「・・ツキちゃん、ミツキちゃん!」 指令室。 散らかった床に置かれたソファーに腰を掛けるミツキはコムイの呼び掛けに急いで顔を上げた。 「あ・・っごめんなさい、」 「大丈夫?やっぱりこの任務、危険だから一人じゃない方が・・」 「いいえ・・。私は一人で行きます。」 受け取った任務の資料。 毎度の事イノセンスはあるかどうか解らないけれど、それよりも生きて帰れるのか・・その方が深刻だった。 「私は大丈夫よ。」 そう、大丈夫。 もう何も失う物は無いのよ、怖くなんかないわ。 「そうかい・・?じゃあ・・、気を付けて行って来てね。」 任務の資料を畳んで私物と一緒にしまう。 私は科学班フロアの重い扉を開いて足を止めた。 「コムイ、さん・・。」 勿論、振り向いたりはしない。 「有り難う・・。」 ―・・唯一、私達2人を普通の女の子として見ていてくれていた『ヒト』。 「ニカの事・・宜しくお願いします・・ね。」 「ちょ・・、ミツキちゃ・・」 パタン・・ 何も悲しくなんてないの、失うものは何もないの、生きていたくなんてないの。 私には何もなかったのよ・・、始めから・・。 俯いて階段を下って行くと、誰かの足。 視線だけを動かして確認する。 「・・神田・・・・?」 「チッ・・。」 ---------- 「お前はそれで良いのか?」 「良いから行くんじゃない。止めたって無駄よ。」 何を言い出すのかと思えば・・。 それに貴方に止められる筋合いは無いわ。 「・・もし何かあったらニカはどうなる。」 「もう、良いのよ・・。あの子に私は必要無いから・・」 ニカには・・貴方がいるじゃないの・・。 キュッと団服を握り締める。 私の決心は、決して揺るがないの・・例えニカに止められたとしても。 誰にも止められないのよ。 「阿呆か、お前。」 「っ、」 神田の言葉に俯いていた顔を上げる。 「ニカはお前と居る時俺が見た事の無いような顔で笑ってたぜ?」 「・・、もう何も言わないで。」 「お前と一緒に寝なかったのも護るって約束があったから心配掛けたく無かったんだろ。」 「止・・めて。」 「一緒に過ごした時間まで忘れちまったのか?」 「止めてって言ってるでしょ!!」 沈黙。 神田は怯む事無く私を見据えていた。 「約束が何よ・・思い出が何よ・・、そんなものどうでも良いのよ・・!!」 ねえ、ニカ・・ 「何時までも二人で居たかったのに、帰って来た時ニカの時間は進んでいたわ・・っ。」 こんな事言ったら―・・ 「私は置いて行かれてたのよ・・っ、唯一の居場所はもう無いのよ・・!」 私の事、嫌いになるわよね。 「もう、辛いのよ・・!嫉妬するのも、誰かを恨むのも、生きる事も・・。疲れちゃったの・・。」 ニカ・・私、貴方の事がとても好きよ。 誰にもとられたく無かった・・居場所を失いたくなかった・・。 私はニカ無しでは生きて行けないのよ・・。 ・・さよらなも言わないで貴方の前から消えてしまう事、どうか許して。 ありがとうも言わないで貴方の前から消えてしまう事・・どうか・・・・ 悲しくなんか無いのに涙は流れると言う事を、私は初めて知った。 ×
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