拍手お礼ログ5

■ 拍手お礼 連載ミニ小説(番外編)

拍手連載番外編です。
大学生バッツと高校生スコールのお話(二人はゲーセン仲間)

本編ログこちらです。↓
(1) (2) (3) (4)




■(連載番外編1)


いつものゲームセンターで遊んだ後のことだった。

バッツとスコールは休憩用に利用する場所の一つである喫茶店で遊んだ後の雑談をすることにした。
飲み物と軽食でも取りながら、今日の学校での出来事や遊んだゲームの感想、攻略方法など、他愛もない話をするのが二人にとって遊んだ後のちょっとした楽しみである。

注文を取りに来た店員に、スコールはコーヒーとホットサンドを注文した。
対するバッツはコーヒーのみ頼み「とりあえず、以上で!」と言うと店員は奥に引っ込んだ。

いつもなら、飲み物と軽食かケーキ類を頼むバッツが飲み物だけなのに、不思議に思ったスコールがバッツに問うと、彼は困ったような笑顔で頭を掻いた。


「今月ちょっと急な出費があったからさ〜。バイト代が入るまでちょっと間食はやめておこうと思ってさ。」
「・・・きついのか?」
「いや、大丈夫。食費やゲーセンで遊ぶ分とかはあんまり削りたくなくて。でも、大丈夫だよ。あと5日だし、間食さえしなければ平気平気。」

からからと笑いながらバッツは何でもないと手を振ると、ちょうど店員が注文の品を持ってきた。
コーヒー二つとホットサンドがテーブルに置かれると、バッツは自分の分のコーヒーを取り、嬉しそうにそれを飲みはじめた。

ここのコーヒーはサイフォン式のコーヒーでとても美味しく、二人とも気に入っている。
しかし、遊んだ後の小腹がすいた状態で飲み物だけでは物足りないだろうとスコールは思い、半分に切られたホットサンドをバッツの方に押しやった。


「半分もらってくれ。それと、今日のコーヒー代は俺が出す。」
「え、悪いからいいよ。」

いくら金欠とはいえ、高校生に奢られてしまうのは気が引ける。
バッツはいいよとばかりに手を振ると、今度はスコールが首を振る。


「あんたに奢られたことがあるから、いい。ホットサンドも思ったより大きいから俺は半分で十分だ。」

目を丸くするバッツにスコールは自分の分の半分を手に取り、残った半分は皿に乗せたままバッツの目の前に置く。
バッツはホットサンドとスコールを交互に見ると、やがて嬉しそうに笑いながらホットサンドを手に取って頬張った。


「へへっ、じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。・・・ん、うまい!」

うまいうまいと言いながらバッツが食べ始めると、スコールもそれにならって食べ始めた。
半分のホットサンドで小腹を満たすと、コーヒーを飲みながら雑談をする。


「そういえばさ、おごってもらってなんだけどさ、スコールのお財布事情は大丈夫なのか?高校生のお小遣いってたかが知れてるだろ?」

高校生といっても、できるバイトの種類は大学生に比べて限定される上に、校則で禁止されている学校もある。
スコールは進学校に通っているため、確かバイトは禁止されていると聞いたことがあった。
そうなると、月々の小遣いでどう賄っているのか気になったのだ。

バッツの問いに、スコールは少し言いにくそうに小さな声で呟いた。


「・・・月々の小遣い以外からもあるから大丈夫だ。」
「え?だっておまえの通ってる高校は結構な進学校でバイトは無理だって言ってなかったか?たしか停学になるって。」

バッツがそう指摘をすると、スコールはしまったという顔をする。
何か怪しいスコールの態度にバッツは眉をひそめた。

真面目な彼が校則を破ってまでバイトをするとは思えないが、もしかしたら、人に言えないようなことをして得ているお金なのかもしれない。
もし、それが当たりで真っ当な人の道を踏み外そうとしているなら、ここは年上の自分が道を正してやらなければいけない。


