拍手お礼ログ4

■ 拍手お礼 連載ミニ小説
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今日は厄日なのではないのだろうか?

突然現われた女性にまさか殴りかかられるとは思っていなかった。
17年間生きてきて、そのようなことはなかったし、これからもそんなことはないだろう・・・と思うよりも思ったことがなかった。
スコールは左頬に衝撃を感じたと同時に頭がくらくらとし、立つことができずにしりもちをつく。

先程まで怒りの形相だったバッツとセルフィもこれにはさすがに驚いたらしく、バッツはさらに追い打ちをかけようとするファリスを止めにはいり、セルフィはスコールに駆け寄った。

「いいんちょ、大丈夫!?」

駆け寄ってくるセルフィがめずらしくおろおろとした表情で自分の顔を覗き込んでいる。
口端から生暖かいものが流れているようで、触ってみると赤くヌルついており、血だとすぐにわかった。
口の中が少し痛むことからどうやら切ってしまったのだろう。

セルフィが鞄からハンカチを取り出してスコールの血を押さえようとするのを断り、なんとか立ち上がる。
先程自分が立っていた位置に今度はバッツとファリスがもみ合っていた。
ファリスを後ろから押さえようとするバッツと、バッツから逃れようとするファリスが暴れていたのだ。

「ファリス落ち着け!いきなり殴るのは駄目だろ!」
「離せよ!お前!悔しくないのか!?恋人に浮気されて悲しくないのかよ!?」
「はぁ!?」

ファリスの言葉にバッツは首を傾げる。
なぜなら自分には恋人がいない。
そのはずなのに何故ファリスがそのような勘違いをしているのだろうかと、聞こうとしたところで、ファリスがさらに言葉を続けた。

「お前、あの男と付き合ってるんだろ!?」

ファリスはそういうと、スコールを睨み付けた。
バッツは一瞬ファリスが何を言っているのか理解できなかった。
”あの男”って誰?と言いそうになったところでファリスの視線の先をたどると、そこに立っていたのはスコール。
バッツの頭の中で”あの男”=スコールと結びつき、ファリスがどうやら自分とスコールが付き合っているのだと勘違いしているのだとやっと理解したのだ。

「・・・はぁぁあ〜っ!?」

ファリスの発言にバッツは驚き、頓狂な声を出す。
すぐそばにいたスコールも目を丸くして驚いており、セルフィまでもが口をあんぐりと開けてバッツとファリスを見ている。

「おまっ!!なんでそう思うんだよ!!」
「だって!!」

羽交い絞めにしていたファリスを開放し、バッツがファリスに騒がしく問い詰めはじめた

他者が入り込む隙がない程、騒がしくなった2人の様子に、スコールはどうすればいいのかと悩む。

なぜバッツの彼女かもしれない女性がそのような勘違いをしているのか、
バッツは彼女と付き合っているのではないのか?

疑問点が次々と浮かび上がる中、セルフィが言いにくそうにおずおずとスコールに聞いてくる。

「いいんちょ、誰とも付き合ってる噂がなかったのはこのおにいさんと付き合ってるからなの?」

セルフィはスコールとは比較的仲のいい部類だった。
そのために何人かの女子生徒に仲を取り持ってもらえるように何度か頼まれたことがある。
しかし、目の前のクラスメイトは女子からのアプローチをことごとくはねのけ、告白を一刀両断してきていた。
まだ色恋沙汰に興味がないからだと思っていたのだが、その理由がまさか、お付き合いしているからだとは思ってもいなかった。

「(よく見れば相手のおにいさんもかわいい感じだし、禁断の恋!?)」

顔よし、スタイルよし、頭もよし。
無愛想なのが欠点だが女子にもてるのになぜ誰とも付き合わないのかと思ってはいたのだが・・・・

「いいんちょ、男の人が好きだなんて思ってもいなかったよ〜。」
「まて、なぜそのような話になる!?」

今までの謎がとけたとばかりにのんびりと言い放つセルフィにさすがのスコールも狼狽えた。

確かにバッツに恋心を抱いているが、自覚したばかりでしかも自分の片思いである。
気持ちの整理があまりついていない段階でそう思われるのは非常に困る。

変に温かい目で見てくるセルフィの誤解を解かなければならない。


一方、喧しく話してるバッツとファリスの両名。
なんとか誤解を解こうとするバッツの発言をファリスはことごとく言い返していた。

「なんでおれが男と付き合ってることになるんだよ!?」
「じゃあお前、昨日帰りにわざわざゲーセンに寄ったのはなんでだよ!揃いの土産を嬉しそうに持っていたじゃないか!」
「いや、あれは・・・。」

