06

「炭治郎くん…善逸くん…ごめんね、こんなに弱い先輩で」
「何言ってるんですか!冴木さんはっ…冴木さんはとても強くてそして優しい先輩です!」
「炭治郎の言う通りです!冴木さん、しっかりしてください!」

ハァハァと苦しそうに息をする冴木…その両隣には炭治郎と善逸が居て其々冴木の手を握り締めている。

「ふふふ、私は幸せ者だなぁ。こんなに優しい…後輩達に囲まれて…」
「冴木さん!!」
「冴木さぁん!!!」
「二人共…これからも、元気でね…」

それはまるで最期の言葉…冴木の名を呼ぶ後輩二人を交互に見て冴木はニッコリと微笑みそしてゆっくりと目を閉じた…。

「はい、そこまでです。冴木さんいい加減にしてくれますか?」
「しのぶさんっ…!」

が、しのぶが登場し冴木はパッと目を開ける。今にも死にそうな様子で炭治郎と善逸に見守られていたがそれは冴木の茶番劇だ。しのぶが冴木が横たわるベッドの縁までやって来ると炭冶郎らは作業の邪魔にならないように避けて、しのぶは冴木の額に手を当てる。

「まぁ凄い熱。このままだと本当に死んでしまいますよ?」

大袈裟な演技をしていた冴木だが怪我をしていて息が荒いのは事実である。炭治郎と善逸と三人で任務に来ていた冴木は鬼の攻撃により負傷した。鬼は無事倒したがその時の傷が化膿し蝶屋敷に着いた頃には酷い熱が出て動けなくなってしまったのだ。

「はい、ではこのお薬を飲んで」
「…苦いから…飲みたくない」
「つべこべ言わずにさっさと飲んでください」
「ぐえええ」

だが致命傷ではなくいつものように子供のような軽口を叩ける余裕はあるようで、しのぶは強引に冴木に薬を飲ませると冴木は間抜けな悲鳴を上げる。炭治郎と善逸は冴木の治療が終わるのをただただ黙って見つめていた。

「全部飲みましたね!偉い偉い、冴木さんは良い子です」
「うう…無理矢理全部飲まされた…」
「これで少しは楽になるはずです。後は大人しく寝ててくださいね」
「はい…」

そしてしのぶは炭次郎らの方を振り向くと「次は二人の番ですね」と言ってニッコリと笑い善逸が「やだやだやだ」と炭治郎を盾にして子供のように泣きじゃくるのであった。


△△△


このようにしてしばらくの間だが冴木の入院生活が始まった。炭治郎と善逸も怪我をしていたが冴木程では無い為蝶屋敷で鍛錬をしながら与えられる任務をこなしている。そして冴木は…。

「俺の継子ともあろう者が全治三週間の怪我だァ?いつからそんな軟弱者になったんだろうなァ…鍛錬が足りないんじゃないのかァ?第一お前はふざけすぎだからなァ…どうせ今回も油断してたんだろうがァ」
「実弥さん…お見舞いに来てくれるのは嬉しいんですけど伊黒様みたいになってますよ」

蝶屋敷に来てから五日目。高熱が続き三日程うなされていた冴木だったが四日目になると熱も下がりそして五日目の今日は起き上がって食事も出来る程になっていた。任務と鍛錬の合間に時間を見つけ不死川が弟子の見舞いにやって来たが少し痩せこけた冴木を見て不甲斐無いと思ったのか椅子に座ることも無く立ったまま説教が始まり「言う事ネチネチしてる」と冴木が呟けばギロリと冴木を睨んだ。

「あァ?何か言ったかァ?!」
「別に…」

不死川から目を反らすと冴木は「良いお天気だなぁ」と呑気な事を言って誤魔化す…すると。

「あ!!冴木さんをいじめないでください!冴木さんは病人なんですよ?!」

今日の鍛錬は終わったのか炭治郎がバタバタと慌ててやって来た。不死川から冴木を庇うように二人の間に立って両手を広げる。

「うるせェ!!師匠が継子に何言おうと関係ねぇだろォが!!」
「関係あります!冴木さんは不死川さんの弟子だけど俺達の先輩でもあるんです!それに冴木さんは俺達や一般市民を守りながら戦って怪我をしたんです!軟弱者ではありません!」
「炭治郎くん…」

新しく入った隊士に自分の師匠が頭突きを食らわされた、と冴木が聞いた時は「あの実弥さんに喧嘩売る新人が居るなんて」と驚いたし飲んでいたお茶を噴出してしまうくらい笑ってしまった。そんな事する新人は一体どんな人物なのか、喧嘩っ早い若造なのか礼儀を知らない者なのか、いつか会うのが楽しみだと思っていていざその人物竈門炭治郎に会ってみると想像とは大いに違った家族想いの心優しい少年だった。まだ数回しか任務を共にしていないのに冴木の事を大好きな先輩ですと言ってくれるし、こうして不死川から庇ってくれようとする炭治郎の事も冴木は好きだった。

