05

とある町の裏山に現れる鬼を退治せよとの命令を受けて冨岡は一人で人々が賑わう町に来ていた。鎹鴉によると先に着いている隊士と合流しろとの事で冨岡が待ち合わせに指定された場所に向かうと。

「ごめんなさい、人と待ち合わせしてるからお兄さん達とは遊べないんです」
「本当かい?さっきからずっと一人でここに居るじゃないか」
「それは私が時間より早く来てしまったからなんです」
「じゃあちょっとでいいよ、時間まで俺らと遊んでおくれよ」
「あはは!そんな事言って、時間になっても絶対帰してはくれないでしょう?」

男二人に絡まれているのに呑気に笑っている冴木が居た。

「お!笑ったりなんかして、実はお嬢ちゃんも少しは乗り気なんだろう?」
「そんな事ないですよ、私はこれから用事があるので」
「なぁそんな事言わずによぉ。遊んでくれたら小遣いあげるってのに」
「そうそう、なぁ分かったんなら大人しく来いよ」

男達の様子からして昼間から酒を飲んでほろ酔い状態のようだった、きっと酒で気を良くし女でも引っ掛けてこの後を楽しもうとしているのだろう。冴木はニコニコと笑いながらやんわりと断ろうとしているらしいが男達には通用しない…。

「ごめんなさい、私は行けません」
「…チッ、面倒な女だな!どうせお前も金さえ貰えりゃすぐに股ァ開く商売女なんだろうが!そこに突っ立って客を取ってるだけなんだ、さっさと黙ってついて来い!」

挙句には冴木の事を商売女だと罵り強引に腕を引っ張った。さすがに冨岡も男として黙って見てはおれず冴木の元に駆け寄ると。

「おい」
「あん?なんだお前は」
「あっ、冨岡さん!」

冨岡の登場に冴木はパッと顔を上げてすぐさま冨岡に近寄った。

「では私はこれからこの方と仕事なので失礼します」

だが最後まで男達を睨みつけるという事もなくニコリとしたままペコリと頭を下げて冨岡の隣に並んで歩き出した。男達も連れが居たと分かると無理に冴木を引き止めようとはせずチッとつまらなさそうに舌打ちをして冴木らとは逆の方向へと歩いて行った。

「待たせてすまない」
「いいえ冨岡さんは時間通りです!それにしても、合流する柱って冨岡さんだったんですね!あーあ、冨岡さんだと分かっていたならもっとおめかしして待っていたのに!」

先に来ている隊士が冴木だと冨岡は知らなかったがそれは冴木も同じだったようだ。お気に入りの着物でも持ってくれば良かった!なんて呑気な事を言う冴木は普段通りだ。

「それはそうと。二人で任務なんて滅多に無い事ですしこれを機に私と結婚してください」
「断る」
「あーあ!今日も即答かぁ!」

そしてそんなやりとりも普段通り。ニコリともしない冨岡とアハハと笑う冴木はいつも見る光景だ。だが呑気な冴木を余所に冨岡は気になる事があった。

「万城、何故笑っていた?」
「え?」
「先程男達に絡まれて楽しそうに笑っていただろう」
「…やだ、冨岡さん!やきもちですか!?」
「違う」
「あら…」
「あんな風に笑っていたから男達もその気になっていたぞ。人攫いだったらどうするんだ?何か厄介な事に巻き込まれでもしたら」
「まぁ、確かにそうですね…」
「それに、商売女と言われ腹が立たなかったのか?」

やきもちなんかではないが、冨岡は少し気になった。見知らぬ男に商売女と馬鹿にされたら怒らないにしろ悲しまないにしろ何かしら表情に出てしまうだろう。だが冴木はずっと笑ったままだったからそれは何故だろうと疑問に思った。

「腹は立ちましたけど…でもまぁ相手はただの破落戸ですからね!鬼を相手にしてるといつもこーんな顔つきになっちゃうから、任務じゃない時ぐらい怖い顔はしたくないんです」

冴木は自分の瞼の端を指で吊り上げて見せるとやはり呑気に笑っていた。その様子を見て冨岡はポカンとしたが。

「…万城らしいな」
「本当ですか?そんな私の事好きになっちゃいました?」
「いや、それはない」
「やっぱり冨岡さんは手ごわいなぁ!」

それはなんとも万城冴木らしい言い分だ、あの不死川実弥も日々手を焼いているらしいと言うのも納得出来ると思いながら冴木と任務に向かうのだった。

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