確かに、スコールへの土産を渡すのを楽しみにしていた。
ファリスの言うことも間違いではない。
ただ、それはチョコボを嫌がるスコールの反応を見るのが楽しみであって、それ以上でもそれ以下でもない・・・と思う。

「(確かに休み中会えなかったりした時は寂しかったけど、おれはスコールは友達だと・・・って今考えるのはそこじゃないだろう!?)」

横道にそれかける自分の思考にぶんぶんと首を振る。
何も言い返さないバッツにファリスは「やっぱりそうなんだろ!!」と大声で言い返してきた。

堂々巡りになりそうなこのやり取りに、いい加減限界だとバッツは頭を掻きむしる。

「ああもう!聞いてくれ!!」

今までで一番大きな声でファリスを制すると、バッツは腹の底から大声で言い放った。



「おれは誰とも付き合っていない!!」
「俺は誰とも付き合っていない!!」



バッツが言い放ったセリフとほぼ同時に、スコールの方も同じセリフをセルフィに言い放ったため、二人の声が重なった。

「「・・・は?」」

バッツとスコールが互いに目を合わせる。
お互い、彼女がいるものだとばかり思っていただけに、なぜそんなことを言うのかとわからない。

そもそもスコールはそこにいる女の子と付き合っているのでは?と先程までの勢いが落ち着き、今度はおろおろとスコールとセルフィを指差す。

「スコール、お前、その子と付き合ってるんだろ??」
「「え??」」

スコールとセルフィがお互い、顔を見合わせる。
確かに同級生の中ではまだ仲がいい方だとは思うのだが、お互いそのような感情は一切ない。

「おにーさん、あたし、だれとも付き合ってないよ〜?」

間延びしたかのように答えるセルフィにバッツがあっけにとられる。
自分の勘違いだったのか?と力が抜けそうになる中で、今度はスコールがバッツに話しかけた。

「あんた、誰とも付き合っていないといっていたが、そちらの女性は恋人ではないのか?」
「「は?」」

ファリスの方に視線を向けてスコールが言うと、今度がバッツとファリスが顔を見合わせた。

「オレがこいつと?冗談はよしてくれ。こいつはオレの幼馴染で弟のように思ってるんだ。」
「おれがファリスと?ないない!!おれもファリスは兄弟のように思ってるんだ。絶対ないよ。」

二人して首を振ると、今度はファリスがスコールとバッツの顔を交互に見て、「オレもいいか?」と挙手をして言い放った。

「おまえら、付き合ってたんじゃないのか?」
「「!?」」

首を傾げるファリスに、スコールとバッツは互いを見る。
じぃっとバッツが大きな瞳でスコールの姿を捉える。

改めてみると、久しぶりの想い人の顔と、自分にまっすぐと向けられた視線に、鼓動が早くなる

「(俺は・・・やはりバッツのことが・・・。)」

スコールが改めて、想いを自覚し、早まる鼓動を抑えようとしていたところで、バッツはすぐさま視線を外し、ファリスの方に向き直った。

「さっきも言った通り、おれはだれとも付き合ってないって。スコールとおれはゲーセン仲間。スコールに失礼だろ?」

なぁ?とスコールに聞いてくるバッツ。
スコールの方はバッツへの想いを自覚しているため、「仲間」と片付けられて複雑な心境で曖昧に小さく頷いた。

「・・・なんでこんな大混乱になったんだよ。」

ファリスがそう呟くとそこへ今まで黙っていたセルフィが3人の間に割って入った。

「あのさ、みんななんか勘違いしてそれで拗れてない?ここじゃなんだから、場所かえて話そうよ〜?」

ギャラリーも多いことだし、と小声で付け加えて言う。
話をしていて忘れていたが、ほかの客がじろじろと自分たちを見ている。
どうやらセルフィの案に従った方がいいだろうと、3人は一時話を取りやめ、「じゃ、しゅっぱーっ!!」と前を歩くセルフィに大人しくついていくことにしたのだった。


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全員勘違いさん。
この話にかかわらず、拙宅のスコさんはやっぱり不憫さんですね;;
(片思い感バシバシなうえに、ファリスさんに殴られるわで・・・。)





