ドン、と腹部に衝撃が走る。 無数の血痕が飛び散る。 胸に納まったニカにゆっくりと視線を下ろす。 ニカも俺を見上げていた。 「・・・・ニカ・・・・」 何故お前は何時も、 「ニカ!!!」 自分を傷付ける? 「ぐ、は・・・・っ」 中腰になり、床へと吸い込まれて行きそうになるニカを支える。 彼女の腹部には自らの能力により穴が空いていた。 そっと地面に寝かせて己のシャツを脱ぎ傷口を塞いで止血を始める。 コムイやミツキ、意識を取り戻したラビ、リナが辺りを取り囲む。 「お前は何処まで勝手なんだ!」 傷口を強く押さえ付ければ一瞬にして地面が血で染まり、痛みを感じないのかただぼうっと天井を見詰めるニカ。 「リーバー君!医療班に輸血の用意をさせて、あと破損した機械のストック出して!」 「りょ・・了解っス!」 ミツキとリナがニカの手を強く握り、馬鹿兎が身体を冷やさないようにとそこら辺に落ちていたタオルを身体に掛ける。 コムイは泣きながら彼女の顔を覗き込んでいた。 そんな中、ニカはクスッと笑い渇いた唇を動かした。 「も・・・・・・だ・・・・」 「喋るな!喋ったら・・」 「も・・う・・充分・・・・だ・・」 「ぶった斬るぞ!!」 涙腺が脆くなったのか・・それとも周りの奴に釣られたのか・・随分と涙脆くなったものだ。 血に塗れたニカの頬に自分の涙がボタボタと落ちて行く。 「・・・・神・・・・田・・お、れ・・は・・」 「頼むから・・喋るな・・っ」 「聞いて・・・・、最後、なんだ・・」 「何言ってんだよ・・!お前を幸せにするのが俺の幸せだって言っただろうが!」 ふわりと微笑む。 それは二人でいる時にしか見せない表情だった。 「俺は・・充分・・・・幸せ、だ・・」 ミツキが声を上げて泣く。 コムイが肩を抱き宥める。 「本当にお前は馬鹿だ!こんな小っちぇえ幸せより、もっと・・!」 「良い、んだ・・。」 馬鹿兎が顔を背け肩を揺らす。 「・・俺に、とっては大きかっ・・・・んだ、よ・・。」 リナが片手で涙を拭いながら、ニカの話しを頷きながら懸命に聞く。 「・・泣、いて・・・・くれる奴が、こんなに居る・・だろ、う・・?」 そして俺は、 「・・上、出来、だ・・ろ・・?」 俺は―・・ 「ま・・あ・・、でも・・・・」 「・・ああ・・っ」 「もし・・・・願いが、一つ・・叶・・っ、なら、」 「ああ・・っ」 「も、少しだけ・・」 「ああ・・っ!」 「一緒に・・・・居たかった、な・・」 軽い身体を持ち上げて、力強く抱き締める。 既に傷口は塞がっていたが、いつもの余裕が見られない為に不安心が煽られる。 否・・ここにいる奴等皆、同じ事を感じていただろう。 「ずっと一緒に居られるに決まってんだろうが・・。俺達はここに居るだろ・・?」 そう耳元で囁くが、瞼を閉じながら微笑むニカからの返事はもうなかった。 ミツキがニカの胸に己の額をつけて泣き、リナとラビは彼女の両肩に手を置いた。 怖がったモノ。 (仲間を失う事) 嫌ったモノ。 (誰かを傷付ける行為) 失ったモノ。 (もう孤独じゃない) 欲したモノ。 (『普通』) 愛したモノ。 (この生涯、貴方だけ。) やっと研究室に到着した医療班達がニカを寝台に寝かせ、その細い身体に配線を繋いで行く。 俺達はただ傍観している訳にも行かずに閉め出された。 方針状態のミツキを支えたリナが先に戻る、と言うので黙って頷いた。 俺と馬鹿兎は一言も会話を交わさないまま部屋の外で彼女の目覚めを待ち続けた。 しかし、それが報告される事はなかった。 ニカを治療していた奴等と、コムイやリーバーから詳しい話しを聞いた所―・・ 治療の最中に、忽然と姿を消したらしい。 →第二十一夜に続く ×
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