「・・・いったいどうやって小遣いを稼いでいるんだ?賭け事とか言えないようなことをしているんじゃないだろうな?」

珍しく真面目な顔で自分を問いただすバッツに、スコールは目を逸らした。
どうやらかなり言いづらいらしいスコールの様子にバッツはますます怪しんでいると、スコールは一瞬バッツの方に視線を戻して、また逸らすと「大丈夫だから。」と小さく呟いてきた。


「・・・あんた、何か勘違いしていそうだが、安心してくれ。やましい金ではないから大丈夫だ。」
「じゃ、話せるよな?」

間髪入れず突っ込み、話せとばかりに身を乗り出すバッツに、スコールは思わず身を引いた。
バッツの様子から、どうやら話さなければ、いつまでもこの状態で問い詰められるだろうと予想した。

無言の圧力で自分を追い詰めようとするバッツに、スコールはため息を吐いて、白状し始めた。


「・・・家事手伝い。」
「・・・は?」

小さな声で呟かれた真相にバッツは2、3度続けて瞬きをすると、目を皿のようにしてスコールを見つめる。
スコールはその視線から逃れるように、顔を背け、さらに小さな声でぼそぼそと説明し始めた。

「家事手伝いで小遣いが決まるんだ。・・・俺の家は父子家庭で家の手伝いをすることで毎月の小遣いの額が決まる。」
「・・・手伝いって洗い物30ギル、洗濯物50ギルとかそんなのか?」


バッツの問いかけはどうやら当たっているらしく、スコールの顔が赤くなる。

スコールがいつものしかめっ面で毎日ちまちまとそれらをカウントしている姿を想像すると、可笑しくて、腹の底から笑いが込み上げてきた。

「ぷっ!あははは!なんだそうだったのか!おれ、おまえがなんか悪さして稼いでるかと少し疑っちまった!」
「そんなわけないだろう!」

腹を抱えて大笑いをするバッツにスコールは眉を吊り上げて突っ込んできた。

自分がどう人に見られているかをきちんとわかっているスコールだからこそ、自分のイメージと合わない小遣いの稼ぎ方を言えばどのような反応が返ってくるか分っていたのだろう。

笑いが止まらないバッツを苦々しい表情で見ている。


「ははは!しかしお前、家事手伝いでお小遣いって、小学生か中学生みたいだな!そ、そんな大人っぽい外見で家事手伝い!やっぱりノートとかにいちいち控えるのか?かわいいなぁ!」
「悪かったな!だから言いたくなかったんだ。いい加減笑うのをやめろ!」
「ははっ!悪い、ごめん!けど、家事手伝いもりっぱな労働だよ。えらいえらい。」

先程バッツに小学生か中学みたいだと言われて、内心不愉快なのにさらに子供を褒めるかのような言い方をされてしまい、スコールはますます不機嫌そうな顔になった。
どうやらこれ以上言えば彼の機嫌を余計損ねるだろうと思ったバッツは笑いをなんとか納めて、コーヒーを一口飲んだ。


「じゃ、今日はスコールの労働から得たお金でありがたくごちそうになるとするよ。ありがとな。」

明るい笑顔でコーヒーを味わうバッツにスコールは片手で顔を覆い、俯いた。

彼に淡い想いを抱いているスコールは常日頃から、彼との年齢差を気にし、年上ゆえの余裕や頼もしさなどを見せる彼に少しでも近付ければと思う時があった。
今回は、まさかこのようなことで彼との差を感じるとは思わなかった。

「(早く高校を卒業して、バイトができるようになりたいと思ったのは初めてだ・・・。)」

バッツとは対照的に暗い表情で脱力しながらスコールは冷めかけたコーヒーを味わったのだった。


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実は家事手伝いでお小遣いを得ていたスコール少年。
大学生のバッツさんはともかく、高校生だと月のお小遣いで頻繁にゲーセン行ったり、お茶したりは難しいと思うんです。

黙々と家事手伝いをしてそれを毎日書きとめるスコさん・・・(笑)






■(連載番外編2)


今回のお話は、連載時になかったお互いの名前を知るまでのお話です。
この話だけで読めなくもないとは思いますが、できれば連載ログ(1)を先に読まれた方が内容がスムーズに入るかと思います(宣伝すみません;)




