NO.TIE.TLE | ナノ


ヘブラスカの間


「ニカ・・お前は・・本当に・・それで良いのか・・?」


団服を片手に持ち、煙草をふかして地面に座るニカにヘブラスカは訊ねた。


「・・そうだな・・。」


ふ、と微笑むニカのシャツには血痕がなく、血に塗れていた口元も綺麗になっている。


「アイツらは優しいから・・これから俺が仕出かす事、きっと許さ無ぇだろうし・・。それに・・」


またいつ暴走するか解らない。


誰も傷付かずに全てを終わらせるにはこうする事しか、俺は術を知らない。


「まあ多分泣くんだろうけど・・な。」


忽然と姿を消す事は出来たが、奴等の心から静かに後退して行く事は出来なかった。


でも、それも悪くないと思った。


俺が生きて来た跡を誰かに遺せる・・、それは孤独じゃ出来ない事だ。


「もしかしたら・・神様は俺にも優しくしてくれていたのかもしれないな・・。」


腰を上げる。


片手に持った団服を着て、吸殻を自分の能力で燃し、消す。


「じゃ・・元気でやれよ。ここの奴等に『後は任せろ』と伝えておいてくれ。」


ヒラヒラと手を振りながら去り行く彼女の背に、ヘブラスカはそっと言葉を投げ掛けた。


「ニカ・・、お前にとっての『幸せ』は・・見付かった・・のか?」


その言葉にピタリと足を止める。


振り向かずに口を開いた彼女の瞳は只真っ直ぐと、自分が歩むべき道を見据えていた。





「         」





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姿を消したニカ。


どうにかして彼女を見付け出そうと教団による捜索が始まった。


手掛かりは充分過ぎる程にあった。


もう直ぐ始まるであろう"最後の瞬間(トキ)"の下準備の為か、アクマが大量に出没する場所に自ら出向いている様で数人のファインダーが彼女の姿を見たと言う。


しかし、その話を聞いた教団はこれ以上彼女を探そうとはしなかった。


所詮『神のレプリカ』として闘う為に造られた存在・・自分のやるべき事を遂行しているのなら問題はない、と言う理由だった。


勿論俺達はコムイを通じて上の奴等に抗議をした。


が、ニカを兵器としてしか見ていない奴等に話しが通じる訳も無く簡単に追い返されてしまったのだった。





―・・もう直ぐ彼女が姿を消してから5日が経つ。


その間に沢山のファインダーと、4名のエクソシストが戦場で命を落とした。


どうやら世界の波が伯爵側に傾き始めた様で、教団は何時になくピリピリとした雰囲気を醸し出していた。


時が経つに連れてニカが居なくなった事を気にも止めなくなる奴等に、ゆっくりと刻まれて行く時間。


アイツが生きた証がだんだんと消えて行く。


それが日常と化して行く事が酷く怖かった。





俺の為に泣く誰かの顔を見るのはあれで最初で最後だろう。


誰かを傷付ける事が怖くなり只逃げ出しただけなのかも知れない。


解らない・・。


ただ・・


ヒトは同じ事を繰り返す。


『レプリカ』である俺も同じだ。


でも、もう大丈夫だと神田が言って俺の手を引き上げてくれたから、もう、一人で立てるよ。





だから―・・





神田・・繋いだ手、離すね・・。








第二十一夜 その歪みを正す時





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