■ 拍手お礼 連載ミニ小説



授業で宇宙は偶然の化学反応でできたものだと聞いたことがある。

つい先ほど、偶然に偶然が重なった化学反応の結果、自分は二股疑惑をかけられ、女性には生まれて初めて殴り飛ばされ・・・こう思うと散々だとスコールは心の中で一人ごちた。


数分前まで4人はゲームセンターにいたのだがひと悶着を起こしてしまい、これ以上騒ぎになるのを避けるために、今はゲームセンターではなく近くのカフェへ場所を変えている。

ゲーセン近くのカフェは学生に人気があるため平日は賑わっているのだが、今日は土曜日のためかちらほらと客がいるだけだった。

ただ、それが却って好都合だった。
スコールの頬は腫れあがっていることと、着飾ったファリスが人目を引く。
おまけに、これから4人でなぜ話が変な方向に拗れたかを話すため、落ち着いた雰囲気の方が都合がいい。

スコールは店員が気を利かせて差し出した冷たいおしぼりを頬に当てなおしながら前に座る想い人とその幼馴染の女性、隣に座るクラスメイトの様子を窺った。

アイスティーとケーキが届いたセルフィが嬉しそうにケーキを頬張っている。
ファリスは不機嫌そうに紅茶のカップを傾けており、隣のバッツは普段の元気が取り除かれたかのように大人しくアイスコーヒーをストローで飲んでいる。

どことなく気まずい雰囲気が流れるテーブルでどのように話を切り出そうかとコーヒーカップの取っ手を持ちながら考えていると、ケーキを食べきったセルフィが、「さてと!」と呟いて切り出してきた。


「まずはじめになんだけどね、発端はここにいるおにーさんの”二股野郎”の一言だよね?」


ほわほわしたしゃべり方をする割にはなかなか鋭い発言の彼女に、バッツとファリスが目を丸くする。
スコール自身は彼女は見かけほど、のんびり屋ではないことを知っていたために素直に頷いた。


「まぁ・・・そうだよな。」
「オレも、お前の一言を聞いて勘違いした・・・。もう一度確認するけど、お前、あの男と付き合ってないんだよな?」
「だから付き合ってないって!スコールは友達だって言ったろ?」


目の前のスコールを指差し、再度確認するかのように聞いてくるファリスにバッツは頭を掻きながら否定をするとファリスは「わかった。」と一言いい、大人しく席に落ち着く。


「(ファリスの勘違いもすごいよなぁ・・・スコールを殴っちまったわけだし。けど、その勘違いもおれの一言が発端なんだよなぁ・・・。)」

今日のひと悶着は、バッツがあの場でそのようなことを言わなければこのようなことにならなかった。
改めてそれを自覚すると申し訳ない気持ちでいっぱいになり、眉を下げてセルフィに向かって呟いた。


「おれの”二股野郎”の一言がなければ、ファリスも勘違いして、事態がこんなことにならなかったのは確かだよな。ごめんな・・・。」


バッツの呟きにスコールは眉根を寄せる。
自分を”二股野郎”と勘違いした原因はなんなのか。その疑問をまるで代弁するかのように、横にいたセルフィは首を傾げる。


「元々いいんちょは誰とも付き合ってないっていったよね?じゃあなんでおにーさん、勘違いしたの〜?」
「え?昨日の子はじゃあ彼女じゃないのか?」


目を丸くするバッツにスコールもまた目を丸くする。

昨日の子とはバッツは一体誰のことをいっているのだろうか。
スコールの様子にバッツは頭を掻きながら言いにくそうに話を続ける。

「えーっとごめん、昨日スコールと君と同じ学生服の黒髪の女の子がゲーセンで仲良さそうにしていたのをみてさ。その子を彼女かと・・・。」

バッツの話にセルフィとスコールは顔を見合わせて呟いた。


「ゲーセン・・・。」
「黒髪・・・。」


昨日ゲーセンにいたスコールと黒髪の女の子。
それは自分達の、セルフィのことを言っているのではないのだろうか。

「あのーおにーさん、ものすごーくもうしわけないんだけどね・・・。」

察したセルフィはそういうと学生鞄からあるものを取り出した。

手に持っていたのは昨日のウィッグ。
バッツが目を丸くしてそれとセルフィを交互にみてる。
彼女はそれをかぶり、位置を固定すると、昨日バッツが見た女の子が目の前に現われたのだった。


「え・・・えぇぇぇぇ!!昨日の!!??」
「・・・そう。あたし。・・・いいんちょの彼女じゃないんだよねー・・・。」


スコールとセルフィを交互に指差しながらバッツが絶叫する。
バッツは同じ女の子を勘違いして見ていたことに気が付いた。


「じゃあ、スコールは誰とも付き合っているわけでも、二股をかけていたわけでもないのね・・・。」


申し訳なさそうなセルフィと呆れたような表情のスコールがバッツに頷き、バッツは頭を垂れた。
二股も、スコールが付き合っていることも、今日のひと悶着も全部自分の勘違いが原因だということを理解した。

そのバッツの横でファリスが青筋を立てている。
隣の幼馴染の勘違いから自分も勘違いをしてしまい、初対面のバッツの友人を殴ってしまったことになったのだ。


「おまえ・・・なんて勘違いしてんだよ・・・。」


自分のことを棚に上げて呟くファリスに、バッツは今この場で穴を掘って入りたい気持ちになった。
少し冷静になっていれば、このような事態にならなかったことを思うと、数分前の自分をぶん殴ってやりたいとまで思う。
消沈するバッツに、セルフィがおろおろとして、声を掛けてきた。


「ごめんなさい。あたしがこれで遊んでなかったらおにーさんも勘違いしなかったよね?」
「(あんたのスキンシップにも問題はあると思うがな・・・。)」


謝るセルフィの横のスコールは、脳内で彼女に突っ込みを入れた。
項垂れるバッツにファリスは「顔を上げろ。」と言うと、背をバチンと大きく叩き、彼の頭を掴んで自分と同じように頭を下げさせた。


「スコール・・・だったよな?それにお嬢ちゃんも、悪かった。オレとバッツの勘違いとはいえ、こんなことになっちまって、本当にすまなかった。」

心底申し訳なさそうなファリスに、スコールは顔を上げてくれと頼む。

「済んでしまったことはもういい。あんたにとって、バッツは家族の・・・弟のような存在なんだろう?心配してしまって当然だ。」
「すまない・・・そう思ってもらえると・・・助かる。」

ファリスは顔を上げると、今度はバッツが頭を下げた。

「スコールごめん!!ホントにごめん!」
「あんたももういい・・・その友達だろう?だから、これ以上謝られるとこちらも困る。」

本当は友達以上の感情を持ってしまっているのだが、それを隠して、バッツを宥めるためにそういうと、バッツは鼻をすすりながら、顔を上げ、今度はセルフィのも頭を下げた。


「君も、本当にごめん。おれの勘違いで。」
「え?ううん、あたしは別に。けど、これで一件落着、だよね?」


首を傾げて質問するセルフィにスコールはこくりと頷いた。

「ほら、おにーさんもおねーさんも、いいんちょもこうだし、謝るのなしなし!気にしない気にしない!せっかく知り合えたんだから、水に流しましょー。」

セルフィは手をぱんぱんと叩いてバッツとファリスに笑いかけて話を終わらせようとすると、彼女はふと、自分の腕時計に目をやった。

「あ、いけない!あたしこれから予定があるんだった!いいんちょも、おにーさんもおねーさんも途中で悪いんだけど、あたしもう行くね!!またねー!!」


彼女はカバンを掴むと、自分の分の会計をテーブルに置き、慌ただしく走り去っていってしまった。
セルフィのことを多少なりともわかっているスコールは平然としていたが、目の前のバッツは彼女の慌ただしさにぽかんとした表情をして彼女を見送っていると横にいたファリスもまた腰を上げた。


「オレもそろそろ行くとするよ。この格好も着替えたいし、明日朝早くにここを出るから荷造りとかもしておかないと。」
「あ、じゃあおれも・・・。」
「お前はまだいていいよ。さすがに世話になってるから、夕飯の支度とかはオレがしておく。久しぶりに会ったんだろ?もう少し話してろよ。」


同じように席を立とうとするバッツをファリスが制すると、そのままバッツのポケットを顎で指してきた。

視線を落とすと、ポケットには土産の包み。
そういえば、もとはこれを渡すために今日はゲーセンに来たことを思い出した。


「悪い、ファリス。」
「いいってことよ。」


ファリスは苦笑すると、席を立ち、再度スコールに頭を下げた。

「本当に悪かった。バッツが感情むき出しに怒っているところをみたのはガキの頃以来だったから。本当にスコールのことを大切に思っていたんだな。これからも、こいつをよろしく頼むよ。」


