Raison d'être | ナノ


▼ 真夏の任務

「あーぢぃーー」
 草を踏み締め足を動かしつつ、色気もへったくれもない低い声を出した。真夏の任務はこれだから嫌になる。
「………………そうですね」
 止まらない汗を拭い、随分と間を開けてから七海が返事をした。強敵に備え、七海は鉈を隠すためにジャケットまで羽織っているのだ。他の持ち方を考えた方がいいとも思うが、サイズと取り出しやすさを考えれば致し方のないことだ。
「車で途中まで入れればよかったんだけど」
「道もありませんからね」
「日陰なだけマシだけどさ」
 そう言いながらチラと視線を上げる。目的地はキャンプ場の奥に位置する、森の奥の社である。直射日光がないだけマシではあるが、セミの声が非常にやかましく、煩わしい。ああ、帰りたい。今すぐ帰りたい。
「アナタは脱げたじゃないですか」と少し面倒くさそうに言った。
「すぐ怪我するから袖アリにしろって言ったの七海じゃん。インナーはノースリだし」
 ジャケットの裾を引っ張り、アピールする。まだキャンプ場に位置するあたりで音を上げ半分脱いだ時だって、制止をかけたのは七海だ。確かに山中では木々や葉で肌を切りそうなので、一理あると着たまま移動する選択をしたのは私なのだが。
「何も上着である必要はないでしょう」
「今私のことバカって思ったでしょ。だって任務中以外は脱ぎたいもん」と口をへの字に曲げた。
「脱いでないじゃないですか」
「さっき文句言ったの誰だよ」
「あれは仕事中です」
「戦闘中じゃないじゃん」
「呪霊がいつ出てくるとも分からないタイミングだったから指摘しただけです」
「選んだのは私だけどさーー」
 暑いものは暑いのだ。
「さっさと祓って」
「涼しいところで」とねじ込む。
「……ビール」
「と焼肉!」
 視線を交わし、こくんと頷き合う。この後の予定が定まった。
「決まりですね」
「決まり。よーし、さっさと出てこいや呪霊」
「そろそろ本気で探してください」
「はぁい」
 ふーー、と息を吐き出して切り替え、センサーを張り巡らせる。

***

佳蓮の露出を他人に見せたくない七海

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