散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 7月

 七月七日。七夕。星祭り。年に一度、織姫と彦星が出会える日。大学生活も終盤になり、今年も短冊に願いを書く機会はないまま終わりそうだ。
 年に一度きりの逢瀬は、例年僕と桜ちゃんの関係を彷彿とさせる。ベランダで雲ひとつない夜空を眺めながら感傷に浸っていると、風呂上がりのヒロが中から出てきた。
ゼロも入れよ」
「……ああ」
 返事はしたけれど、僕は空を見上げたままだ。今日は泊まりで課題をやる計画になっていたが、その前段階で止まってしまった。
「叶えたい願い事でもあるのか? 短冊書いた? ほら、大学に誰かが笹置いてただろ」
「いや、通り過ぎただけだな。そうだなあ、来年から警察官になって日本を守ります、とか?」
「宣言かよ」
「じゃあ、ヒロと強い警察官になります、にしよう」
「やっぱり宣言じゃないか」
「なれますように、は織姫に願う内容としてはちょっと不適切な気がしないか?」
「そうか……棚機女なら、方向性が違うな」
「日本の平和でも願っておくか?」
「日本を平和にします、と書いてくればよかったな」
ヒロも宣言じゃないか」
「オレ達が警察官になっていく姿を見守ってください、じゃなんだかしまらないだろ?」
「だな」
 ヒロが僕の隣に並んで、一緒に星空を見上げる。都会の空は狭くて、些か寂しく物足りない。
 警視庁の募集の第一回に申し込んだ僕とヒロは、四月に一次、五月に二次試験を受けた。そろそろ採用の結果が来る時期だろう。もっとも、僕もヒロも、落ちる心配は全くしていないがな。
 だが、これで桜ちゃんに一歩近付ける。
 来年の春、警察官という夢の一つを掴んだことを報告しよう。社会人になったんだから、いい加減子供扱いなんてさせない。そして警察官になって、人脈と情報網を広げ、未来に生きる彼女を見つけ出す。絶対に。決意を胸に空を見据える僕を、ヒロが穏やかに見ている。
「……なんだよ」
「別にぃ」
 ヒロにジト目を返すと、視線を逸らして空を見上げた。
「あ、流れ星」
「えっ」
 慌てて顔を上げた時にはもう遅かった。
「見逃した」
「残念だったな」
ヒロ……何願った?」
「ん? オレたちの明るい前途かな」と言って肩を竦め、手すりに背を預けた。
「はは、それ三回唱えられるのか?」
「一回目の途中だった」と正直に告白し口を尖らせる。
ゼロならなんて言う?」
「──夢夢夢、かな」

***

百合────無垢

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