ゲーム内でしか知らない相手と現実で出会うことなんて初めてだった。
ゲームセンターの店内ランキング表でお互いニックネームしか知らなかった二人だったが、知り合うきっかけはほんの少しのきっかけと偶然であった。


せっかく知り合ったのだから仲良くなりたいと思ったバッツは、立ち話もなんだからと、二人で店内にある休憩コーナーに移動し、改めて話をすることにした。

「まさかグリーヴァさんに会えるとは思わなかった。あ、おれの名前ですけど、バッツ・クラウザーです。」

よろしくとばかりに手を差し出すと、相手は少し遠慮がちにその手を握り返してきた。

「スコール・レオンハートです。・・・よろしく」

軽く握手をすると、バッツはにっこりと微笑んだが、相手はあまり表情を変えなかった。
少ししか話をしていないが相手の言動からどうやらあまり人と接するのが得意ではないのかもしれないと思っていたので特に気にしないことにした。

これから接する機会があるのだから、少しずつ仲良くなれればそれでいいと思ったからだった。


「ありがとう。これからよろしく?」
「・・・はい。」

相手が、スコールが首肯したことに取りあえず初めの一歩は大丈夫だったかとバッツは安堵すると、二人で休憩コーナーの椅子に腰かけ少し遠慮がちながらも色々と話をし始めた。

いつからこのゲーセンに通っていたか、お気に入りのゲームは何か、最近配信された音楽ゲームの新曲はプレイしたのかなど、最初はゲーム中心の話題で盛り上がった。
お互い何に興味を持っているのかわからなかったこともあったのだが、話すなら楽しく話したいと思ったこともあったからだ。

ゲームの話題で盛り上がったことによって少しずつではあるが、スコールの固かった雰囲気が幾分か和らいできていた。


「だいぶ打ち解けたと思うし、敬語やめにしません?たぶん同い年くらいだろうし、これからは名前で呼ばせてもらおうと思うよ。」
「ええ・・・いや、ああ。俺も敬語じゃない方がありがたい。」
「ありがとう、じゃあ、スコールって呼ぶな。そういえば、学校は何年?」

バッツが見たところ、スコールは自分と同い年か少し上くらいだと予想した。
大学生ではなく、社会人の可能性も考えたのだが、それならもう少し人と接するのに慣れているだろうからまだ、学生である可能性が高いと思ったのだ。

対するスコールは何かが引っかかるのか、少し眉を寄せたあとに、バッツの問いに答えた。


「・・・2年。」
「じゃ、おれと一緒だなぁ。同じ学校かな?しかし、大人っぽいな、おれより上に見えるよ。この辺で一人暮らししてるの?」

一人暮らしかと言われてスコールはさらに眉を顰めた。

スコールはこの近くの高校に通っている。

自分の通っている高校は自宅から通っている生徒が大半だ。
ただ、一人暮らしをしている学生もごくわずかだがいないことはない。

「いや、自宅から。バッツ・・・は一人暮らしなのか?」

敬語じゃなくてもいいと言われたが、名前を呼び捨てで呼ぶことに生真面目なスコールには少し抵抗を感じる。
バッツはスコールが躊躇いがちに自分の名前を呼び捨てにすることを気にもせず、快活に笑いながら答えた。


「ああ。家から通えなかったからさ。近くの学生マンションで一人暮らしでそこから通ってるよ。」
「へえ。」

そう答えて、買ってきた缶コーヒーを飲むバッツをスコールは観察する。

見かけは自分と同じ高校生・・・のようにみえる。
顔つきは子供っぽく、体格も自分よりやや身長が低いくらいで、痩せている。
高校生と言われてもおかしいところはないように見える。。

けれど、なにか引っかかる。

「(バッツは俺と同い年だったのか。・・・けど・・・。)」

スコールはバッツが持っているカバンに目を落とす。
カバンの口が開いているので中にどのような本が入っているのかすぐにわかる。
中の本はみたところ高校生が使うとは思えない教科書・・・専門書が詰まっている。

