『ミツキ』とか言う女の話しを聞いた。 ニカとその女がどういう関わりを持っているのか、おおまかに・・だが。 コムイとリーバーは青ざめ、リナリーなんかは涙を溜めてただ俯いていた。 俺はただ、全身の毛が逆立つような錯覚に陥った。 それと同時に2年前の決定的な出来事を聞いて吐き気がした。 気が付けば科学班フロアを飛び出す自分。 嫌な予感がした。 ニカはきっと、『ミツキ』の"罪"を再び受け入れる。 同じ過ちを繰り返す。 今度こそニカは・・ 「ニカ!!」 今は使われていない彼女の部屋の扉を勢い良く開ける。 「テメェ、ニカから離れろ!」 ベッドに仰向けになるニカ。 その上に馬乗りになり、彼女の首を絞める『ミツキ』。 「きゃ・・っ」 腕を掴みベッドから引き摺り降ろして、ニカと距離を置かせる。 首に赤紫色の痣を作ったニカは、目を開いたまま動かなかった。 その代わりに目尻から一筋の涙が流れている。 ニカは死んでいた。 「ニカに触らないで下さいな!」 彼女を抱き上げると『ミツキ』は鋭い目付きで俺を見据えた。 悲痛な叫びを上げながらどうにかニカを奪おうと、爪を立てて腕に絡みついて来る。 怒りの度を越えた俺はニカを庇うように片手で抱き上げ、空いた手で『ミツキ』の首を掴んで壁に押し付けた。 「ガタガタ煩ぇんだよ!ニカと同じ目に合わせてやろうか!?ああ!?」 『ミツキ』の瞳に恐怖はなく、先程と変わらない目付きでただ俺を睨んでいた。 「五月蝿いのは貴方ですわ・・ニカが目を覚ましてしまいますので黙って下さらない?」 目を覚ますだと? 目を開いたまま息の根を止められたニカが? 「ふざけんじゃねぇ・・っ」 このまま同じ空間にいたらコイツを殺してしまいそうだ。 『ミツキ』の首から乱暴に手を離し、憤りを押さえるように部屋から出る。 時が来るまで死ぬ事の無いニカは今、死んでいた。 コムイの元へ連れて行こうと足早に廊下を歩いて行くと、後から追い掛けて来たのか先程の三人がこちらへ駆けて来た。 顔面蒼白でピクリとも動かない彼女を見て硬直する三人。 コムイは開いたままのニカの瞼を指でそっと閉じて言った。 「2年前とは何も変わっちゃいない・・か。」 時計の針は動いていなかった。 『ミツキ』はあと何回ニカを殺せば気が済むのだろうか。 ---------- ニカは病棟に送られても直ぐにあの女に見付かってしまうと言う事で、今は俺達の部屋でリナリーと婦長が付き添いで寝かされている。 指令室のデスクに両肘を置き、顎の下で指を絡めるコムイは事の経緯を詳しく説明し始めた。 ―・・今から約7年前 本庁ではより神に近い存在を産み出す為に実験が行われていた。 「何故だ、神は俺達を見放すと言うのか―・・」 しかし、幾らサンプルを造っても産み出すのは屍ばかり。 その内にエクソシストは次々と死亡、世界の波は確実に伯爵側へと向いて行った。 後がなくなった本庁は最後の望みをかけてある計画を企てる。 『サンプルの量産型』 それは一度に沢山の器を用意すると言うものだった。 量産型と言っても身体の構造は少しずつ異なり、赤ん坊から老人まで有りとあらゆる器を揃えた本庁は虱潰しにイノセンスを入れて行った。 そして、ある日一人の少女が目を覚ます。 「お前の名前は『ミツキ』だ。」 「『ミツキ』・・?」 当時13歳。 幼い少女は生を受けてまもなく生きる意味を知る。 戦う為に生まれて来たのだと、生きる術を徹底的に教え込まれた。 しかし・・ ×
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