「俺達を庇って怪我した冴木さんを軟弱者呼ばわりしないでください!」
「炭治郎くんありがとう、だけど私は大丈夫だから」
「でも…!」
「チッ!」

炭治郎の言葉に何か言う気も失せたのか不死川は舌打ちするともう帰ると言って冴木と炭治郎に背中を向ける。

「冴木!!!」
「は、はいっ」

だが最後に炭治郎を押し退けて冴木のすぐ隣にまでやって来ると。

「さっさと治しやがれェ!」

戻ってきたら一からしごき直してやるわァ!
そう言って冴木の頭をグシャグシャと乱暴に撫でると不死川は蝶屋敷を後にした。

「…帰っちゃいましたね」
「まぁ実弥さんは柱で色々とやらなきゃいけない事もあるから…もう髪がボサボサ!」

残された炭治郎は不死川の様子を見てポカンとしていたが継子である冴木は慣れているのかアハハと笑う。

「あーあ!怪我が治っても実弥さんの地獄の鍛錬が待ってるわー実弥さんこういう事に関しては有限実行だから絶対倒れるまでしごかれるー」

炭治郎は不死川に初めて会った時妹の禰豆子を傷付けられた事があったから彼の事をあまり快く思っていなかった。だから冴木に対する不死川はまるで別人のようだと思った。仕草も雑で言葉も乱暴だけれどどこか優しい匂いがして、

「それなら鬼退治に行った方が本当にマシ。普段の態度が悪いからそう言う時にここぞとばかりに痛めつけられるのよね私」

そう言う冴木に「そんな事ないです、あの人、冴木さんの事を心から心配していました」と伝えようかと思ったが「実弥さんの方が余程鬼だわ」と言いつつも冴木からは穏やかな匂いがしたからああこの人はちゃんと師匠の事を理解しているんだな、と炭治郎は思い冴木の話をニコニコとしながら聞いたのだった。


△△△


「しのぶちゃん」

柱合会議も終わり其々が解散して行く中、恋柱の甘露寺蜜璃が胡蝶しのぶに声をかける。

「今蝶屋敷に冴木ちゃんが居るの?」
「はい。一週間程前からうちに居ますよ」

と、蜜璃がしのぶに聞くのも。

「そうなんだぁ!実はね、この前久しぶりに冴木ちゃんとゆっくりお話がしたくて、パンケーキでも一緒に食べないかしらと思って鎹鴉でお手紙を送ったんだけど今怪我をしてて行けそうにないって来たから」

こういう事情があった。蜜璃は恋柱で冴木よりも階級は上であるが同い年と言う事もあってか仲は良い方で時間が出来た時は二人で話をしたり甘味屋巡りをする程である。蜜璃としのぶの会話であの冴木が蝶屋敷に居て動けずにいると聞いて音柱の宇髄天元とその背中を追って不死川実弥がやって来る。

「おお!あの求婚娘が胡蝶の所に居ると言う事はド派手に怪我をしたのか!」
「その呼び方やめやがれェ」

宇髄は柱の中でも冴木の事を快く思っている人物だ。皆の前で冨岡に求婚する冴木を見て「良いねぇド派手で!どうだ、不死川の弟子なんか辞めて俺の弟子にならないか?!」と声を掛けた事があるぐらい。冴木の事を求婚娘と呼んで気に入っているが不死川としてはその呼び名を良く思っていないので笑う宇髄を鋭い目つきで見た。

「えぇ三日間程は高熱続きで唸っていましたけれど今はだいぶ落ち着きましたよ」

今は養生しながら少しずつ鍛錬も行えるようになりました、としのぶは説明するとチラリと皆から離れた所にいる冨岡を見る。

「冨岡さんも、一度はお見舞いに行ってあげてはどうですか?」

そしてそんな声を掛けた。しのぶのその言葉に蜜璃と宇髄と不死川の視線が冨岡に集まりそしてみんなあの冨岡が冴木の見舞いになんぞ行くわけがないだろう、と思った。いつもあれ程綺麗にサッパリと冴木の求婚を断るぐらいだ、来ないと分かっていてしのぶもどうしてそんな事をわざわざ聞くのだろう、そう考えていたら。

「分かった」
「えっ」

冨岡のアッサリとした返事に皆が驚いく。それ程興味がない伊黒や悲鳴嶼もパッと顔をあげたぐらい…。

「いつなら良い」
「えっ?」
「見舞いに行くのに、いつなら都合が良いんだ」
「あっ…ええと、そうですね。いつでも良いと思いますよ?冴木さんも常に蝶屋敷に居ますし…」
「そうか」

そして冨岡はそう言うと何事も無かったかのようにポカンとする皆に背中を見送られスタスタと帰って行ったのだった。

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