NO.TIE.TLE | ナノ


「セツ、ただいま。」


「キャン!」


任務から帰還したニカと神田。


荷物も置かずに向かった先は科学班を手伝う少女の元だった。


「人見知りする奴なんだが、リナには懐いたようだな。」


二人が任務へ行っている最中にセツの面倒を見ていたのは『リナリー・リー』。


リナリーは優しくセツの頭を撫でながら言った。


「私には懐いてくれたのよ?でも、兄さんには・・。」


チラリとコムイに目を向けると、噛み付かれた跡に引っ掻き傷が身体中に刻み込まれている。


「・・セツ、まだ甘いな。次からは指の一本でも喰い千切ってやれよ。」


「キャン!」


「酷い!僕は何もしてないもん!ただちょっと毛の色を染めてみようと思っただけだもん!」


「死ね。」


「うわあぁあん!」


中指を立てるニカに、呆れる神田・・苦笑するリナリーに泣き喚くコムイ。


リーバーはその光景を見て優しく微笑んだ。


―・・ヒトの輪の中にニカが居る。


それがとても嬉しかった。





でも、知っていた。





優しいトキは直ぐに終わり、時計は残酷なトキを刻み出すと言うことを。


なぜなら今日は―・・


「そう言えば・・。今日『ミツキ』ちゃんが任務から帰還したよ。」


「!、『ミツキ』が?」


その名前を聞いたニカは大きく瞳を見開いた。


それと同時にコムイの胸ぐらを揺すり、慌てた様子で訊ねた。


「それはいつだ?何処に居んだよ吐けコラ。」


「いやん乱暴は止してよ〜っ。ついさっき帰って来て、多分今はこの前まで使ってたニカの部屋にいるんじゃない?」


ニカは神田にセツを託すと、小走りで科学班フロアから出て行く。


その光景に神田は唖然としながら口を開いた。


「『ミツキ』って、何者だ?」


しかし、その問い掛けに俯く『ミツキ』を知る三人。


コムイは険しい表情を浮かべながらも、重たい口を開いた。


「『ミツキ』は―・・」





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足早に廊下を歩くニカ。


向かった先はついこの前まで使っていた自分の部屋。


ドアノブを握ってゆっくり扉を開くと、懐かしい風景の真ん中に一人の少女が立っていた。


「ミツキ・・。」


栗色の瞳に、ウェーブがかった長い髪。


『ミツキ』はニカを見据えると微笑んで言った。


「お帰り、ニカ。」


そしてニカの胸に頬をつけ、細い腰に手を回すミツキ。


ニカはそれに答えるかのようにミツキの頭を撫でて、掠れた声で言った。


「会いたかった・・。」





2年ぶりだった。


ミツキ、お前は今まで俺を放ってどこにいたんだ?


お前の帰りをずっと、ここで待っていたんだよ。


俺はお前さえ居てくれればそれで良いんだ、何も要らないんだ。


何もない俺の心を満たしてくれるのは、お前しかいないから―・・






懐かしい香りとその笑顔に再び俺はすがり付くんだ。







第十夜 幻の天使





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