ファリスの「感情むき出し」のところで、バッツははっと気づく。
そういえば、どんなに仲のいい友達でもこんなことはなかった。
ファリスの言うとおり、感情が表に出たのは久しぶりだった。


「(おれ、スコールのことそんなに大事な・・・友達だと思っていたんだな。けど、ここまで怒るなんて、本当におれらしくないよな。なんでだろう・・・。)」


手を振って店を後にするファリスにスコールと共に見送りながらバッツは考える。

スコールのことをゲーセン仲間、友達と思っていたが、夏休みに入ってから寂しさを覚えたり、自分の勝手な勘違いで怒ってしまったり、本当にどうかしている。


ぼんやりとしているバッツに、スコールは「おい。」と声を掛けると、バッツはあわてて意識を浮上させた。


目の前に少し緊張したような表情のスコールが座っている。
久しぶりに会ったスコールは少しだけ、日焼けをしていたが、休み前とほとんど変わっていないことに今更ながら気づいた。


「(そうだ、せっかくファリスが気を利かせてくれたんだ。休み前と同じようにしないと!それに、土産を渡さないとな!)」

無意識にポケットの中にある土産の包みに祈りを込めるかのように握りしめると、バッツはまずはぎこちない空気をどうにかしようと、なんとか笑顔を作り、一言発した。

「遅くなったけど、久しぶり。スコール。」


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勘違い解決。
ようやく、再会に突入です。









■ 拍手お礼 連載ミニ小説



ようやく発した一言はなんとも普通だった。

けれど、この一言を言う道のりが長かった。
正確には昨日帰ってきて、スコールとセルフィを見つけてからなのだが、今思うとたったの丸一日だったのだが、長かった。

目の前に座っているスコールは、ほんの一瞬目を見開いた後に、小さな声で「ああ。」と答えた。

気まずい空気が再び流れる。


「(おれのせいでスコールは同級生に誤解されるわ、ファリスに殴られるはで散々だったもんなぁ・・・。)」


スコールの顔を盗み見ると、若干腫れが引いたもののまだ赤い。
二股野郎な上に、自分と恋人同士と誤解される。
スコールの性格や言動を考えるとこんな目にあうことはまずないだろう。

さて、どうしようかと悩んでいるとスコールが小さな声で話してきた。


「ゲーセン・・・。」
「え?」
「あんたがいないと、張り合いがなかった・・・。」


二人がいつも遊んでいるゲーセンは、彼らと張り合えるプレイヤーがいなかった。
休みの間、スコールはそこで一人で遊んでいたのだろうか?


「休み中、一人で通ってたのか?」
「ああ。あんたと出会う前はそうだったからな。けど・・・。」


言いかけたところで、スコールは一度口ごもる。
バッツは彼が何か言いにくそうにしていることに気づき、黙って続きを待つと、スコールは顔を逸らして一言言った。


「あんたがいる時の方が・・・楽しめた。」


いつもほとんど無表情で、あまり自分の気持ちをしゃべらない印象をもったスコールがこのようなことを言うとは思っていなかった。

レナとファリスが経営するペンションでの毎日はとても楽しかったし、充実した日々を送っていた。
しかしふとした時に、スコールとの日々を思い出すと、寂しさを覚えた。
連絡を取りたくても、携帯が壊れ、手段が無くなってしまった。


「(スコールももしかして、少しは寂しいと思ってくれたのか・・・?)」


目の前の少年は顔を逸らしたまま、此方を向いてくれずに表情が窺えない。
けど、もしそう思ってくれていたのなら・・・。


「(・・・なんだろ、うれしいのか・・・おれ?)」


心がじんわりと暖かくなるのをバッツは感じた。
自分だけじゃなくて、スコールもそう思ってくれていたのならと思うと嬉しい気持ちがじわじわと湧いてきた。

スコールのことだから、何とも思っていないのかと思っていたので、予想もしていなかったこの反応は、照れ臭かったが嬉しかった。


「・・・おれも、お前がいなくてさ、ちょっとさびしかった。」


スコールの一言に押される形で言ってしまったが、バッツ自身も寂しく思っていたのは事実だった。
ただ、「さびしい。」と言い切るのは少し気恥ずかしかったので「ちょっと」と付け加えたのは内緒だが。

