散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 9月

 二学期が始まってしばらく、学校は文化祭の準備でにわかに色めきだっている。
「降谷、諸伏、ちょっといいか?」
 昼休み、ヒロと屋上で飯を食っていると、クラスメイトの男二人が声をかけてきた。
「何だ?」
「学祭なんだけどさ、俺等でバンド組まねえ? お前らギター弾けんだろ? 俺ベース、こっちドラム」
 思わずヒロと顔を合わせた。夏前には既にギターを決めていなかったか。教室でバンド名決めようなどと騒いでいなかっただろうか。早々に音楽性の違いで解散でもしたのか。
「……なんでまた?」
「実はさ」
 今年始めたギターを、夏休みの間にあっさりと辞めてダンスに移行してしまったという。ギターなら他にも弾けるやついっぱいいるだろ、と爽やかな笑顔で先日断られたという。一発殴ってやろうかと思った、と付け加えた。
「で、この前お前らがギター弾けるって聞いてさ。ギタボを頼みに来たんだ」
「しかも歌うのか……」
「俺は歌大してうまくねえし」
「俺はドラムで精一杯」
「ボーカル探してもいいけどさ」
 そこで言葉を濁す。
「──あたし、降谷くんと諸伏くんが歌うとこ、見たいなあ。だそうで」
 その声真似で察した。クラスメイトに揺すられているらしい。不憫なやつだ。こいつが小学校からの知り合いに弱味を握られているというのは、クラス中の人間が知っていた。
 弾くことは構わない。歌うのもできる。
「ちょっと考えとく」
「おう、前向きに頼むぜ!」
「よろしくな!」
 ヒロの笑顔に食い下がることなく、二人は手を振ってあっさりと屋上を離れた。
「……で、どうする? ゼロ、迷ってんだろ?」
「まあな……」
 でも、みんなの前で歌いたくない曲がある。桜ちゃんの為だけに練習した曲がある。彼女以外に披露したくない曲がある。
「ヒロは?」
「正直どっちでも、かな。歌に自信はないけど、ゼロと一緒ならやってもいいかな」
 へらりと親友が笑う。やりたい、と天秤が傾く。
「曲次第だな」
「歌いたい曲あるのか?」
「……歌いたくない曲がある」
「あはは、それで返事に戸惑ってたのか。いいよ、夕方曲目聞いてくる。候補か、既に練習してるか……もう何かしら動いてるだろうしな。それで決めよう」
 ヒロはそれ以上聞いてこなかった。僕が、二人で弾いている曲以外のスコアを持っていることに気付いているからだろう。

 あいつらが予定していたあるラブソングを取りやめ、僕達は学祭でステージに立った。

***

竜胆────誠実

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