小説 | ナノ




Merci






「大学生なのか…」

「…よく、そうは見えないって言われる」


…まあ確かに厳ついし、どっかの土方の兄ちゃんとかヤのつく自由職の下っ端とかに見えるわな。
あれから次の日、さっそく履歴書を持ってきたユースタス屋の面接をカウンターの裏にある事務所で行っていた。


「前のバイトも、やっとのことで見つけたファミレスのキッチンだったのによ…」

「災難だったな…」


この十数分でわかったこと。
こいつは見た目より怖くない、そして人懐っこい。
少し人見知りな俺としてはこういうふうに向こうからきてくれる人間はありがたい。


「料理なら大体できるほうだ、どう?」


料理は今のところ全部ペンギンが担当している。
ペンギンは俺の代わりに色々と書類やら帳簿も付けたりと忙しいし、こいつが料理を担当してくれれば少しはペンギンの負担も減る。
まあそんなのがなくても俺はユースタス屋を採用してたんだろうけど。


「採用」

「…マジで?」

「俺は嘘、つかない」

「で、でも俺こんな見た目だぜ?」

「俺だってこんなに不健康そうだぞ?」


見た目なんて生まれ持ったもんだし、そうそう変わることなんてできない。
それにそいつのアイデンティティでもあるし、それを否定するのは俺は好まない。
それを言うと、ユースタス屋は何故か急に笑い出した。


「ぶっ、ははははは!!」

「ど、どうした」

「いや、あんた面白いなー」


泣けるほど笑えたのか、ユースタス屋は目元の涙を指で拭き取りながら言った。
何か変なこと言っただろうか?いつも思ったことをすぐ言ってしまうからなー。

「確かにあんた不健康そうだよなーちゃんと寝てんのか?」とユースタス屋の声を聞きながら何故笑われたのか考えてたが、わかった、そこか。そこで笑ったのか。


「これでも五時間毎日睡眠をとってる」

「もっと寝ろよー目の隈酷いぞ」


折りたたみ式の長机の向こう側から手を伸ばし、俺の目元に触れてきた。
あまりに突然のことで、その瞬間肩が跳ね上がり、固まってしまった。
そんなことに気付かず、親指の腹で目元を撫でながら「あんた目が青いんだなー」と呑気なユースタス屋。

え?え?何この状況?え、ええ!?もう頭の思考回路はショート寸前だ。
うわ、こいつの指結構堅い…あったかい。つか触り方がなんか優しすぎる。本当、見た目と正反対だな…なんだかツボにハマってしまい思わずプハッと噴き出してしまった。


「ん、なんだよー?」

「だ、だって、触り方があまりにも見た目と釣り合わなさ過ぎて…!」

「んだ、とぉ!?」


俺の言葉に赤面したユースタス屋。ざまあみろ、俺を脳内ショートにしたお返しだ。
一目惚れした相手がいきなり顔に触れてきたら誰だって固まるってーの!


「あんただから、こんなふうに触れるんだよ…」

「え、なんて言った?」

「あ、ああいや、なんでも!」


ユースタス屋のぽそりと言った言葉が聞こえなかった。
本人が何でもないっていうから深くは聞かないけど。

俺は立ち上がり、従業員専用のロッカーの前に立ち、空きロッカーの名札部分に持っているペンで文字を書く。
そして新しい制服をユースタス屋に渡す。


「これからよろしくな、ユースタス屋」

「ご指導よろしくお願いします、店長」


どちらからともなく、俺らは笑った。





Merci
(てーんちょー!面接終わったー?)
(シャチ、うるさい)
((…ギロッ))
((ペンギンさんだっけか?になんで俺睨まれてるんだろ…))



+++END+++




前回が意外と好評だったバーテンパロ!続きを書かせてもらいました!
これを今後、長編で書いていこうと思います!

しかし、まだ全然カクテルのお話とか出てこない…。
色々とカクテルの作り方とか名前の由来とか調べてるんですけど、やっぱり一番良いのは実際飲んでみて「あ、この味、こんなお話に合いそう!」とかしたほうが良いんでしょうかね。私まだお店でお酒飲めない!

さて、おまけセリフのほうにちょこっと次回予告みたいなものを書きました。
次は保護者がでしゃばります(笑)
キラーさんとかハートの海賊団のバンダナくんとかも出したいなー。

あ、このお話のキッドくんは天然たらしです。で、相手に言われて自分が何をやらかしたのか気付くっていう。本能で生きてる(笑)
ローさんは少しおどおどした感じ。ちょっとしたことで赤くなったり青くなったり、感情豊かです。たまらん!

ではではここまでお付き合いありがとうございました!


タイトルはフランス語で”よろしく”らしいですよー。(ボソッ)


霧咲
(2011.12.17)

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