散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 1月

 年が明けて、大学受験が迫ってきた。もうすぐセンター試験で、来月が二次試験。もう追い込みの時期だ。模試の結果と判定は上々。だが試験は水物だ、何が起こるか分からない、油断するな、と担任は繰り返し言っている。それはそれとして、身につけた知識は無駄にはならないし、勉強自体はむしろ好きだ。新たな知識を取り込むのは楽しいし、試験はパズルみたいなものだ。正解があるのだから、それにぴたりと嵌るのは気持ちがいい。勉強が一区切りついて、伸びをした。今日はこれくらいにしておこう。
新しい卓上カレンダーには、試験日に赤丸をつけている。カレンダーに予定を書き込む習慣はないので、一層目立って映る。逐一予定なんか書かないし、ヒロの誕生日なんて当然頭にインプットされているし、自分の誕生日なんてわざわざ書かない。学校行事も書くまでもないし、ただの日付と曜日確認のツールとして働いている。
 ──あとは、四月くらいか。
 あの夢の、桜ちゃんの日には丸をつける。それからノートにその年の出来事を記録するのが毎年の習慣だ。次に会うときは大学生だ。浪人なんてない。第一志望しか目に入っていない。まあ、受験の空気を味わうためにも滑り止めの私立も受けるが。万一なんてものがあれば、それは体調不良か、事故か、不測の事態で受験会場に辿り着けなかった時くらいのものだろう。あとはまあ、マークミスもゼロではないか。一度クラスメイトが模試で解答欄がずれて惨憺たる結果を受け取っていたことを思い出した。今やったから本番は大丈夫さ、と励ましたっけ。ノートと参考書を閉じ、シャープペンシルを手に取る。
「あー……」
 第一志望に合格したと報告したら喜んではくれるだろう。そのあと大人扱いしてくれるだろうか。男扱いしてくれるだろうか。くるんとペンを回した。
 毎年折に触れて彼女のことを思い浮かべて過ごして五年以上。しょっちゅう話題に上がる色恋沙汰で想起するのだから仕方がない。桜ちゃんは僕のことを思い出すことがどれくらいあるんだろうな。
「少なからず関心はあるのは間違いないんだが……」
 その程度が難しい。年に一度の逢瀬で、会話で、僕の年齢や前話したことをよく覚えているからな。受験生になるんだっけ、と前回聞かれた。意識的でないとああはいかない。まして桜ちゃんのスペックを考えれば確実だ。好意の絶対値は大きい。問題は。
「ベクトルだな……」
 もっと大人になって、彼女の関心を引き寄せる。僕もオトコなのだと自覚させる。結婚はまだだと言っていた。少なくとも現実味はなく、特段焦ってもいないようだった。つまりまだ猶予がある。
「優しくて、料理上手で、包容力があって、背が高く、何より笑顔が素敵な人、か」
笑顔が最低条件で、あとはオプションのようだったが。身長というどうにもならない項目をクリアしたいたのはラッキーだ。まずは彼女に恋人ができる前に、一刻も早く、恋愛対象に入る。その垣根さえ乗り越えることができれば、きっと。

***

水仙────自惚れ

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -