推しに尽くしたい話 | ナノ


▼ File.4 服部平次の証言(37.2)

 中学生の頃、和葉に連れていかれた国会図書館での接触が初めてやった。結果として犯人やなかったけど行動は一番不審で、そのクセして容疑者に挙げられても狼狽えへん。帰り際に呼び止めた感じやと、やっぱりなんやえらい嘘くさい。多分、不審なことを自覚しとる。せやから和葉を話題にして逃げたんや。以降数年会うことはなく記憶は薄れてもたけど、その時に感じた得体の知れなさはずっとどっかに残っとった。



 工藤に告白紛いの録音データで揺すられ、鎌鼬の謎を追いに行って遭遇した事件を解決した。ほんま死神でも憑いとるんちゃうか。ともあれ、工藤のスマホから消したはずのデータはちっこい姉ちゃんが持っとるとかほざきよった。慌てて再度データの削除を求めるべく、外へ連れ出して、自販機があったはずやと記憶を掘り起こしてそこへ向かった。
 和葉らから確実に離れたという確信の下、工藤に意義を申し立てようとした時、あいつに再会を果たした。最初はこないな辺鄙なところに一人でいる変な女やと思ったけど、なんとなく見覚えがあって不躾にじっと見た。他の女に興味を示したことで工藤が和葉の名前を出したことで、思い出したんや。あの姉ちゃんや、ってな。
 そんで驚いたことに、向こうもこっちを覚えとった。面白がった工藤が先に自己紹介を始めたけど、子供を心配するような素振りを見せ、またしても和葉を槍玉にあげて逃げよったんや。
 興味を示した工藤に初対面の話をしたけど、あの場におらんかったからか微妙な顔をしよった。悪い人に見えへん? 不審なことに変わりはない。工藤に証明するためにも、今度こそその名前を頭に叩きこみ、次こそは逃がさへんでと決意した。



 三度目の正直にはならへんかった。偶然梅田のショッピングモールで一人でおるあいつを見かけたんや。またとないチャンスに友達と別れて距離を取りつつ尾行を開始する。生活雑貨を物色するが結局何も買わず出て、近くの本屋で多種多様な雑誌を手にして真剣な表情で選んでいる姿を息を殺して観察した。ふと、同じくあいつの様子を伺っている黒いスーツの男に気付いた。
 あかん、バレた。慌てて壁にもたれてスマホに視線を落として素知らぬフリをした。こっちに気付いたんはあいつやなくて、スーツの男や。鋭い目付きとオレに気付く洞察力、平均より筋肉質な体。少なくともただのサラリーマンではないんは確かや。悪い方ならヤクザ、良い方なら警察か。どちらにせよ、そういう人間に標的にされとるんは、やっぱりあいつには何かあるというオレの見解の裏付けやと思った。そこからスーツの男は標的をオレに切り替えたらしく、どうにか撒こうとするうちに人混みに紛れてあいつを完全に見失ってしもたし、気付けばスーツの男も消えとった。
 腹立たしいことにこれでは証拠と言う程ではなく、工藤にはまだ連絡せんかった。



 その次はとにかくタイミングが悪かった。和葉に告るためイルミネーションみに東都まで足を運んで、和葉と姉ちゃんを待つ間に事務所の下の喫茶店で工藤と二人時間を潰しとった。入った時は席を外しとったから気付かんかったけど、来店の音で咄嗟に振り向いてその姿を認めた。聞けば、ここの常連らしい。ほんまになんの冗談や。関西に住んどるのに、よりによってここか、と不信感がますます募った。あまりの偶然でふと工藤の追っとる組織関係やないかと思ったくらいや。あいつを友達だと言った店員の姉ちゃんが嘘をつく理由もなければ、一応工藤に確認したが嘘をつくタイプでもないらしい。男の店員と話す姿を睨んだ。
 そしたらまた事件が起こった。面と向かってあいつに会う時はいつも事件が絡んどる。今度こそお前か、となんとか息のある被害者に駆け寄ろうとしたんを止めたが暗闇での出刃包丁による犯行にも関わらず返り血はついとらんかった。軽く謝って解放したところ、返事もなく止血に動いた。工藤に小突かれたが、不審な人間を止めるんは当然やと無視した。

 被害者が救急車で運ばれても顔色が悪い姿に、たかがこんくらいで、どうせ演技やろ、と思いつつほんのちょっとだけ罪悪感が生まれた。

 翌日、事情聴取の流れで知ったと、工藤からあいつの勤務先を聞いた。大阪にある総合病院やった。勤務先を知らせた際に、悪い人じゃないと思うからほどほどにしとけよ、と何故か釘を刺された。工藤まで騙されよって。その化けの皮を剥がしたる、と躍起になった。



 その日は偶然暇ができて、あいつの事を思い出したんや。そんでバイクを飛ばしてあいつの職場である病院付近に向かった。この病院に伝手はなかったから、直接調べるしかない。なんとか部署を割り出し、まずは聞き込みをした。ネームプレートでその部署の何人かを記憶し、その後病院の玄関先であいつと同じ部署の女を捕まえて話を聞いた。
「テキパキしてて仕事しっかりやるし、努力家やしええ子やな」
 それが同僚による評価やった。最終的に三人に声をかけたがどれも似たり寄ったりで、個人情報ははぐらかされて何も聞き出すことはできへんかった。どうも信用に足る人物らしい。釈然としないまま帰路につき、ただモヤモヤだけが蓄積していった。

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