へへっと笑いながら破顔するバッツに、スコールは逸らしていた顔を戻して見つめてきた。
バッツは頭を掻きながら、「実はさ・・・」と言い、新しい携帯をスコールに見せる。


「おれ、どじっちゃってさ、携帯、壊しちゃったんだよね。前の携帯のアドレスも全部ぱぁになっちゃってさ、連絡したくてもできなくて。」


新しい携帯。
スコールはそれでバッツからの連絡がなかったのかと納得した。


「(連絡がなかったのはそのためか・・・意地を張らずに俺から連絡をすればよかったのか・・・。)」


てっきり向こうの生活が楽しくて連絡をくれないのだとばかり思っていたスコールは肩の力が抜けていくように感じる。
ソファーに背を預けると、片手で顔を抑える。
スコールの様子に、バッツは自分のそそっかしさに呆れさせてしまったかと思い、苦笑する。

「呆れた?」

そう聞いてくるバッツに、スコールは顔を抑えたまま「少し・・・。」と答える。
バッツらしいといえばらしいのだが、今まで悩んでいたのはなんだったのだと嘆きたくもなった。

項垂れるスコールにバッツは頭を掻きながら、空いている片方の手でポケットを探り、包みを取り出すとテーブルの上に置いた。


「・・・あのさ。呆れてるところでなんなんだけどさ。」


スコールが顔から手を外すと、バッツが小さな袋を差し出してきた。


「これ土産な?スコールのご期待通りご当地チョコボ。」


スコールはまず袋を受け取り、中を開くと、チョコボのストラップが出てきた。
小さな黄色い星を持ったチョコボがつぶらな瞳をこちらに向けている。

ストラップを手に持って一言も発さないスコールに、バッツが「(やっぱり嫌だったかな?)」と彼が眉間に皺を寄せて文句を言うかと思った。
ただ、そうされたとしても、買う前に予想していたことなのでそれはそれでかなり笑える、とスコールの様子を窺う。

しかし、バッツの予想に反してスコールは袋を破くと自分の携帯をカバンから取り出してストラップをつけ始める。


「(え?まじか・・・。)」


バッツが驚いている間にスコールは手際よく、自分の携帯にストラップを着けてしまった。
携帯には、以前自分が押し付けたストラップと、今回の土産で買ってきたストラップの2本。
2匹のチョコボが仲良く並んだ。

予想していなかった結末に目を丸くして見ているバッツにスコールは自分の顔を高さまで携帯を掲げて、並ぶ2匹のチョコボを揺らしながら礼を言った。


「ありがとう、その、大事にする。」


スコールは少し照れ臭そうだが丁寧に礼を言うと、バッツは一瞬驚いたかのような表情をし、すぐに笑顔になった。


「おう。おれも買ったから、おそろいな?そうか、とうとうスコールもチョコボの良さがわかってくれたのか。」


腕を組み、うんうんと頷きながら言うバッツにスコールは眉間に皺を寄せて反論する。


「何を言っているんだ。着けなかったらあんたはしつこく着けろと言ってくるだろう。」
「おう、よくおわかりで。」


このやりとりも久しぶりだった。
ようやく、出発前の、元通りの関係に戻れたのだとバッツは内心安堵した。

そう思うと、何故か今からスコールとゲーセンへ無性に遊びに行きたくなった。
携帯をカバンにしまうスコールに、バッツは伝票を持つと、店を出ようとばかりに席を立った。


「なぁ、これからゲーセンに行かない?おれ、休み中まったく遊んでないんだよな。」
「またあの店に戻るのか?」


先程の一件を思い出してだろう、自分たちを見ていた客がまだいるかもしれないと少し渋るスコールに、バッツは「大丈夫だろ―?」と根拠もなく言い放ち、スコールの手を取って無理やり席から立たせる。


「あんた、幼馴染が家で待ってるだろ?」


まだ、渋るスコールにバッツは「ああもう!」としびれを切らして手を強く引っ張った。


「今、お前と遊びに行きたいんだよ!ファリスなら大丈夫!ちょーっとだけ?な?」


笑いながらそういうと、スコールの手を引き、会計を済ませて外に出る。

外に出ると、日は傾きかけ夕焼け空が見える。
風が吹いており、昼間に比べてだいぶ涼しい。


「(長い夏休みだったなぁ。もう、秋だ。)」


涼しい風を受けながらバッツが目を細める。
その横顔をスコールが見ている。


「バッツ。」


バッツが呼ばれた方を振り向くと、スコールは手を差し出している。
夕日の光が逆光となっていたため、表情は分りづらかったが、少し、ほんの少しスコールが微笑んでいるようにバッツには見えた。

