NO.TIE.TLE | ナノ


どうやら部屋の外に出て欲しいらしく、放っておいた上着を着て扉を開いた。


「キャン、キャン!」


「吠えるな、夜中だ・・ぞ・・」


・・まて?


前にも一度、こんな事があったよな。


―・・まさか


「セツ、ニカに何かあったのか?」


「キャン!」


チィ・・っ


帰って来ないんで何をしているのかと思えば・・!


「あの馬鹿・・!」


俺は薄暗い廊下を駆けて行くセツを見失わないように追った。





「・・この階か?」


「クゥーン・・。」


俺達の階の、一つ上。


暫く歩くとセツは足を止めた。


「キャン!」


視線の先にはミツキ。


両手で顔を覆って、廊下に座りこんでいる。


彼女の部屋だろうか、開かれた扉からは何かが割れる音が漏れていた。


きっとニカだろう。


案の定、その部屋の窓硝子は全て割れていて、血だらけのニカが風の吹き抜ける窓に身を乗り出していた。


「ニカ!」


「違、う!何も・・起きてな・・っ」


あのままだと外に落ちる・・!


俺はベッドに上がり、暴れるニカの身体を後ろから捕えた。


「触る、なっ触るなよ・・!」


「落ちつけ!俺だ!神田だ!」


耳元で怒鳴る。


すると、ニカはピタリと動きを止め振り返らずに言った。


「・・か・・ん、だ・・・・・・?」


握られた硝子が床へ落下して割れた。


震えるニカの身体を強く抱き締めて、安心させるように優しく身体を叩いてやる。


「そうだ・・神田だ・・。」


刹那、ニカの身体から力が抜けた。


未だに刻まれた無数の傷口からは鮮血が流れていて、止血の為に着ていた上着をニカの肩に駆けて両袖を縛る。


そして抱き抱えた。


「コムイの所に連れて行くが、お前も行くか?」


廊下に座り込み、唖然とニカを見上げるミツキに訊ねる。


「わ、たし・・。」


「・・来るなら来い。」


それだけ告げて、足早にその場を後にした。





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「うん、大丈夫だよ。でも少し症状が悪化してるのが気になるね。メンテナンスの時に少し課題を増やしてみるか・・。」


科学班フロアのソファーに寝かされているニカ。


コムイは彼女の身体を調べ終えると資料に何かを書きながら言った。


「でも、神田君の呼び掛けに反応するなんて大分心を開いたんじゃ無いのかな。」


初めは限界まで自分を傷付けて、意識を手放す・・それだけだった。


大きな進歩だよ。


それを聞いた神田はそっとニカの頭を撫でて乱れた前髪を直す。


「コムイ、」


「ん?」


「ニカは―・・」


メンテナンスを受けないと死んでしまうのか?


そう訊きたかったのだが、返答が怖くて止める。


答えなんて解っていたから。


神田の訊きたい事を見透かしたコムイは溜め眉をハの時にして微笑みながら息を吐き言った。


「でも・・、吃驚しちゃったよ。」


「何がだ?」


「だってニカ、神田君の前だと笑うんだもーん♪」


「あ?」


「嫌だなあ、とぼけちゃって!二人してにっこにこにっこにこセツの散歩してさ!羨ましいったら無いよ!」


「な・・!別に笑ってなんか・・」


「いーや!あれは笑ってたね!」


「話し聞け!!」





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科学班フロアの扉の向こう。


微かに開いた扉から中での会話を聞いていたミツキは頬に流れる涙を隠すように俯いた。





さっき・・ニカは私の言葉に反応しなかったのに、あの人の言葉には反応した。


誰にも心を開くことの無かったニカが誰かと同じ部屋で暮らして、眠って・・笑い合って。


閉ざされた扉が開かれたような気がした、だなんて嘘・・ただ自惚れていただけよ。


私には出来なかった・・。


本当に開いたのは神田の方。私に許されない事まで簡単にやり遂げた・・。


時は進んでいたのね、置いていかれてたのは私だけ。


笑っちゃうわよ・・本当に。


本当は解っていたのよ。


いつまでもこのままじゃいられないって・・。


唯一の私の居場所だった。


いつまでも其処に有るって信じていたかった。


それだけなのよ。


・・信じてたの。


でも、それも今日で全てオシマイ。


私は見たわ。


ニカは気を失っていながらも・・自分を抱き上げる神田の服を強く握り締めていた。


早く気付けば・・ううん、見て見ぬふりなんてしなければ良かったのよ。


私以外がニカの側にいる時点で、昔と違うじゃない。


直ぐにわかったはずなのに・・


なのに・・私は・・


「・・ふふ・・っ本当に・・」


私は、馬鹿ねぇ・・






→第十三夜に続く



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