小説 | ナノ




彼と男の一週間(5)









そうだ、俺…














死んでたんだ。







俺とアイツの出会い、というか俺が一方的に認識したのは…高校の入学式の時だ。
式の最中に退屈で周りをキョロキョロと見回して、黒い学ランとセーラー服ばかりの視界で、それはとても鮮やかで綺麗な、赤。
モノクロの世界に赤い絵の具の雫を上からポトリッと落としたようなそいつの赤い髪に、俺は俗に言う一目惚れした。




後に名前を知った。それがユースタス屋だった。
ユースタス屋は中学のころから不良で有名らしく、みんなから恐れられていたそうな。
でも、アイツはそんなに悪い奴じゃないって俺は思った。
アイツは喧嘩は自分から決して売らずに買う側だったし、もし売る時でも友達が危ないときとかだって俺は気付いた。
それに、通りすがりでアイツが友達と話している時…すっごく綺麗な顔で笑ってたんだ。




ただ、それだけ。
それだけでアイツが悪い奴じゃないって断言できないんだろうけど、俺はコイツは絶対良い奴だって確信した。
クラスも離れていて、接点なんて全くない。
ただ同じ学年なだけ、アイツから俺の印象を聞けばそんなものだろう。
それでも俺はアイツを思い続けた。




二ヶ月前のあの日、俺は夕方の帰り道を一人で歩いてた。
もうすぐで進級し、クラス替えがあるのを楽しみにしてた。もしかしたらユースタス屋と同じクラスになれるかも、と淡い期待を胸に抱いていた。




青に変わった歩道の信号。
ゼブラ模様の道を歩き出す俺。
赤の信号にも関わらず飛び出てきた自動車。
それを視界にとらえた時はもう俺は宙に浮かんでた。







最後に見たのは、アイツと同じ鮮やかな赤だった。







そうだ、思い出した。
俺、最初からアイツのこと知ってたのに、こんなにも好きだったのに何で忘れてたんだろうな。




もう、時間、か。
記憶から意識を変え、目を開き自分の掌を見てみると、そこには薄く透き通った手が。
どうやら、もうここにはいられないようだ。
アイツも、俺のこと気付いたのかな?
俺のこと、意識してくれたのかな?
アイツと…ユースタス屋と初めて話せたから、もう悔いはない。




でも、最後にもう一回、ユースタス屋に…会いたかったな。



そう思い、俺はもう一度眼を閉じる。






…が。




「…っ、トラファルガー!!」



息切れ混じりのいつもより必死な大好きなアイツの声が。




「ゆ、すたすや…!」




眼を開けば俺の心を焦がすあの赤があった。
肩で息をして額に汗を浮かべるユースタス屋の姿。
それを見ていたら鼻がツンときて、我慢していた涙が眼からボロボロと流れ出てきた。




「な、んで…なんで来たんだよ!」

「お前こそ、何勝手に消えようとしてんだよ!?」

「そんなの、俺の勝手だ、ろ…!」




あぁ、可愛くねーな俺。
素直に来てくれて嬉しいって言えばいいのに。
なんでこうも思ってもないことを口にしちゃうんだろ。




「大体なぁ…お前は俺のこと好きなんだろ!なら、ちゃんとそれを俺に言ってから行けよな!!」

「!! な、なんでそのこと…」




誰にもこのことは話してないのに…!
そう口論している間に、ユースタス屋は俺の目の前まで近付いていた。




「思い出したんだよ!いつもいつも感じてた視線を!!」

「え…」

「バレバレなんだよ…お前の視線なんか」




その言葉とともに訪れる身体を包む心地よい暖かさ。
数秒経って、ユースタス屋に抱きしめられていることに気がついた。




「ばっ…!なにしてっ」

「ほら、俺に言うことあんだろ?」

「っ!」

「言えよ」






「俺…お前のことが、好き、だ」




あまりの恥ずかしさで最後のところは声が小さくなったが、それでも聞こえたのだろう、ユースタス屋はすごく優しくて甘い微笑みを俺に向ける。
そして頭をポンッと撫でてきて、優しい声音で耳元に囁いてきた。




「俺も、好きだ」





あぁ、俺いますごく幸せだ。




でも、その幸せもつかの間。
こうしている間も俺の身体はどんどん薄くなっていく。
やだ、やだ…いやだ!
まだ、俺、ユースタス屋と一緒に居たい!
そんな願いも、叶わない。




「ゆ、すた、やぁ…」

「…うん」

「おれ、ま、だ…ユースタス、屋と…一緒に居たい!!」

「あぁ、俺も…ローと一緒に居たい」

「…き、っどぉ!」



泣きじゃく
る俺の頭を優しく撫でるユースタス屋。
その顔は優しくて、すごく、すごく切ない顔をしていた。
タイムアウトの音が頭のなかで鳴った。




「キッド…!俺のこと…忘れるなよ!」

「っ忘れられるわけ、ねぇだろ…!」

「絶対…絶対だぞ…!」

「ロー!!!」




次の瞬間、一面真っ白の世界に変わった。







彼と男の別れ
(ロー…ロー!)
(ありがとう、キッド)





+++END+++



約一か月ぶりの長編更新で申し訳ないです…!
霧咲です!

今回、ついに両想いへと発展し、そして運命の別れの時…。
書いている時ちょっと苦しくなりました…。
まぁ、この小説を見て泣けることなんてないでしょうが…。

次回は、ローさんが消えた後のキッドさんの独白を書かせてもらおうと思います!
では、また次回お会いしましょう!!


霧咲
(2011.5.19)

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