NO.TIE.TLE | ナノ


俺が造られるよりも、だいぶ前から生きたいと願うヒトの手により決められた宿命(さだめ)だった。


まだ意識すらも曖昧な内に『神』だと謳われ、人類の希望を全て背負わされ。


そして、目が醒めて5日目の夜・・終焉を迎えるはずだったこの世界の未来を変えた。


良くやった、やはりお前は神だ、我々の希望だ、お前さえいればこの世界は救われる。


何処へ行っても、浴びせられる歓喜の言葉。


嫌気がさした。


所詮・・教団も千年伯爵と同じなのだと、こいつらは何も気付いていない。


俺はアクマと変わらない、戦う為・・その目的の為だけに産み出された、只の兵器だろうが。


こんなもの(イノセンス)が在った為に―・・


そしていつしか感情を無くした俺は、人目につかない場所で唯一同じ入れ物から生まれたミツキと二人きりで過ごすようになった。


生きる意味が解らない俺。


確立された夢は死ぬこと。


己の身体と、どうでも良い宿命から逆らうように何度も身体を刺した。


消えたい、消えたい、消えたい、消えたい、消えたい、消えたい。


増えて行く傷口に止めどなく流れる血、それに比例する、治癒して行く傷口に生産される血。


永遠の楽を見る事は許されないのだと、自分は神様の玩具なのだと。


叶わない夢を抱き更に自分を追い詰め、一人で立つ事すら出来なくなった俺。


遂に、ミツキとの契りが交わされる。


内容は、俺がミツキに居場所を与え、ミツキが俺に眠りを与えると言うものだった。


その時に毎回発生するミツキが背負う罪は、俺の死をもって消化した。


それで良いのだと思っていたんだ。


きっとミツキもそう感じていただろう、この時までは。


そんな日常が繰り返されていたある日、日課であるメンテナンスを受けた後に余命を宣告された。


あと少し、あと少しなんだ。


早く楽になりたい。


もう何も視たく無いし、感じたくもない。


微かに光る希望を胸に任務をこなしながら解き放たれるその時を、首を長くして待った。


しかし―・・


あと少しで夢が叶う寸前に、告げられた延命。


再び起こると予想された"最後の瞬間(トキ)"の阻止の為に再び世界の鍵と成れ、と。


未だ嘗て感じた事の無い絶望が胸を満たして行く。


何故、どうして。


まともに生きる事も、全てを捨てて楽になる事も、両方許されない自分。


見えたのは更に深い闇だった。


永遠の安息に着きたい。


そう願った俺は遂に、ミツキに二度と目が覚めない様に殺してくれと懇願した。


俺の上に馬乗りになるミツキ。


薄らいで行く意識の中彼女を見上げれば、その瞳には涙が溜まっていた。


一人で立てなくなった俺を理解したミツキは何も言わなかったが、それだけは痛く、ズキズキと胸に刺さった。


そしてそれから数日後、俺の目が覚めた頃には既に彼女の姿は無く。


ミツキの事を一切触れない周りと、この時初めて過ちに気付いた自分に酷く腹が立った。


今彼女は何をしているのか、何処にいるのか・・能力が反映し無い為に手掛かりは皆無。


―・・傷付けた。


ぐるぐると、吐き気と共に込み上げて来る感情と、行き場のない思い。


その時、感じた。


今まで馴れ合い故に互いを傷付ける人間達は下らないと言っていた自分も、同じだと言う事を。


一人の人間を支えようとすれば、周りの人間は傷付くんだ・・。


解っていた。


解っていたのに。


それからと言うもの俺は更に周りと距離を起き、食堂にも大浴場にも行かなくなった。


極力一人で居ようと心掛け、必要最低限の言葉しか発しなくなった。


一人を選んだ。


ミツキだけで良いんだ。


彼女は俺を理解してくれているし、俺も彼女を理解している。


他に何も要らない。


そう思っていたんだ。


なのに・・


神田との出逢い。


その所為で、全てが変わろうとしていた。


第一印象は最悪だったが、気が付いたらいつも隣に居る、不思議な奴だった。


長年蓄えられた闇に浸かった俺を救おうと、常に手を差し伸べていて。


傷付いても傷付いても側を離れない。


そうしていつしか同じ部屋で生活するようになっていた。


奴と一緒に居る事で知らない感情を知り、完全にでは無いが初めてミツキ以外の誰かに心を許した。


神田の優しい視線に安堵を覚えるようになった俺は、それと同時に不安を感じる様になった。


弱って行く身体。


未だに一人で立てない俺。


何時か必ず、取り返しのつかない様な深い傷を負わせるだろうと・・。


時が来る前に離れようとも思ったが・・心がそれを拒否する。


どうしたら良いのか解らず、踏ん切りがつかないままに時間ばかりが過ぎて行き、遂にそれは起こった。


俺に生きて欲しい為に、首を締める神田。


大きな掌から伝わる温もりと、悲哀に満ちた表情。


無理に笑って、掠れた声で痛みを受け止めていた。


嗚呼、また同じ事を繰り返してしまった・・やはり俺は一人の方が良いのかもしれない。


当然の如くそう思った。


そして、自分の手で全てを終わらせるんだ。


振り出しに戻るだけ。


それだけの話しだと。






今までの俺なら、きっとそうするんだろうな。







第十八夜 見ていた空





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