散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 12月

「……寒い」
「寒いな」
 世間はクリスマス。肩を寄せ合う男女に混ざって佇む男二人。
「フラれてなければなー」
 苦い顔で親友はコーヒーの入ったカップを握り締めた。紙であるそれは容易く変形し、店員がマジックで描いた顔も歪んでしまった。
「まあ、過ぎたことだけど。あいつらまだかな」
「十五分前に集まる連中には見えないな」
「悪かったって、ゼロ」
 今日はとある講義の班員から独り身を集めた飲み会だ。しかし待ち合わせまでの時間潰しで寄ったコーヒーショップで親友の元カノと出会し、気まずさについテイクアウトを選択した結果、寒空の下に晒されることになっていた。
 独り身でなければこの待ち合わせ場所にはいないし、この近くのコーヒーショップにも行っていない。出会っても気まずくならない。──いや、その場合は修羅場か。
「そんなことはいいんだが、まったく納得いかないな。ヒロと別れてあの男か……いくら何でも見る目がなさすぎる」
 散々付き纏って押し切って、いざ付き合いかけた途端になんか違う、と別れを切り出した女。彼女遍歴にカウントしなくていいレベルの完全なる事故だ。
「はは」と乾いた声を上げる。
「どう考えてもヒロの方が圧倒的に優良物件だろ。理解できない」
「だといいがな」
「あれって経営科の先輩だろ。あまりいい話を聞かない」
「知り合い?」
「前期で講義が一つ被ってる」
 留年してるから、とまで説明はしないでおいた。温くなったコーヒーを飲み切り、ヒロの手から空のカップを回収して一緒に捨てた。
「はー、買っちゃったクリスマスプレゼントどうしようかな」
「マフラーだっけ?」
「そ」
「今日夏木来るだろ。あの子にあげればよかったんじゃないか? 気にしなさそうだし」
 ヒロとよく話している子を上げると、確かにな、と頷いた。
「むしろ喜びそうだ」
「ついでに次のテストの過去問までくれそうだな」
「顔広いもんなー。打算的だけど、捨てるよりマシだったかぁ」
 今後顔を合わせる機会が減るので思い出させることも少ないという理由もある。いくつか講義が被っているが、学部が違う彼女とは今後そうそう会うこともない。
「ま、見返り考えるならゼロが渡した方が効果はありそうだけど」
「え?」
「彼女、面食いだから。って言っても付き合う云々じゃなくて観賞用? らしいよ。良かったな、お墨付きだぞ、イケメン」
「一番使いたいところで発揮できないイケメンなんて……」 
「え?」
「いや、何でもない」
 桜ちゃんが僕の顔を見たら、何か変わるかな。まずは面食いか、そして好みか確かめたいが、共通認識の芸能人もない彼女にどう聞いたものか。あと数ヶ月、考える時間はたっぷりある。

***

カトレア────あなたは美しい

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