04


「莎弥!」
「煉獄さん!」

それから、煉獄は度々夷隅家に訪れるようになった。それは任務の前だったり任務の後だったりと色々だったが来れば必ず莎弥に声を掛けてくれた。

「あっ!その腕の傷!」
「ん?あぁ、これか!心配ない!かすり傷だ!」

その日来た煉獄は任務後だったらしく珍しく腕を怪我していた。本人が言うようにそれはかすり傷だったが怪我を見慣れていない莎弥からすればとても酷いものに見えて。

「急いでお医者様を呼んで来ますね!」
「医者はいらない!これぐらいなんともないからな!」
「なんともない訳ないじゃないですか…ちゃんと手当てしないと…」
「ならば莎弥に頼めるだろうか!」

慌てて医者を呼びに行こうとするが煉獄に腕を掴まれ止められてしまった。そしてすぐに祖母が水を張った小さな盥や手ぬぐいなど持って部屋に入って来る。はじめ家に来た時煉獄が医者を呼ぶまでもないと言っていたから手当ての準備をしていたのだ。

「御祖母!莎弥を借りしてもいいだろうか!」
「えぇえぇどうぞ。莎弥ちゃん、鬼狩り様の手当てを頼みましたよ」
「えっ?あ、うん、分かった…」
「鬼狩り様、お食事は取られますか?」
「あぁ!この家の食事はうまいから是非ともお願いしたい!」
「はい分かりました」

道具を置くとニコニコとしながら祖母は部屋から出て行く。二人きりになって莎弥は煉獄と向かい合うように彼の前に座った。

「…じゃあ、上着を脱いでください煉獄さん」
「分かった!」

煉獄は莎弥に言われた通り羽織と詰襟の上着を脱ぐ。

「…とっても痛そう」

莎弥は煉獄の手を取ると血が滲む手の甲を見て目を細める。日々鬼を相手にしている鬼殺の隊士…彼からにしてみればこんな傷どうって事もないだろう。だが莎弥は一般人だ、転んで出来た膝の傷ですら痛そうだと思うのでたとえ掠った程度だとは言え鬼の爪でやられた煉獄の傷はとても痛々しかった。莎弥は水で濡らし絞った手ぬぐいをソッと当てて血を拭った。

「煉獄さんともあろうお方が、油断でもしていたんですか?」
「あぁそうだ!莎弥の事を考えていたら鬼の攻撃に反応するのが遅れてしまってな!」

煉獄は隠すことなくハキハキと答える。莎弥は人の心配を余所に呑気に笑う煉獄を見るとムッと眉間に皺を寄せた。

「何を笑っているんです!もしこれが大怪我だったら…」
「む!心配してくれているのか?」
「当たり前です!煉獄さんに何かあったら…」

煉獄が、何度か夷隅家に訪れるようになって莎弥もすっかり煉獄とは顔見知りになってしまった。時間が合えば色んな話をするような仲にもなったし、幾人もの鬼殺隊士が訪れる藤の花の家紋の家である夷隅家ではあるが莎弥がこんなにも楽しく話せる鬼殺隊士は煉獄ぐらいである。そんな煉獄が大きな怪我でもしたらと思うと、莎弥は心配で心配でたまらない。莎弥の声色が変わったのに気付いたのか、ニコリとしていた煉獄も真面目な顔になり怪我をしていないもう片方の手で莎弥の手にソッと触れた。

「…莎弥」
「なんですか…?」
「すまない、莎弥にそんなにも心配をかけているとは思わなかった!今度からはどんな鬼が出ても油断せずに戦おう」
「…約束してくださいね」
「ああ!約束しよう!」

そして小指を差し出せば、莎弥のその指に自分の小指を絡ませて二人は指きりげんまんと約束をする。

「ならば莎弥!俺も怪我をしないよう心がけよう!莎弥も俺に怒った顔はしないと約束してくれ!莎弥のそんな顔を見ていると居た堪れなくなるんだ!」
「分かりました、でもそれは煉獄さん次第でしょ?」
「確かにそうだな!」

笑い合う煉獄と莎弥。二人は恋仲と言う訳ではないが年頃の男女が幼子のように指きりげんまんをする仕草や楽しげに笑う姿はなんとも微笑ましい。そんな二人の笑い合う声を聞いて莎弥の祖父や祖母も温かい気持ちになったのだった。

 


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