無表情でいつも難しい顔をしているスコールの、初めて見た微笑みに一瞬どきりとする。
スコールは少し躊躇った後に、穏やかな、はっきりとした声で言い放った。


「・・・おかえりバッツ。」


故郷に帰っていた相手に対して、言うのも変だとスコールは思ったのだが、バッツは気にしていないのか差し出された手を握り返してきた。
握り返された手はとても温かく、少しだけ小さかった。


「ただいま、スコール!!」


満面の笑みで頷いたのだった。


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本当の意味でこの2人の再会でした。
次回でラストです。






■ 拍手お礼 連載ミニ小説


ブレザーを着た長身の大人びた少年が早足で歩いている。
普段よりも遅い帰宅時間に苛ついているのか何度も時計を確認しながら歩いてる。


暦の上では秋だが昼間は夏と錯覚してしまいそうになるほど暑い。
ブレザーの前をあけたスコールはいっそのこと走ろうかとも考えたが、持っている学生鞄は重いし、何よりも自分を待っている相手に「そんなに慌てなくても。」と笑われるだろう。

コチコチと動く時計の針が恨めしい。

いつもの場所といってもおかしくない場所、ゲームセンターに着くと、スコールはまっすぐと音楽ゲームのコーナーへと向かっていく。
待ち合わせ相手はもうすでに到着しており、スポーツドリンクのペットボトルを2本手に持って椅子に座っていたがスコールに気が付くと笑顔で手を振ってきた。

「バッツ、すまない、待たせた。」

片手をあげて挨拶すると、バッツは笑いながらスコールにまだ開けていない方のペットボトルを差し出した。

「いやいやお疲れさん!学園祭の準備で忙しかったんだろ?青春だよなー。」

大学生のバッツの方がバイトやら大学の講義後の質問をしていたなどで遅れることが稀にあるのだが、スコールが遅れることは今までなかった。
高校生のスコールが通っている学校は近々学園祭があるので、その準備に追い込みがかかっているため遅くなったのだ。

スコールは律儀にそのことをメールで事前にバッツに連絡していたため、彼は何の心配もせずにのんびり待っていたようなのだが、どうも気にしてしまう。

「・・・学校の行事でやらされているだけだ。俺としてはごめんだ。」

眉間に皺を寄せながら、バッツからペットボトルを受け取ると、すぐにキャップを開けて一気に煽る。
冷たいドリンクが少し乾いた喉を潤してくれて、苛々していた気持ちが比例して落ち着いていった。

心底嫌そうに、面倒くさそうに吐き捨てる姿はまるで中年のサラリーマンのようだとバッツは内心笑いそうになりながら、スコールの肩を叩いた。


「そう言うなって。こういうことができるのは今のうちだけだぞ?大学生になったら行動に自由がきく分、行事に疎くなるからさ。」

少し宥めるかのように話すバッツに、大学生と高校生の差を認識してしまったスコールはさらに眉間に皺を寄せた。

バッツへの想いを認識してからというもの、年の差がどうも気になってしまう。

想いを自覚していなかった時期はそんなことに気にも留めなかったのに不思議なものだ。
埋まることのない年の差を気にしている子供じみた自分自身が情けない。

スコールの心情に気づいていないバッツは、彼の眉間の皺は自分の言ったことに納得していないものと思ったらしく「そのうちわかるようになるって。」と能天気に言うと、自分の鞄からゲームのIDカードを取り出した。

「さーて、今日も勝負といきますか。しかしさ、この前スコールが3連勝したのにさ、ほんとにメシ奢らなくていいのか?」

先日、久しぶりにスコールと勝負をしたのだが、バッツは見事に負けてしまったのだ。

休み中まったくゲームで遊んでいなかったため、譜面を読めず、反応が遅れてしまったり、ミスを連発してしまった。
そのためスコールとの勝負はあっさり決してしまい、約束通り食事を奢ろうとしたのだが、スコールに「実力が拮抗していないと意味がない。」と断られてしまったのだ。

「休み中のブランクがあったんだ。あんたが勘を取り戻すまでは別にいい。」
「おれ、今結構お金持ちだぜ?レナがバイト代を奮発してくれたし。」
「じゃあ次回にとっておけ。あんたの調子が戻ったら、その時に勝利して奢ってもらうとするさ。」
「あ、言ったな?」

