使い魔召喚の儀式も終わり職員会議の結果新入生のクラス分けも決まった。話題の特待生入間は本人の「目立ちたくないなぁ」と言う意見を祖父であり理事長のサリバンが聞き入れ入間以上に目立つ生徒が揃う問題児クラスとなった。そしてその問題児クラスを担任する教師は、先日とある濡れ衣で捕まり会議に不在の間に押し付けられてしまったナベリウス・カルエゴだ。
問題児クラスは全部で14人でその名の通り入学早々問題を起こした生徒達ばかり。入学式で暴行行為をおこし校舎を破壊した者、教師へ暴力行為を働いた者、生徒や教師から金品を盗難した者、ギャンブルをはたらいた者、女生徒や女教師へセクハラをした者、等等。読み上げているとカルエゴもうんざりするぐらいの問題児が揃いも揃っているのだ。中には特に問題と言った行為を起しそうもない生徒もいるが、その中の一人は。
「…ブエル・アリエノール」
「はあい」
アリエノールだ。
他の1年の教室とは随分と離れた不便な場所にある問題児クラスの教室にて、クラス全員が揃いカルエゴは順番に出席を取っていく。アリエノールの番が来て名を呼ぶとアリエノールはサッと手を挙げニコやかに返事をした。そんなアリエノールを見てカルエゴは「理事長め…!」と声には出さぬが心の中で名を呟き改めてサリバンへの苛立ちを思い出した。
それは何故かと言うと、特に問題も起していないアリエノールが問題児クラスになった理由がなんともくだらない理由だったからだ。
「これはどういう事です!!!」
時間は遡ってクラス分けが決まった後。問題児クラスの担任を押し付けられたカルエゴが渡されたクラス表を見るや否やそのプリントをグシャリと握り締め足早に理事長室へと向かいその扉をバンと開いた。
「ん?どうって何が?」
血相を変えて自分の元へと進んでくるカルエゴを見てもサリバンは「来ると思った」とそんな表情でのんびりとしている。
「何故ブエル・アリエノールが問題児クラスに居るのですか!彼女はこのクラスに入るような問題児ではないはずです!!!」
カルエゴは抗議する。そう、クラス表を見て驚いたのはアリエノールが問題児クラスに入っていた事だ。使い魔召喚のランクにおいても生活態度においてもアリエノールは問題児クラスに入るような生徒ではない。名門ブエル家の令嬢ではあるがそこらにいる女子生徒となんら変わりのない娘だというのに何故自分が担任する問題児クラスになっているのか。説明してくれと言わんばかりの視線をサリバンに向けるカルエゴ。
「んー、それはね…」
きっとカルエゴはその事で抗議してくるに違いないとサリバンは分かっていたのか、ニヤリと笑うとこう言った。
「カルエゴくんの受け持つクラスに婚約者であるアリエノールちゃんが入ったら面白そうだったから〜!!」
「…は?」
サリバンのそんな言葉に、一瞬意味を理解できないカルエゴ。
「カルエゴくんとアリエノールちゃんは婚約者で将来の結婚を誓い合った者同士だ…しかしその事実を知っているのは学校では理事長である僕ぐらい!婚約者という関係を隠して学校では教師と生徒で、しかも同じクラスだなんて楽しい事が起こりそうだと思わない〜?」
「思いません…!!!」
アリエノールを問題児クラスにした理由なんてものは無いに等しい。ただそうなれば楽しそうだとそんなサリバンの気まぐれに近い理由なのだ。
「それにアリエノールちゃんをカルエゴくんのクラスにしたら、アリエノールちゃんからの僕の好感度も上がっちゃうもんね〜!」
「あなたって人はそんなくだらない理由で…!」
わなわなと怒りに震えるカルエゴを余所にサリバンは「アリエノールちゃんにサリバンおじさまありがとうって言ってもらうんだ〜」なんて言ってはしゃいでいる。カルエゴは今すぐアリエノールを他のクラスにしてくれと言いたいところだったがもう決まってしまい発表だって終わっているから、やはりサリバンの決めた通りにするしかなくハァと重たいため息をついた。
「それにさ、同じクラスで毎日のように顔を合わせる事になってもカルエゴくんなら我慢出来ずに学校で婚約者に手出しちゃうなんてことしないでしょ?」
「当たり前です!!婚約者である前に学校では教師と生徒です、婚約者だからと言って贔屓もしませんし特別扱いもしません!!」
「カルエゴくんならそう言うと思ったよ〜」
だから同じクラスにしても大丈夫だろって僕も思っちゃってさ!と言うサリバン気まぐれなのか本当は何か考えがあるのかよく分からない。ともかく、言いたい事は言えたのでカルエゴは「お忙しいところすみません」と言って理事長室を去ろうとした。
「問題児クラスをよろしくねカルエゴくん。でもアリエノールちゃんは学校生活が益々楽しみになっただろうね〜!アリエノールちゃんのお父上から話を聞く事もあるけど、アリエノールちゃんはカルエゴくんの事大好きみたいだからさ」
「…どうでしょうか」
「ん?」
去り際にサリバンはニコニコとそんな事を言う。孫娘の結婚に反対な旧友からそんな話を聞く事はないがたまに会うアリエノールの父親からはアリエノールはカルエゴの事が大好きで結婚するのを楽しみにしているといつも話している、と聞いた事があった。アリエノールは健気な子だから年上の婚約者カルエゴの事を心から慕っているのだろう。だがカルエゴのそう返した返事はどこか冷たい声色だった。
「アリエノールは両親の言う事を聞いてるだけに過ぎない、だから本心ではどう思っているか分かりません。婚約者と言っても我々のそれは本人達の考えを差し置いて周りが勝手に決めたものですから」
失礼します。最後にカルエゴはそう言って理事長室を後にした。
「うーん…」
一人残されたサリバンはカルエゴの言葉を思い出し少し複雑そうな表情を浮かべる。
「カルエゴくんはそんな態度なのかぁ…」
カルエゴ様と言って慕うアリエノールとはまるで正反対のカルエゴ。アリエノールのカルエゴに向ける笑顔は偽りのものなのだろうか、そしてカルエゴにとって周りが決めた婚約者と言う関係は喜ばしいものではなく迷惑なものなのだろうか。
それはこれからの学校生活で明らかになっていく事だろう…。
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