とても高校生が使うものではない。
学年が2年で同じとは言っていたが、もしかして、高校ではなく、大学のことを言っているのではないのかと思った。

この近くに大きな大学があったはずなので、そこの学生ではないのだろうか?とスコールは思った。


「あの・・・。」
「何?」

缶コーヒーをテーブルに置いて首を傾げて聞いてくるバッツに、スコールは言おうかどうか一瞬迷ったものの、思い切って切り出すことにした。

「俺が通ってる学校・・・バラム・ガーデン校なんだが。・・・あんたと同じ学校か?」

言いにくそうにスコールが言うとバッツは目を丸くする。

バラム・ガーデン校は・・・たしかこの辺で有名な進学校だと地元組の大学の友人に聞いたことがある。
大学ではなく、高校だったはず。


「・・・ガーデン校って・・・スコールって高校生!??」
「・・・・ああ。」

椅子から立ち上がって自分を指差し驚くバッツに、「やっぱり勘違いしていたか。」とスコールはため息を吐いた。

今日は土曜日で制服ではなく私服だったためわからなかったのだろう。
目に見えて狼狽えはじめるバッツに勘違いをしていて驚いたとはいえ、さすがにそれは失礼ではないかとスコールは思った。


「だって、2年って!!」
「俺は高2だ。あんたの外見で同い年くらいかと一瞬思ったが、鞄の中の参考書、どうみても高校生用ではなかったから。」

スコールもバッツの外見に対して中々失礼なことを言っているのだが、驚いているバッツにはそれに突っ込む余裕がなかった。
高校生でまだ少年と呼べるスコールに、自分より上だと思ったと言ってしまった。と、バッツはあわてて頭を下げた。

「ご、ごめん!!スコール大人っぽいから、てっきりおれと同い年か一つか二つ上かと!!」

大人っぽいと言えばそうなのだが、さきほど大げさに驚いてしまったために失礼だったかもしれない。
ただ、その謝罪も十分失礼であることにバッツは気づいていない。


「・・・よく言われるから気にしなくていい・・・です。」

見かけが実年齢より上に見えがちなのはスコール自身もよくわかっているので、気にするのも疲れるのだがバッツのリアクションをみると凹みそうになる。
また、自分より年上のバッツにここまで謝られるのも複雑で、無意識のうちに言葉が敬語に戻っていた。

ようやく打ち解けたと思われたスコールの言動が再びよそよそしく、遠慮がちになったので、バッツはあわててそれをやめるように手を振った。

「ああ、ごめん!!あ、あと敬語も別にもういいからさ!!あ、おれバッツ・クラウザー、ディシディア大2回生!宜しく!!」

慌てているためか、先ほど名前を教えられたのにまた自己紹介をされてしまう。

大学2回生なら、浪人や留年をしていなければ20歳ということになるが、スコールからは今のバッツは成人男性には見えなかった。
大人っぽいと評された自分と比べると、外見も言動もとても子供っぽく見える。
失礼だが本当に大学2回生なのかと疑ってしまう。

こんな騒がしいバッツとゲーセン仲間になってしまったのだが、仲良くなれるのか?
知り合ってよかったのだろうか?とスコールはため息をついた。


しかし、そんな第一印象の彼に恋心を抱いてしまうとは、スコールはこの時カケラも思ってもみなかったのだった。


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FF主人公の中でふけ・・・大人っぽいスコさん。
バッツさんとこんなやりとりがあったのではないかと思います。

対するバッツさんはちょっと子供っぽい。
FF5プレイ時はやんちゃな顔のお兄さんと思っていたのですが、N村氏の絵では中々綺麗めに描かれていたのでびっくりしました。






■(連載番外編3)


冬の訪れを感じさせる、澄んだ空気と冷たい風。
一枚の窓に隔たれた外の景色は見るだけでも体が冷えそうだ。

スコールとバッツはゲームセンター内の休憩所で温かい缶コーヒーを飲みながら携帯電話のスケジュール表を開いていた。

「ファリスがさ、いつお前を連れて戻ってくるんだってうるさくてさー。」

ファリスはバッツの故郷タイクーンでペンションを開いている幼馴染の一人である。
彼女は以前、ある事情でスコールとも知り合ったのだが、その縁でバッツの帰省の話が出るたびに「一緒に連れてこい。」と言ってくる。
自慢の妹とペンションで是非もてなしたいと言っており、バッツもスコールを連れての帰省は乗り気ではあるのだが、いかんせん長期の休みは限られている。


