「メンテナンス終わりました。体力も落ちていますし、精神が異常値です。今までの薬ももう効かないかと・・。」 「弱ったな・・。」 メンテナンスを終えたニカを取り囲む研究員とコムイ、そしてルベリエ。 瞼を閉じてはいないものの既に意識など殆んど無いニカは虚ろな瞳で天井を見つめていた。 「これ以上強い薬は使えない。何か解決策は無いのか!」 唇を噛み締めてそう言うコムイに困惑の表情を浮かべる研究員。 「手は尽くしました・・本来なら2年前には朽ちていたはずの身体ですし、これ以上の策は・・。」 "存在しない。" ルベリエの鋭い視線を感じて口ごもる。 「"無い"じゃ済まされないのだよ。莫大な費用を費やしてようやく造り出した人形だ。」 簡単に駄目になってしまっては、意味が無い。 ルベリエの威圧感により一瞬にして凍り付く室内。 彼はニカを生かす為に繋がれたコードにチラリと目を向けた。 「コムイ室長、『ニカ』の治癒力はまだ衰えていませんね?」 「はい・・治癒力はなんとか・・。」 「ならば一度、全ての機械を停止させなさい。」 「・・っ!」 コムイはルベリエのその言葉に息を飲んだが、事の重大さを誰よりも把握していた為に一度瞳を閉じ、気を落ち着かせて口を開いた。 「確かに彼女が死んでいる間は予知は視れ無いので伯爵に覗かれる事はありませんが、機械を外した所で治癒力が邪魔し完全に死ぬ事は出来ません。」 時が来るまで、自らの内臓機能の低下により死を見る事は許されない。 その所為で女が苦しんでいた事も、仲間と共に乗り越えた事も知っている。 だから―・・ 「君は何を言っているのだね?殺すのでは無い。眠れないのなら暫しの安息につかせてあげるのだよ。嘗て『ミツキ』が『ニカ』にしていたように。」 「長官、それは・・!」 ニカを庇うようにルベリエとの間に割って入るコムイ。 冷酷な鋭い視線に負けじと食らい付くが突然実験室の扉が開きそれは解かれる。 扉の向こうにはリンクと何時も以上に眉間に皺を寄せた神田がこちらを見据えていた。 「ルベリエ長官。神田ユウを連れて参りました。」 「テメェら・・っ!」 ルベリエに歩み寄るリンクを他所に、其の部屋に居る人間を端から睨み付けて行く神田。 「どうして神田君がここに!?」 「チッ、知るか。お前らが呼んだんだろうが。」 そう言ってベッドに寝かされたニカを覗き込み唇を噛み締める。 虚ろに開いた目の上で手を振るが、それすらも無反応。 ショックを受けたように身体の動きを止める神田を見てルベリエは満足そうに微笑んだ。 「・・どうやら君は、ニカのお気に入りらしいじゃないか。」 「は、」 「部屋も同室だとか?」 「それが何だよ。」 神田は、別にコムイからの許可も下りている、お前には関係無いだろと睨み付ける。 しかし、その威勢はルベリエの次の言葉により掻き消されてしまうのだった。 「彼女の首を絞めなさい。」 「な、に言ってやがる。」 唖然とする神田。 コムイは険しい表情で己の拳を握り締める。 態々神田君を呼びつけたのはこの為か、と。 「良いですか?このままでは彼女は壊れてしまう・・そうならない為にも一度安息につかせてあげる必要があるのですよ。」 「だからって殺す必要無えだろうが!」 「おやおや。必要が無ければ態々呼んでませんよ、君にしか出来ない仕事なのです。その証拠に―・・」 神田の後ろに立つリンクに目で命令する。 彼は浅く礼をするとニカの前に立ち、その細い首に両手を掛けた。 「止めろ!」 止めに入ろうとする神田をその場に居る研究員、5人が押さえ付ける。 しかし、振りほどこうと足掻く内にリンクの手に力が込められニカの喉が次第に潰されて行く。 「ニカ!」 神田は彼女の名前を呼び掛け反射的に手を伸ばした。 バチィ! その瞬間の出来事だった、相変わらず天井を見つめたニカがリンクの手を払ったのは。 ×
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