「生命反応確認!二人目です!!」 「よし・・世界の波は我々に向いて来ているぞ!」 「サンプル名は!?」 「『ニカ』です!」 『ミツキ』が生まれた翌日に目覚めた『ニカ』。 『ニカ』の存在により、『ミツキ』の人生はどん底へと突き落とされる事になる。 それは『ニカ』が目覚めて直ぐに―・・ 「お前の名は―・・」 「わ、たし、は『ニカ』。世界を救う、為に・・生まれて来たの、でしょう?」 己の事ですら全てを見透かすその碧眼に、これから起こる事全ての予知。 それは生まれ持った力だった。 一瞬にして周りの人間は『ニカ』を神だと謳い、崇めた。 そして『ミツキ』は―・・ 「何故同じ環境で生まれたのにあんなにも劣って・・」 「シッ、聞こえるぞ。」 目を覚ました翌日に、何もしないまま全てを失った。 生きる意味、生きる術、何の為にこの世に生を受けたのか・・。 耳を塞いでも聞こえる罵倒に、次第に心が歪んで行く少女。 この世に存在するもの全てを憎み、呪った。 そして―・・ 「『ニカ』、これから教団に向かうぞ。解っているな?」 「は、い・・。」 『ニカ』が"最期の瞬間(トキ)"の阻止の為に教団へ送られようとしていた最中に、悲劇は起こった。 「止めなさい!」 「下がるんだ、『ミツキ』!」 ヒトとして生きる事すら許されなくなった少女はイノセンスを手に『ニカ』に襲い掛かった。 既に血の染み込んだ矛で『ニカ』の胸を一刺しする。 しかし、治癒力が邪魔して中々息の根を止められない。 『ミツキ』はイノセンスを放り捨てて己の小さい手で泣きながら『ニカ』の首を締めた。 『ニカ』が息絶えても尚、それは続いた。 事が収まったのはそれから半日後の話しだったと言う。 「何故アイツは抵抗しなかったんだ・・?」 息を飲む神田。 膝の上で腕を組み、俯いた。 「あの頃のニカは歩く事だけで精一杯だったんだよ。教団に来た時にこれで本当に戦えるのか・・って、正直そう思った。」 掠れた声で、上手く喋る事すら出来ないのに戦場に送り出すなんて・・本当はしたくなかった。 それに・・ 「ニカは全てを見透かす力の所為で『ミツキ』の心を知っていた。逆に抵抗してはいけないと思ったのかも知れない。人の人生を狂わせたのだから同等の罰は受けようって。」 『ミツキ』が背負う罪を受け入れた『ニカ』。 彼女は本来なら罪を背負うべきなのはヒトだと言う事を知っていたはずだった。 それでも自分を犠牲に、何時しか大切だと感じるようになった『ミツキ』を護る為に。 彼女達の間には僕達には見えないような、深い何かが存在した。 歪んだ、愛のような―・・ 俺はお前の為なら何でもすると、あの時誓った。 勝手な人間共に造られ、期待され、俺が居た為に捨てられ。 お前の時間はあの日を境に止まってしまった。 ならば、俺がヒトとしてすら生きる事を許されないお前の罪を背負おうじゃないか。 天使のようなその笑顔を護れるなら何だってするから。 どんなに歪んだ愛だって受け入れるから。 俺の時間も止めるから。 お前が何度俺を殺しても、あの日から何も変わらないんだ。 お前さえ居てくれればそれで良いんだよ。 だから、もう何処にも行くなよ。 お前はただ、俺の側で笑っていてくれればいい・・それだけなんだ。 →第十一夜に続く ×
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