「ヘブ君!どうしたんだい!」 黒の教団。 突然、管理していたキューブが暴れ出したヘブラスカにコムイとリーバーが駆け寄る。 「何か・・大きな力と・・共鳴しているようだ・・」 大きな力・・つい、7年前の最後の瞬間の事を思い出し、ゴクリと生唾を飲み込む。 科学班一同で最後の瞬間の事を調べていた時だったので、たまたま手に持っていた、それに関連する資料を捲りながらリーバーが口を開いた。 「7年前、心理のレプリカと接触の際にニカは臨界点を突破しましたが・・今のヘブラスカの状態は当時と全く同じです。」 ―・・でも、どうして? 「二度目の共鳴は異例だ・・」 そう、異例だった。 嘗ての資料の中に二度の共鳴を引き起こしたエクソシストは存在しない。 そして、一度臨界点を突破しているので今回の共鳴はそれとは無関係の可能性があるのだった。 「原因は・・解からない・・。ただ・・『大き過ぎる力』は・・己(適合者)の身を滅ぼし・・そして・・」 第二十七夜 最後の瞬間 third ―・・何だ? 動きがやたらスローに見える。 微かに吹く風が肌に掠めるだけで、神経が過敏に反応する。 相手の動きが・・気配が・・手に取るように解かる。 全てが鮮明―・・ ニカに倒された身体を起こし立ち上がる心理のレプリカは、彼女から溢れる青い光を見てフッ、と微笑を漏らした。 7年前に『生』を失い、枯れた地球を救った・・、突然空から降り注いだあの光と同じ色をしている。 ―未知数の彼女の能力。 其れを見て驚く反面、とてもわくわくしている自分が居た。 最大限の彼女の力を捻じ曲げ、苦しみ死んで行く姿を、必ずこの手で実現させてやる―…己の内側から更に湧き出て来る殺気が己を駆り立たせる。 快感を得たい、と感情に任せ地面を蹴る心理のレプリカ。 両手に持つ二本の剣を彼女に振り翳すが、肉を切った感触は無く、変わりに切先が土に突き刺さって居た。 刹那、後ろからの衝撃。 背中を蹴られ、地面に叩き付けられ、アネモネの花を散らしながら土の上を滑って行く。 「・・・・っ!気配が・・」 ニカの気配が無い・・否、極限まで消しているだけか・・? 身体を起こそうと地面に手をつけば何時距離を縮めたのか己の顔の前に彼女の足が在り、思わず息を飲む。 顔面を蹴り上げられ、空中へ飛ばされたかと思えば今度は頭上から蹴り落とされ、再び地面へと叩き付けられた。 今の間、自分の視界に一度もニカの姿を捉えられていない。 一瞬感じた恐怖・・。 背筋がゾクッとした。 二本の剣を支えにして、やっとの思いで立ち上がる。 やっと真っ直ぐと見据える事の出来た彼女の身体は相変わらず青い光に包まれ、そして、透けていた―・・ 心が・・何も感じない。 殺されそうになる真理のレプリカの姿を見ても、何も思わない。 『殺されそうになる』? 違うだろ・・殺そうとしているのは自分で、他人事じゃないんだ。 自分の意志がだんだんと薄れて行く。 これじゃまるでイノセンス(意志)に乗っ取られたただの操り人形だ。 まだ『ニカ』を消さないでくれ。 『ニカ』で居させてくれ・・。 『更なる災いを招く事となるだろう』 「っ!」 何かを感じた神田。 「ユウ!?どうしたさ!!」 神田が突然戦う事を止め後ろを振り返った事に気付いたラビは鉄槌でアクマを破壊しながら問うた。 ドクッドクッと五月蝿い位に鳴る心臓―・・ 「今・・ニカの気配が・・」 消えた ×
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