放課後。
「で、どの師団にするか決めたのか?」
「それがまだ迷っているんです」
教室に残り師団決めに難航しているアリエノールとそれを待つカルエゴ。
「興味があるものはなかったのか?」
「んー、チラシもたくさん貰ったしウチにおいでよっていくつか勧誘もしてもらったんですが…」
位階昇級試験処刑玉砲も終わり使い魔交流の授業等が進んで行く中バビルスは師団決めでも盛り上がっていた。アリエノールは上級生達から貰った師団のチラシを手にとるとパラパラとめくりどれにしようかと改めて眺めている。
「あっ、これ!」
「何かあったか?」
「サキュバス師団はどうでしょう!」
「絶対にやめておけ!」
アリエノールが妖艶で煌びやかな衣装を着た女の子達がポーズを取るサキュバス師団のチラシを見せるとカルエゴは即答する。サキュバス師団は悪くは無い、だがアリエノールがサキュバス師団の団員となりチラシの女子生徒のような露出の多い衣装を纏うとなればアリエノールの祖父が許さないだろう。ただでさえウチの可愛い孫娘と結婚なんて認めないという雰囲気を出されているのにアリエノールがサキュバス師団に入ったとなれば同じ学校に居てしかも担任なのにどうして止めなかったんだとどやされるに違いない。声を大きくしてやめろと言うカルエゴを見てアリエノールはフフフと笑い「はぁい」と返事をする。
「それ以外には何かないのか」
「う〜ん、魔植物師団に薬学研究師団とか気になっているのですが…あっ!」
二つの師団のチラシを見比べるアリエノール。すると突然何かを思い出したかのようにハッと顔を上げる。
「どうした?」
「色々考えていたら甘い物が食べたくなってきました」
「はぁ?」
ようやく入りたい師団が決まったと思いきや、なんとも呑気なアリエノールの返事。
「そうそう、忘れていました!私良い物を持って来てたんです、これ!」
目を細めるカルエゴを横目にアリエノールがカバンの中から取り出したのは可愛くラッピングされた小さな袋。中身はどうやらクッキーのようだ。
「私が作ったんです!一緒に食べましょう!」
「アリエノールが?使用人に作らせたのではなかろうな」
「違います、ちゃんと私の手作りですよ!ほら、モフエゴちゃんの型もありますっ」
「この…」
透明な袋から透けて見える中には、ハートや星の形に紛れて確かにカルエゴが入間に使い魔として召喚された際の姿を形をしたクッキーもある。そんな型があると言う事は間違いなくアリエノールの手作りなのだろう。
「初めて一人で作ったクッキーなんです。お茶も何もありませんがカルエゴ様にも食べてもらったら嬉しいな」
アリエノールはカルエゴを見つめながらニコリと笑った。甘い物なんて食べたくなかったカルエゴだったが、婚約者にそんな顔をされては断れる訳がない。
「…分かった、貰おう」
「わぁ、嬉しい!」
アリエノールからクッキーを受け取るとラッピングされたリボンを解いて中身を一枚取り出した。召し上がれ、とアリエノールが言ってカルエゴはクッキーを口にする。サクッと音を立てる感触はそこらのクッキーとなんら変わりはない。だがカルエゴが気になるのは。
「…おい、甘い物が食べたいと言う割りには何故食べない…」
甘い物が食べたくなってきたと言う割りにはアリエノールはクッキーを口にしない。ニコニコと様子を伺うようにカルエゴを見ていて、もしや何か企んでいるのえはないかとカルエゴが思った瞬間。
「ぐわあああ…このっ、アリエノールっ…、貴様何を入れたのだ!」
「えっ!そんなに変な味がしますか?!」
「変なんてものではない!!」
口内一杯に広がる不快感。触感はごく普通のクッキーだったが味はとんでもなかった。辛いし痛いし甘くないし酸っぱいしと到底お菓子とは思えない味がする。そう、アリエノールは作るのは好きなようだが料理の腕はあまり良く無い。このクッキーだってカルエゴに悪戯する気なんて微塵も無くていつも自分の為に美味しいおやつを作ってくれる使用人の見よう見まねで作ってみて失敗しただけなのだ。
「アリエノール!水か何か持っていないのか!」
「やっぱりお料理はきちんと習わなければ駄目ね…」
「聞いてるのかアリエノール!」
「よし、決めたわ!」
「アリエノール!」
「カルエゴ様の胃袋を掴むためにも魔料理研究師団に決めた!」
お菓子だけではなく色んな料理を作れるようになってカルエゴに喜んでもらおう。それが決めてとなりアリエノールは魔料理研究師団に入団する事を決めたのだった。
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