懐かしい香りがする。 まだ地球の自然に『生』があった頃に感じた、懐かしい香り。 太陽の光が燦々と降り注ぎ、瞼を閉じていても眼球を突き刺すくらいの、雲一つ無い青空。 眩しい・・ そして 「重い・・お前いつまで乗ってんだよ・・。」 呆れ顔で上半身を起こし、己の腹部に覆いかぶさるように抱きつく『心理のレプリカ』の額を小突く。 「痛っ!・・7年ぶりの再会で一言目がそれ?」 と言いながらも、ふふっと嬉しそうに笑う。 「一発目胸貫いた奴に言われたくないな。」 左胸を中心に、血塗れになった服。 ったく、ピンポイントに心臓を狙って来やがったな、と溜息を漏らす。 まあ、傷口は既に塞がっているので何も問題はないのだが。 「『普通』なら死んでたぞ。」 胸のポケットから煙草を取り出す。 己の能力で火をつけようとするが、既に煙草から煙が上がっていて、チラりと心理のレプリカに視線を移す。 「僕はニカが『普通』じゃないって知っているから。」 変わらない、嬉しそうな笑顔で言う彼。 ニカは眉間に皺を寄せ、煙を吐くのと一緒に口を開いた。 「・・で?あのデブとつるむのは止めたのか。」 予想では、世界を滅ぼす為に『心理のレプリカ』を復活させたのは伯爵だと。 しかし、この場に奴はいない。 「つるむも何も、最初から僕にその気はないよ。僕を蘇らせてくれた事実だけは感謝しているけれど、彼の目的と僕の目的に少々ズレが生じているようで。」 「ズレ?」 スッ、とニカの頬に手を伸ばす心理のレプリカ。 7年ぶりにニカの温もりを感じた彼の指は歓喜のあまり震えていた。 「彼の目的はこの世界を・・ニカを、そしてエクソシストを追い詰める事だ・・。」 ―・・ゾクゾクする。 今、目の前にずっと会いたかった彼女がいる、触れている・・話している。 夢みたいだ。 「でもね、僕の目的はニカ・・キミなんだよ。」 僕はずっと待っていた。 「またキミに会える事を・・それだけを思ってこの7年間ずっと待っていたんだ。」 閉ざされた空間で。 日の光も生命も無い、深い暗闇で・・。 初めて会った瞬間からずっと忘れられない思いをこの胸に秘めて。 「なのに・・」 瞬間、『心理のレプリカ』から放たれる優しいモノが一瞬にして歪んだモノに様変わりした。 それを感じ取ったニカは彼の手から逃れ、間合いを置いた。 彼女がくわえていた煙草は綺麗に切断され短くなり、火種部分は地面に咲いたアネモネの中に埋もれ、チリチリと葉を焦がしていた。 影になり見えない彼の顔をじっと見つめる。 「知っているだろう?僕は嫉妬深いんだ。他のヤツとあんな風に一緒になるだなんて、許せない。ニカも僕だけを見てくれていればいいんだ。僕だってずっとニカだけを見てきたんだから。」 あの頃と比べて、ずっと人間らしく表情を出すようになったね・・ 「愛してるよ。」 きっと苦しみもがく姿は、宇宙に存在する全てのモノよりも僕好みで、美しく、嘗て無い程の快感を見出せるのだろう。 「だから・・」 殺サセテ 7年前の彼とは打って変わって、忌々しい笑みを浮かべていた・・そりゃあ、今の彼は伯爵が造った玩具だろうが。 そうであって、そうでない。 言ってる事は昔と同じなので完全に犬になった訳じゃなさそうだが・・こんなにも憎しみを表情に出すような奴だっただろうか。 くわえていた煙草を燃し、来るであろう攻撃に備え警戒するニカ。 そんな彼女が瞬きをしている内に、視界から忽然と姿を消す心理のレプリカ。 刹那、ズァ、と、地面が沈んだ。 「チィ・・ッ」 間一髪で避ければ先程まで立っていた部分がボロリと崩れ、抉れた。 体勢を立て直す間も無く襲い来る心理。 ニカは、常人には見えない素早い攻撃を次々と避けて行き、一瞬の隙をついて彼の腹を蹴り上げた。 「ッ!」 少し表情を歪め飛ばされるも、空中で身体を捻り地面に着地する。 ×
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