彼らがスケジュールの確認を取り合っているのは、スコールを連れての帰省を何時がいいのかを話し合うためだ。
連休に帰ってもいいのだが、せっかく故郷に一緒に来てくれるのならできれば長い休みで過ごしたい。

「・・・一番近い長期の休みは冬休みだが、年末年始は家にいた方がいいと思う。」

スコールは携帯を開きながら呟いた。
冬休みなら2週間ほどの休みがあるが、年末年始を避けるとそれほど日数はない。
スコールの家は父子家庭で、父親はいつも仕事で忙しく、家を開けがちなのだが年末年始は家にいる。
その時に家を空けるのは難しいだろう。

スコールの家庭事情はバッツも多少知っているため、無理を言うつもりはない。
冬休みがだめなら・・・と、月別のスケジュールを確認していく。

「そうだよな。年末年始は親父さんを一人にしちゃいけないよな。じゃあ、次は・・・春休みかな。」

3月のスケジュール表を眺めながらバッツはスコールに窺うように呟いた。

今は11月で3月なら5か月も開いてしまう。
ただ、卒業式や入学式のシーズンではあるが、スコールは高2、バッツは大学2回生でどれにも当てはまらない。
家族での行事はないため比較的動きやすい月ではある。

学年末のテストも終わっているし、もともとスコールは成績が良い方なので進級の心配も追試や補習もないだろう。
煩わしい学校の行事が何もかも終わって解放される時期だから尚更良い。
父親も反対するタイプではないので行って来いと言ってくれるだろう。


「春休みならたぶん大丈夫だと思う。」
「そっか。間、空いちゃうけどすごくいい場所だからさ、色々見てもらいたいところがあるんだ。長い休みだと嬉しいよ。」

へへへと笑うバッツの笑顔に、スコールは自分が頼んでいたコーヒーを一口飲む。
バッツとこのゲームセンター以外の場所に出かける機会は増えたものの、それでも泊りで出かけるなんて初めてだ。

スコールは少し胸の鼓動が早くなるのを感じながら、今日、家に帰ったら父親に出かけてもいいか聞いてみようと決めた。

ただ、バッツから以前話に聞いたのだが、幼馴染が経営するペンションは長期の休みは客が多く、帰省したバッツもスタッフとして働くことがあるらしい。
春休みなら、卒業や進級の記念旅行などでたくさんの客がくるのではないのかとスコールは思う。
そのような時に、自分もついていくのはいいのだろうか?と思った。

「・・・滞在の間は、俺も何か手伝いをした方がいいか?」

コーヒーを飲み干そうとしているバッツにスコールは聞くと、彼は喉を鳴らしてコーヒーを飲み込むと少し考えた。

幼馴染のペンション経営者の二人はたぶん気にはしないだろうし、なによりもその一人のファリスからの誘いなのだから問題ないだろう。
ただ、遠慮がちで控えめな性格のスコールは、一人何もしないでいると逆に気にしてしまうかもしれない。


「気にはしないとは思うけど、おれは多分戦闘要員として頭数として入れられていると思うから、おまえも少し手伝ってみるか?」
「長い間、滞在しているのに何もしないのは悪いから・・・。」

やっぱり。とバッツは内心苦笑した。
そこまで気にしなくてもいいんだけど・・・。と思うのだが、気兼ねなく過ごしてもらいたいからスコールがそう言うなら手伝ってもらってもいいだろう。

「そっか。じゃあ一緒に働きますかー。ファリスに連絡しておくよ。あいつの妹のレナもきっと喜ぶよ。」

バッツは笑いかけると、スコールがほっとした表情をした。

「働くのはいいけど、空き時間は作ってもらおうな?昼間は釣りやハイキング、夜は星をみるのもいいぞ?そうだ。あと近くに温泉もあるからさ。夜の外湯がすごく気持ちいいぞー。」

楽しそうに向こうで何をしようかと話すバッツにスコールは「温泉」の単語を聞いて硬直した。

温泉。
バッツと温泉。

バッツは気づいていないが、スコールは彼に対して淡い思いを抱いている。
共に入浴するということは好意をもった相手の素肌を見ることになる。そのような事態になったら・・・自分は平静を保てるのか?

