07
夜留子はこれからも変わりない日々が続くと思っていた。
これからも気まぐれに鬼に愛でられそして飽きたらいつか自分も姉のように…。そう夜留子が思いながら過ごしてあの日の夜の惨劇から半年程の月日が流れただろうか。
「夜留子、好きだよ」
童磨は未だ飽きる事なく夜留子を可愛がっていた。夜、ごく普通の人間の男女のように営みをしそれが終われば童磨は必ずそう言って夜留子を抱き締める。
「ん?少し痩せた?」
「そうでしょうか?自分では特に感じなかったのですが」
「もっと太った方が美味しそうなのになぁ」
「ど、童磨様っ」
「あはは!嘘嘘、冗談だよ」
「もう、童磨様の冗談は笑えません」
「わぁ、怒った顔の夜留子も可愛いねぇ!」
そのやりとりはまるでただの恋人同士。童磨の冗談に夜留子は頬を膨らませその様子をなんて可愛いのだろうと童磨は笑う。そんな童磨だから夜留子が何を思い自分の側に居るのか考えもしないのだろう。その微笑みの裏に自分のこれからの人生を諦めている夜留子が居ると言う事を童磨は知らないはずだ。
「ねぇ、夜留子はこれからも俺と一緒に居てくれる?」
「はい。私はどこにも行きません」
「じゃあ俺達はずっとずっと一緒だね」
「はい。そうですね」
夜留子はこんな日々がこれからも続くと思っていた。
それは童磨も、同じだった。
「ゴホ、」
「咳が出ているね、風邪でもひいたのかい?」
「多分そうだと思います…ゴホッ、」
それは季節が秋に近づいてきたある日の事。童磨と夜留子は一緒に居て他愛もない話をしていたら夜留子が小さく咳き込んだ。夜留子の咳が二、三回続き大丈夫かいと童磨が背中を擦ればハッとしたように夜留子は顔を上げて童磨から少し距離を取る。
「どうしたの?」
「風邪だと童磨様に移っちゃうから…」
「ははは、鬼は風邪なんてひかないよ?」
自分の正体を鬼だと知っているのにそんな要らぬ心配をして、夜留子は馬鹿な子だなぁと童磨は思った。それと同時になんて馬鹿で愛おしい子だと感じ童磨は自ら夜留子に近づいてギュウと両手で抱き締める。
「童磨様…少し苦しいです」
「強かったかい?ごめんね。でもこうやって身体を温めたら治るかなと思ってね」
「布団で横になれば治りますよ」
「無理をしては駄目だよ夜留子」
いつまでも元気で可愛い夜留子で居ておくれ。
童磨の言葉に夜留子は分かりましたと笑った。それはいつものような微笑みだった、童磨が見てきた夜留子の笑顔。だから童磨は夜留子の言う通りこれはただの風邪だろう、身体をゆっくりと休ませたらすぐに治ってしまうただの風邪だと、思っていたのだ。
だがそれからしばらく経ってからだった。
夜留子が血を吐いたと、幹部から報告を受けたのは。
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