バァン! 「馬鹿師匠ー!!!また借金増えてんじゃ無ぇかコノヤロー!!!」 突然奥の部屋から姿を現す白髪の少年。 その手には『借金明細』と書かれた紙の束が握られていた。 パッとニカから離れたクロスは邪魔が入ったと溜め息を吐く。 上半身を起こしたニカは涙を拭って少年を見据えた。 「あ・・っすみません、お客さんが居たんですね。」 「否、もう帰るから。」 クロスが前々から話してた弟子って、この餓鬼の事か。 ニカはアレンの元へ歩み寄り、紅く染まった左腕に触れた。 「あ、えっと・・これは・・」 「心配すんな、解ってるから。」 「え?」 「『アレン・ウォーカー』、お前強くなるよ。」 「え?え?」 首を傾げる『アレン』。 それを見て笑い合うニカとクロス。 「おう、馬鹿弟子。その内世話になるかもしんねーから、挨拶しとけよ。」 「?、よろしくお願いします・・?」 「・・餓鬼のお守りは苦手だ。」 「餓、鬼・・!?」 「「餓鬼じゃ無ぇのか?」」 「・・・・・・。」 ---------- 「もう帰んのかよ。」 家の外へ出る彼女。 外は既に、朝日が顔をちらつかせていた。 「ああ、別に用は無かったんだ。ただ会っておきたかっただけ。もうすぐアレ(最後の瞬間"トキ")が訪れるからな、暫くは好きに動けない。」 「・・もうそんな季節か。」 一回目のアレから既に7年。 クロスは月日が経つのは早い、と溜め息を吐いた。 「・・死ぬなよ、ニカ。」 アレは俺達元帥が動いたところで何も変わらない、お前じゃないと駄目なんだ。 阻止出来ない。 「・・解ってる。じゃあ、また会おう。」 一瞬、ニカは酷く冷たい表情を浮かべた。 それを見逃さなかったクロスは去り行く彼女の背中に呟いた。 「『神様のレプリカ』・・最大の禁忌・・か。」 「師匠、誰ですか?あの人・・。」 「あ?教団のエクソシストだ。」 「ええぇぇええ!!」 「何だ馬鹿弟子。一目惚れでもしたか。」 「・・そういう趣味は無いです。」 「何を言う。アイツは女だ。」 「・・・・ええぇぇええ!!」 彼女が『男』になったのは、何時からだっただろうか―・・ ---------- 「探した。」 ニカが宿屋に戻ってからの第一声。 神田は何時もより更に深く眉間に皺を刻み込んで彼女の帰りを待っていた。 「置き手紙読んだろ?」 「・・・・・・。」 目が覚めたらニカが居らず、変わりに置き手紙があった。 ・・でも、心配だろ。 毎晩毎晩、あの症状に魘されているんだ。 今度こそ血を流すだけじゃ済まされないかと、帰って来ないのでは無いかと、もしもの時の事だって考える。 「・・次一人でどっか出掛ける時は叩き起こしてでもちゃんと言ってけ。」 じゃないと不安なんだ。 それを聞いたニカは口をへの字にして、煙草に火を点け神田に背を向けた。 「わ、るかった、な・・。」 「・・・・・・・・・・あぁ?」 「その・・心配かけて・・。」 目を見開く神田。 驚愕のあまり眉間からは皺が消え、ただ彼女を見据えた。 ニカは煙草を吸い一呼吸置くと、聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で確かに言った。 「それと・・・・あり、がとう・・・・。」 ―・・ 「お前熱あんじゃねぇのか!?」 「はあ!?ねぇし!!!」 なあ・・ニカ、この時お前はどんな気持ちで『ありがとう』と言ったんだ? 俺はお前の紅くなった顔が新鮮で、可愛くて、さらに惹かれて、どうしようもなく好きになって行ったんだ。 だが この時既に、運命の歯車は狂い始めていた。 生きようとしないお前。 何も出来ない俺。 お前が見ている闇を全て知っているつもりでいた。 浅はかだった。 とんだ勘違いだ。 お前の時計は止まっていた。 →第十夜に続く ×
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