今の至近距離でやっと一撃・・。 同じ『レプリカ』である彼には予知能力は効かない・・否、確かに動きは見えているが、相手も同じ能力を兼ね備えているので全く意味が無い。 「(ダークマターの所為か・・7年前よりも攻撃が重い・・)」 今の所彼の攻撃は防げているが、そう何発もまともに食らえるものじゃない。 治癒力の速さよりも攻撃の早さの方が勝っている。 ―・・でかい一撃を食らわせた方が早いな。 全神経を集中させ、痛いなあと自分の腹を擦る心理のレプリカに、今度は自分が仕掛ける。 床を強く蹴り、トップスピードで間を縮め、胸倉を掴み地面に叩き付ける。 感触と、頬に飛んだ返り血で確かな手ごたえを感じた。 ―・・逝った・・・・! と思った束の間の出来事だった。 「っ!」 本来なら身体の骨が折れ意識すらも失う程の攻撃だっただろうが、一瞬消えた心理のレプリカの殺気を再び感じた。 刹那、ドス、ドス、と身体に衝撃が走る。 目をやると、黒く鋭い二本の剣が自分の身体を貫通していた。 「カハッ!」 「伯爵は・・僕にいいモノをくれたなぁ。」 剣の正体は、彼の言葉からきっとニカの予知夢を覗いたあれと同じように、『アクマ』の能力だと確信する。 そう、伯爵の犬で無くても、嘗ての記憶がしっかりあっても、彼は『アクマ』なのだ。 本当の彼は魂を縛り付けられたまま・・きっと苦しんでいるに違いない。 両手に持った二本の剣でニカの身体を裂こうとする心理のレプリカ。 それに伴う激痛に表情を歪め、血を吐き捨てながらも、彼を掴む手の力は緩めない。 「重力」 そして、這い上がろうとする心理のレプリカにかかる重力をイノセンスで操作し、加え、追い討ちをかける。 「・・っこれは・・ちょっと、辛い・・」 「このまま重力に押し潰されろ。」 だんだんと重くなって行く重力にニカを刺す剣が抜けそうになる。 お互い辛そうに表情を歪めながら、一歩も引かない・・我慢比べ状態だ。 「く・・っ」 次第に言う事を聞かなくなっていく身体に、ついにニカを刺す刀がカラン、と抜ける。 しかし心理はそれとは裏腹に、ニッ、と不敵な笑みを浮かべるのだった。 再び飛び散る赤。 誰も触れていない二本の剣の刃がニカの両肩に圧し掛かるようにして刺さった。 「・・実の妹に・・」 「お前こそ実の兄に・・っ」 そう余裕ぶるが、だんだんと目の前が霞んで来た。 激痛の所為で呼吸が上手く出来ない・・気が遠くなりそうだ・・意識が朦朧と・・ 目の前が暗く・・ 身体の節々から血を流し、冷や汗をかき、ニカの瞳から光が失われて行くのを見た真理のレプリカは重力で上手く動かせない己の腕を無理矢理動かしニカの頬に添えた。 「頑張れ。」 冷たい手。 「僕を壊せるのはキミしかいないんだ。」 うん・・ 「どうか、世界を・・救って・・」 兄さん・・ ドッ 意識を浮上させようと、イノセンスを最大限まで発動させる。 青い光がニカの身体の周りを囲み、そして負った傷が、みるみる内に治癒して行く。 「今助けるから、兄さん」 きっと、7年前と変わらない肉体にアクマの能力を備え付けられた心理のレプリカには勝てないだろう。 いくら自分があの時から成長しているとは言え、彼ほど強い存在をあれから7年経った今でも見た事が無いのだ。 通常時でイノセンスとのシンクロ率は100%を越えているが、最大限解放させるのは初めてだった。 どんなリスクがあるのか・・自分がどれ程の力を出せるのか・・全てが未知数で 少しだけ・・怖かった。 でもそれはきっと、居場所が在るからで、自分を待っていてくれる人がいるからで。 『俺がお前の居場所になる』 居場所が、あるからで・・。 心理のレプリカから手を離したニカは身体からとめどなく溢れる青い光を揺らして立ち上がり、身体と同様、燃えるような青い瞳で真っ直ぐと彼を見据えた。 「それでいい・・。必死になるお前を殺す事に、意味がある。」 だから、何があっても生きて。 →第二十七夜に続く ×
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