自分のIDカードを取り出しながら挑発するかのような表情をするスコールにバッツは「その時は返り討ちにしてやるよ。」とくすりと笑った。

並んだ2台の筐体の前に立ち、IDカードをかざしてコインを入れる。
オープニング曲を聴きながら、「あ、そうそう。」と思い出したかのようにバッツはスコールに話しかけた。

「ファリスがさ、次の長期休暇で帰ってくる時はおまえも連れてこいってさ!この前のわびをしたいらしいんだよ。」

先日、勘違いで殴ったことを悔やんだファリスが、バッツに次回帰ってくるときはスコールも連れて来いと言ってきた。
彼女なりにスコールにお詫びをしたいと考えたらしく、ご自慢のペンションに招待すると言ってきたのだ。

バッツとしてはいつも一人の帰郷を誰かと共にするのは嬉しいのだが、高校生のスコールがその誘いに乗ってくれるか分らなかったため保留にしていたのだ。


「ファリスは連れてこいって言ってたけど、高校生だと学校の友達とかと一緒に過ごす方が楽しいかもって思ってさ。返事はまだしていな・・・。」
「・・・行く。」
「え?」

即答されるとは思わなかったバッツは大きく目を見開いてスコールを見た。
彼は、少し照れ臭そうな表情をしている。

「あんたの故郷に・・・行ってみたい。その、沢山話を聞いたから。それに・・俺はあんたのことをもっと知りたい。」

最後の方は小さな声だった。
スコールは誤魔化すかのように、ゲームの画面に視線を戻すと自分のログインパスワードを入力した。

入力する指の動きが少しぎこちなく、入力を失敗して、もう一度入力しなおしている。

そんな彼の様子に最初は驚いた表情をしていたバッツは、やがて目を細めて微笑み、嬉しそうな声で「わかった。」と答えた。


「じゃあ、ファリスにメールしておくよ。おれもスコールのことをもっと知りたいし、ゲーセン以外にも色んなところに行ったりしたいって思ってたんだ。せっかく仲良くなったんだしさ!友達だろ?」

バッツの言葉に一瞬淡い想いを期待したスコールは、最後の「友達」の一言にがくりと肩を落とした。
そんなスコールに気付いていないバッツは言い終わると視線を筐体ディスプレイに戻し、自分のログインパスワードを入力しようとしていた。


「(・・・まだまだこれからというところか。)」

どうやらかなり鈍感そうな年上の想い人にスコールは内心複雑だった。

先程の言葉を言うのにどれだけ自分が勇気を振り絞ったかなんてわかっていないだろう。

けれど、今はそれでいい。少なくとも前よりは仲良くなり、受け入れられている。
想いを成就させるには、自分から行動を起こさないといけないことは、夏休みと、この前の出来事で学習した。

攻略するには中々手ごわい相手だが、好きになってしまった気持ちはもう止められそうになかった。


「(幸い、ライバルはいないんだ。・・・じっくり行くとするか。)」

少年の静かな決意など気づいていない青年は新曲のリストを確認するのに夢中になっていた。
どうやら先は長そうだと思いながらスコールもリストを眺める。

カーソルを合わせて曲を視聴して選んでおり、アップテンポの良さそうな曲でカーソルが止まる。
まるで、バッツ本人のような曲だとスコールが内心思っていると、彼は満面の笑みでディスプレイを指差してきた。

「おれ、この曲にしたい!」

楽しそうにしている彼の表情が眩しい。
ゲームセンター以外でも、この笑顔が見ることができれば・・・とスコールは密かに願いながら、自分も同じ曲にカーソルを合わせて選択した。

二人のディスプレイにプレイヤー名”boco”と"グリーヴァ"が並んで表示される。

「さて、ゲームスタートだ!スコール、用意はいいか?」
「ああ。いつでも来い。」

開始を知らせる”Ready go!”の文字が大きく表示されて弾け、ゲームが開始された。 


勝負は始まったばかり。



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拍手連載はこれにて終了です。
互いに意識は多かれ少なかれ芽生えたものの、ここから先は2人次第ということで。

当初は2人視点の出会いだけのミニ小説だったのですが、せっかく拍手していただいているので楽しんでもらえるものにしたい思いで連載という形をとらせていただきました。
それがまさか終わるのに4ヶ月かかるとは・・・;

最後までお付き合いしていただきましてありがとうございました。


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