03


「鬼狩り様、お食事が終わりましたらお風呂も使ってくださいませ。お布団の準備も出来ております」
「ありがとう!!」

その日、夷隅家には一人の鬼殺隊士が滞在していた。任務の後に立ち寄ったらしく服はほんの少し汚れていたが熱い眼力を待つその隊士本人に怪我は無く祖父は「よう来なさった」と言ってその隊士を歓迎した。というのも祖父がこの隊士と会うのは初めてではなく顔見知りで、前回来た際祖母の食事を美味いと言ってくれたのが嬉しくて祖父はハキハキと話すこの若い隊士の事を気に入っているらしい。その話を聞いて莎弥もああ以前自分が寝ている時に来たと言う隊士の事かと思い出した。祖母も彼の事をハキハキと話す気持ちの良い方、と言っていたから同じ人物だろうと思ったのだ。しかしそれが分かってしまえば莎弥は隊士に申し訳がなかった。何故なら今日は祖母が体調を崩し寝込んでいたので莎弥が食事の準備をしたからだ。前に家に来た時「また美味い飯を食べさせてくれ」と祖母の言ったと言うから料理が上手な祖母のものでなくて悪いと思ったのだ。だがその隊士は。

「うまい!この家で出てくる食事はうまいものばかりだ!」

うまい、うまいともぐもぐと食べながら自分が用意した食事を褒めてくれたから莎弥は少しきょとんとする。莎弥は幼い頃から祖父母の手伝いをしてきたので家事は一通り出来て食事だって作れる。だから自分で言うのも何だが不味くはないだろうけど何度も連呼する程美味しいものではないはずなのに…。

「そんなに美味しいですか?」
「あぁ美味い!君のような若い娘がわざわざ作ってくれた食事だ!うまくない訳がない!」

その隊士は莎弥の問いかけにハキハキと答えた。

「えっ!どうして私が作ったと分かるのですか?!」
「前に食べたものと味付けが違うからな!」
「あ、やっぱり…」
「どうした?!」
「祖母の味を目指しているのですがいっつも上手くいかなくて。まだまだ修行が足りませんね」

莎弥は母の手料理の味を知らないから、莎弥にとってのおふくろの味は祖母の手料理だ。祖母の料理は近所でも美味いと評判で定食屋でも開けば良かったのにと言われるぐらい。そんな祖母のような料理を作りたいと莎弥は思っているから隊士に味付けが違うと言われ莎弥は少しシュンとした。

「だがどちらもうまい!疲れが一気に取れてしまいそうだ、ありがとう!」

だが隊士が元気良くそう言ってくれたので莎弥は思わずニコリと笑ってしまった。隊士は莎弥の眼を真っ直ぐに見て褒めてくれて、下手な言葉で取り繕われるより莎弥は気持ちが良かった。

「それはよろしゅうございました…」

そしてそろそろ食事も終わりそうだったからお茶でもいれてこよう思い莎弥が立ち上がり部屋から出て行こうとすれば。

「待ってくれ!」

莎弥は隊士に呼び止められる。

「はい」
「君の名前を教えてはくれまいか?!」
「私は、夷隅莎弥と申します」

隊士の言葉に莎弥は振り返り頭を下げた。すると莎弥か、と確認するように隊士は莎弥の名を呟く。

「ならば莎弥、と呼んでもいいか?」
「勿論です。好きに呼んでくださいませ」
「俺は煉獄杏寿郎だ!覚えておいてくれ!」

隊士…煉獄は握手を求めて莎弥に手を差し出した。

「煉獄さん」
「覚えたか?!」
「はい、覚えました」

莎弥は煉獄の手を取る。煉獄はギュウと莎弥の手を握り二人は握手を交わした。

それが煉獄杏寿郎と夷隅莎弥の初めての出会いだった。

 


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