けたミツキとリナは泣き崩れ、馬鹿兎は涙を堪えるかのように天井を見詰めていた。 一方、俺は涙なんてモノは枯れてしまい、只そのメモの端を震える手で握り締め瞳を閉じた。 ―・・何かを変えたはずだった。 否、彼女の中で何かが変わった。 だからこその行動だったのだろう。 でも・・ 「・・・・っ、やべぇ・・」 ニカの文字の上にパタ、パタ、と水滴が落ち、シャツの袖で慌てて拭く。 枯れたはずじゃなかったのか?と苦笑して、折り畳んだメモを額につける。 は・・っ、やっぱりアイツ・・ 「狡ィわ・・・・。」 ×
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