小説 | ナノ




Une rencontre




煌びやかなネオンの街を一人ふらりと歩いていた。ただ当てもなくふらふらと、なんとなく一人暮らしのあの静かな家に帰りたくなかった。街中のたくさんの光を見つめながら今日あったことを思い出す。

今日は嫌なことばかりだ。
朝は寝坊して大学の講義に遅れそうになって急いで支度しようとしたら着替えは見つかんないわ、バイクのガソリンが切れていたり、結局講義には遅れてしまった。
それだけじゃない、嫌いな教師に絡まれたり、バイトはクビになるし、もう踏んだり蹴ったりだ。
こういうのをなんて言ったか…あぁ、なるほどこれが厄日か。なんとなく自分で納得してしまった。

とにかく今日はついてない、とことんついてない。おかげで朝からずっとイライラとした気分が晴れない。どこかで飲んで帰れば少しはこの気分も良くなるだろうか、そう思い周りに良さそうな店がないかきょろきょろと探す。

お。
なんとなく目に入ったその店は一見この華やかな街には不釣り合いなほど目立たないが、少し古びている建物もあじがあり、隠れ家的な雰囲気だ。
俺はその店に入ることにした。


カランッ―。
店の扉を開くと小さな鐘が鳴り、客が来たことを知らせる。入口は二、三段のちょっとした階段があり、そこを下りると少し薄暗いオレンジの照明で照らされたカウンターとテーブルがあった。
客はそんなに沢山はいないが、ちらほらと静かに酒を飲んでいるやつがいる。あまりぎゃいぎゃいとした場所が苦手な俺はすぐに気に入った。

いらっしゃいませ、と真っ黒のサングラスをかけている店員がいるカウンターの方へと向かい、俺は腰を下ろす。
店員はニコニコと笑っている。その店員の隣には黒髪の無表情なもう一人の店員がいた。


「お客様、ご注文は何にいたしましょう?うちの店は初めてですよね、メニューはこちらです」


そう言って無表情な店員がメニューを差し出した。メニューの一覧を見るとどこにでもあるカクテルの名前の下に”店長の気まぐれカクテル”とあった。
俺はそのカクテルがどんなものか気になり、店員に聞いてみる。


「なぁ、この”店長の気まぐれカクテル”ってのはなんだ?」

「あぁ、そちらはうちの人気商品なんスよ!」


店員は変わらずニコニコと笑って答える。ちょっと店長を呼んできますね!そう言い、店員は店の奥へと入っていった。
どんな店長が出てくるのか、どんなカクテルが出てくるのか、俺は少しドキドキしながら店員が店長を連れて戻ってくるのを待った。

二分ぐらいたってカウンターの奥の扉が開く音がした。そちらに顔を向けると、今まで予想していた店長と全く違う人間が出てきた。


「お待たせいたしました。今すぐカクテルを作りますので少々お待ちください」


男は少し青みのかかった黒髪に左右の耳にピアスをつけていた。身体はひょろ長く、目の下には隈ができており顎髭が少し蓄えられていた。
俺がその店長を観察している間にも、店長はカクテルを手際よく作っていた。さまざまなカクテルをシェイカーに入れていき、最後にレモンを少し絞っていれてシェイカーを振る。その姿に少しばかり見惚れてしまう。
シェイカーの中身をグラスへと注ぎ、俺の前へと滑らせる。


「お待たせいたしました、どうぞ」


そのカクテルの色は俺の髪と同じ赤色だった。俺はそれを少し口のなかに含ませる。
ほんのり甘い味に、炭酸が口のなかでパチンッとはじく感じになぜだかついさっきまでイライラとした気持ちが落ち着くような気がした。うん、美味い。


「これ、美味いな」


そう言うと、男は少し顔を赤らめて綺麗な笑顔でありがとうございます、と言う。
その姿に俺の脳内は真っ白になり、身体がピキッと固まってしまったような錯覚におちた。そして次の瞬間、体中の体温が顔に集まるのを感じた。


「お、お客様?顔が真っ赤ですが…」

「あ、いや、ちょっと酔っただけ…」


勿論そんなわけではない。自慢じゃないが俺は酒には強い方だ、それがカクテルを一口飲んだだけで酔うわけない。
何故顔が赤いのか、その事実に気付いた俺は認めたくなかった。


…一目惚れしただなんて、しかも男に。


恥ずかしくて店長の顔が見れず、俯く俺に店長はとても心配した顔で気分が悪いんですか?と聞いてくる。違う、気分は全然いいんだ。ただアンタの顔見るとダメなんだ…。そう答えるわけにもいかず、大丈夫だと伝える。


「そうですか…少しお疲れのようだったので甘めのカクテルにしたんですが…」


甘いのは大丈夫ですか?そう続ける店長の言葉に呆気にとられる。この店長めちゃくちゃ弱気だなーと思う反面、迂闊にも可愛いと思ってしまった。
眉をハの字にして恐る恐るこちらの様子をうかがう表情に愛おしいと感じてしまった。嗚呼、俺はもう自分自身がよくわからんくなってきた。
分かったのは、もうこの気持ちを認めるしかないということと、この後自分が何をするべきか。


「なぁ、この店で働かせてくれないか?」





Une rencontre
(…じゃあ明日履歴書を持ってきてください)
(ちょ、店長!?)
(いいのか?)
((だって一目惚れだもん…))



+++END+++



どうも、お久しぶりの更新で申し訳ないです…!
今回今まで書きたい〜と思っていた現パロのバーテンキドロを書かせてもらいました!
これ、本当は長編にしようかなと思ったのですが、またネタが思いついたら書こうということにしました。いやーいつも突拍子もなく長編書き始めてグダグダになるので…ね?←

ここでのローたんは少し弱気な24歳設定です。キッドくんは21歳の大学3年生です。三歳差ってなんか萌えません?私だけ?
あ、他の店員はもうお分かりでしょうがシャチさんとペンさんです。シャチさんはニコニコスマイル担当だよね!ペンさんはクール天然だよね!うへへ!

あ、キッドくんはローたんの笑顔に一目惚れしましたが、ローたんは初めて会った瞬間に惚れているという裏話。←

ここから二人のドキドキ☆な展開があると思います!…多分!
また機会がありましたら次は長編と言う形で書いて行こうと思います!

では、ここまで読んで頂き誠に有難うございました!




タイトルはフランス語で”出会い”らしいですよー。(ボソッ)



霧咲
(2011.9.30)

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