黒の教団会議室 「『心理のレプリカ』は7年前に確かに抹殺されましたが、ご存知の通り―・・先日の研究で再び蘇った事が確認されています。」 コムイは長いテーブルを囲む、本庁のルベリエ長官を始め収集された各地の支部長に説明を始めた。 「その存在によりここ数日の『ニカ』のデータは不安定です。定期的に薬を投与する事でどうにか睡眠だけは避けていますが、そろそろ限界かと。」 資料を片手にチラリとニカを見る。 テーブルに片肘をついて額に手を当てる彼女の顔色は真っ青で、目の下に出来た隈は更に濃さを増していた。 それを見かねたルベリエ長官は初めからそうするつもりだったのか、己の後ろに立つリンク監査官が持っていた膝掛けをニカの肩にそっと掛けた。 「ん、悪い・・ルベリエ・・」 やっと顔を上げたかと思えば虚ろな瞳。 ルベリエだけでは無く、その場に居る者達の表情が一瞬にして凍り付く。 「っ、コムイ!この会議はまた後日―・・」 アジア支部支部長、バクが椅子から立ち上がり重い空気を纏った沈黙を破った。 が、 「それは駄目だ。」 その言葉に対して口を開いたのはニカ。 周りの視線を集めた彼女は煙草をくわえ、マッチで火を点けて続ける。 「時間が無い。」 バクは何か言いたそうに一度口だけを開いたが、唇を噛んで渋々、再び椅子に腰を掛けた。 ふぅ、と煙を吐いたニカは「よろしい。」と付け足して資料に目を向ける。 「チィ・・、あの時(7年前)確かに殺ったんだがな。」 しかも"最後の瞬間(トキ)"が訪れる直前に現れるなんてタチが悪い。 面倒な事に成りやがって。 このタイミングで再びアイツを造り出せる奴なんて一匹しか居ねぇじゃねぇか。 「コムイ、ここ暫くあのデブ(千年伯爵)は俺達の前に姿を現してねぇよな?」 「うん・・僕達も目をつけたのはそこ、能力までは解析出来ないけれど時空の狭間にまで手を出せるのは伯爵しかいないからね。」 シンと静まりかえる会議室。 皆の表情が険しく変化した。 ニカはリンクが差し出した灰皿に煙草の火種を押し付けると、ガタリと立ち上がり言った。 「―・・ありゃアクマだ。」 『心理のレプリカ』、アクマをそれに仕立て上げて偽物を造るなんてアイツには朝飯前だろ。 「・・確証は?」 「有るっちゃ有る。眠って無いんであまり予知が視れない為俺の推測に過ぎないが―・・。」 時間を無駄にして研究するよりも有力だ。 「アクマはあのデブの手足で有り、"目"・・。よって、神に支払う対価を奪い俺の命を狙うのは『心理のレプリカ』でも無く、アクマでも無い。今回の世界の波(最後の瞬間(トキ))でこの聖戦に決着をつけようとするあのデブ、千年伯爵だ。」 「っ!それじゃあ・・!」 「君の視る予知は・・」 「いつも通りに眠ったら全て筒抜け・・だろうな。」 愕然する面々。 テーブルに肘を着いて険しい表情を浮かべるルベリエは一人冷静に訊ねた。 「しかし、何故アクマは君の夢に入り込む事が出来たのかね?たかがアクマにそんな事は可能なのだろうか。」 その言葉に対してざわめく会議室。 個人的な意見が飛び交う中、微笑を浮かべたニカが其の疑問に答える。 「―・・"夢喰い"。」 「何だね、それは。」 「アクマの能力だ。奴等は個々に特殊な能力を持つ、考えられない話しじゃ無い。恐らく人の夢を喰って現実に引き起こそうとしてんだろ。その為には未来を変える俺は邪魔で、時が来る前に消そうと試みてんだ。」 只でさえガタが来てるっつーのにこれ以上何か起きたら確実に死ぬ。 「本当に面倒臭・・い・・」 「っ、ニカ!」 案の定、椅子に腰を掛けてると言うのに揺れる身体。 ふ、と引き込まれた先には見覚えのある闇が待ち構えていて。ずり落ちる、酷く重たく感じる上体を誰かに支えられる。 「さ、わぐな・・只の目眩だ・・。」 「至急、薬の用意!羊水も限界まで濃度上げて研究員はそのまま待機!それと―・・」 遠くに、扉の外で待機していた研究員に向かって叫ぶコムイの声が聞こえた。 霞んで行く視界に微かに映ったのは―・・ 「か、んだー・・?」 どうして此処に? 「しっかりして下さい!私はリンクです!」 「これにて会議は終了します。対策はまた後日・・!」 どうにか瞳を閉じないように薄れ行く意識をどうにか保つと、ふわりと身体が浮いた。 ×
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