「神田って噂通りの蕎麦野郎だったんだな・・。食堂に来るのなんてうん年ぶりだから知らなかった。」 「夏になると、基本的にざる蕎麦なんさ。」 「へえ。あ、コラ、ミツキ!俺の焼き鮭食うな!」 「良いじゃないのー!お皿一杯に盛ってあるんだから、一匹くらいいなくなったって変わらないでしょう?」 「あ・・テメ!馬鹿兎、お前もか!」 「ほえー。以外と美味いんさね。リナリーもほら!」 「ちょっと!ニカは沢山食べなきゃ駄目なのよ、病み上がりなんだから!」 「そーだそーだ。リナリーの言う通りだ。」 「つってもお前、つい最近散々ワインと焼き鮭食い散らかしてたじゃねえか。」 「・・くっ・・バ神田が・・。」 「・・何ィ?」 「きゃあ!ラビ、それ私のグラタンですわ!」 「ほら、俺のハンバーガーやるからそんなに怒るなさ!」 「お前の食べ掛けなんてミツキに食わすんじゃねぇよ。汚れる。」 「な・・っ!」 「このグラタン、ラビにあげるわ・・ジェリーに新しいの作って貰う・・。」 「ちょ・・っ!」 「ラビに行かせろよ。コイツの所為だろうが。」 「ちょっとー!!!」 静かな時が賑やかな時へと変化して行くまでそんなに時間は要らなかった。 あの日からニカは良い意味で、変わった。 避けていた人混みに自ら足を運ぶ様になり、食堂へ向かえば奴等と食料の取り合いが始まる。 まだ大浴場には行かずに自室の風呂で済ませているが、それも時間の問題だろう。 そんな事があった所為で元々二人で過ごす時間はあまり無かったが、更に減ってしまった。 でも・・ 「ニカ。」 「・・・・・・。」 「ほら。解ってんだろ?」 自室のベッドに座り、手招きをする。 その仕草を見たニカはわざとセツを抱き上げて背を向けた。 はぁ・・、と溜め息を吐いて立ち上がり小さい背中をそっと包み込む。 「な・・!んだよ・・っ」 「ただ『来いよ』っつっただけだろうか。」 「馬鹿か・・!し、しし、し・・下心が丸見え・・っなんだよ・・っ」 そう言って俯く。 少し上から彼女の表情を確認すれば赤面していて、思わず頬が緩んだ。 確かに二人でいられる時間は減ったが・・知らない表情を見る事が出来るようになったので良いとする。 周りと触れ合う事も大切なのだと、百歩譲って我慢してやろうと思った。 少しばかり悔しいが、ニカの心の空白は俺だけでは埋められない事を理解していたから。 今は見守ろうと思ったんだ。 幸せって何だ? ・・突然どうした。 何となく。 変な奴。 ・・っ。気になったんだよ。 『幸せ』なあ・・。 神田にとっての幸せって何だ? そりゃ決まってんだろ。 ん? お前を『幸せ』にする事だ。 ×
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