散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 8月

「零は、よぉ」
 不意にデッキブラシの動きを止め、松田が口を開いた。
「ん?」
「合コン、誘われりゃ行くだろ。なのに大してキョーミなさそうにあっさり帰るよな。なんで?」
「……合コンでも行けって、言われたし」
 僕は掃除の手を止めず、苦笑いで正直に返した。
「誰にだよ」
「なになに。オレも気になるんだけど」
 萩原が割り込んで来たが、視線はこびりついた床の汚れに向いたままだ。こいつらになら、まあ、いいか。
「……片想い相手」
「ああ? 例の──」
「いや、そっちじゃない方」
 早合点しかけた松田を遮って「僕って結構俗物的なんだ」と視線をあげる。
「は!? え、嘘、好きな子いたの!? 諸伏詳細!」
 途端に色めきだった萩原がヒロに掴みかからんがばかりに食いついた。うるさい。
「いや、オレも聞いてないぞ。予想はしてたけど」
「何その秘密主義。てかその子なんて残酷なことを……それで正直に合コン行く降谷ちゃんも降谷ちゃんだけど。告ってないの?」
「分かってて言わせてくれない女性なんだ。年上でな。だからいろんな人と会って、その上で変わらずあの人を選ぶことに意味があるんだ」
「何その境地……結構年季入ってる言い方だな」
「十年になるかな」
「ウッソ、超一途。てかそんだけ付き合い長くてそれとか」
「ドンマイ」
「お前結構拗らせてんだなー」
「でも誰なんだ? そんな連絡取ってる素振りも見たことないけど」
「写真とかないのか?」
「おいおい、俺にも聞かせろよ」
 伊達が僕の肩に腕を回した。
「おら、班長も気になってるだろ」
「ない」
「えー、ケチケチすんなよ」と萩原が口を尖らせた。
「写真ないし、連絡先知らないし、会うの年に一度だし、年齢不詳だし、本名教えてくれないし」
「逆にそれそれどういう知り合いだ?」
 怪訝そうに伊達が言う。
「めちゃめちゃ脈ナシじゃん……しゃあねえなあ、飲みに行こうぜ」
「ああ、奢るぜ……班長が」
「俺かよ!」


***

向日葵────光輝

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