顔が一気に熱くなるのを感じ、誤魔化すかのように熱い缶コーヒーを煽った。
しかし、そうしたことでよけいに体が熱くなり、着ていたブレザーの前を開けてばたばたと煽いだ。


「お、暑いか?」
「・・・缶コーヒがな。」

何気なく聞いてきたバッツにスコールは悟られないように、自分も何気ない風を装って返した。

「まあ、遊んだ後だしなー。おれも冷たいのにしとけばよかったって思ってたとこだ。」

バッツはそういうと、自分もスコールにならって上着のボタンを開けた。
ただ、前を開けているだけなのに、服を脱ぐことを連想してしまい、スコールは自分の思考をなんとか逸らそうと、今日の授業の内容を頭の中で復習し始めた。

数学の公式、歴史の年号、英語の文法などが頭の中を飛び交い、脳内を混沌とさせると幾分心が落ち着いた。
スコールがそんな努力をしているとは気が付かないバッツは、空になった缶コーヒーを綺麗な放物線を描いてゴミ箱に投げ入れると、「そんでさっきの温泉だけどさ。」とタイクーン名物の一つの温泉の話をし始めた。

人が何とか平静を保とうとしている時に、とスコールが内心呻いたが、バッツを見ると無理に話をやめさせることができずにそのままで落ち着いてしまった。

「さっきの温泉だけどさ、地元の人の憩いの場だから色んな人とも仲良くなれるよ。おれの知り合いのじいさんがそこの温玉をおすすめしててさ〜。」

温泉は、どうやら沢山の人で賑わっているとバッツは楽しみだと笑った。

温泉には沢山の人がいると聞いてスコールは安堵した。
彼と二人で温泉につかることになれば、とても平常心を保てそうになさそうだったから。
ただ、ほんの少し残念な気持ちもあったが。

「さて、じゃあ春休みがタイクーンだな。おれのおすすめスポットに連れて行ってやるからさ楽しみにしてろよ。」

バッツはそういって笑うと、座っていた席を立ち、スコールが手に持っていた缶コーヒーの空き缶を先程と同じようにゴミ箱に投げ入れた。

「さて、ゲームの続きをするか。早いとこ隠し曲を解禁しようぜ。」

そういうと、待ちきれないのか筐体へ小走りで向かっていった。
バッツの背中を見ながら、スコールも席を立ち、取り出してた携帯をカバンにしまおうとしたところで止まる。

開かれていたスケジュールアプリの3月の日程に目を通す。
3月にバッツと共に彼の故郷へ行く。行ったこともない場所に彼と共に。
数か月先のことを想像するだけで、頬が緩みそうになった。

少し考えたのち、携帯をタップし3月の予定表に予定を入力する。

3月某日 タイクーンへ。

「(これでよし・・・。)」

入力された予定表を満足そうに眺めると、今度こそ携帯をカバンにしまう。
ゲームコーナーの方に視線を移すと、バッツが大きく手を振って自分を呼んでいた。


「スコール!続き続き!!」
「ああ、今行く。」

鞄を手に持ち、携帯からゲーム用のIDカードを取り出すと、スコールは軽い足取りで彼の後を追ったのだった。


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85ゲーセンでの出会い番外編 旅行計画を立てる二人でした。
今回のお話で番外編は終了したいと思います。

次回からは別のお話で拍手連載を開始できたらと思っています。

大学生バッツと高校生スコールのお話でまた拍手連載できたらなーと思っていますがひとまずこの二人とは一旦お別れです。

番外編もお付き合いしていただき、ありがとうございました。




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