散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 5月

 春が過ぎ、早くも少しずつ初夏の様相を呈してきて日によってはスーツが些か暑苦しい。
 霞ヶ関、警察庁が僕の本来の職場だ。そこに向かう道すがら、懐かしい顔を遠くに認めて咄嗟に小道に逸れ、遠回りを決めた。
 伊達航。親しくしていた警察学校時代の同期だ。潜入捜査官になってからというもの連絡を断っている。例外は、親友の遺品を彼の兄代わりに渡してもらうために封筒を送り付けたことだけだ。あいつのことだから、ヒロの死を悟っただろう。
 僕達は五人グループだった。そのうち三人はもうこの世にいない。
「二月、か」
 夢の中で聞かされた懸念事項を伝える予定はない。伝えたら安心するのか、と尋ねただけで伝えるとは言っていない。言ってくれと食いさがられたら、分かったと嘘をつくつもりだった。彼女が安心して笑っていればそれでいい。第一突然姿を現したところで荒唐無稽な話を受け入れられるとは思えないし、占い事態が漠然としている。占いというのは基本的にバーナム効果だ。つまり誰にでも当てはまることを最もらしく告げる。相手の反応をみながら行えば当たったような、当てられたような気がする。二月に事故あるいは天災に合うというのは少し具体的だが、あくまで少しだ。 それに仮にカードを信じたとしよう。死神のカードは別離を示すが、それは彼女が心配しているような死とは直結しない。例えば上司の後ろ盾、例えばそろそろ結婚してもおかしくない恋人、例えば追っている事件での失敗。
 どれならというわけではないけれど、あの時の桜ちゃんの様子はおかしかったから。多分、ハギと松田とヒロの件に引っ張られているのだろう。それほど彼女は僕のことを心配して、一年を過ごしていた。彼女の生活の中に僕の存在は根付いている。
 遠回りの分、足早に警察庁に向かった。元気そうな顔が見れただけで充分だ。



「げっ」
 警察庁の少し手前で、何故か再び伊達を見かけて慌てて物陰に身を隠す。呼び出しでもくらったところなんだろう。ひょろりとした童顔の男と足早に道を進んでいるので僕には気付かないはずだ。
 二人が完全に過ぎ去るだろうほんの数分、息を殺した。



 二度あることは三度ある、というのはそれこそバーナム効果などではなく今日に限っては事実らしい。
「三度目の正直にならずに済んだことは僥倖と言うべきか……」
 霞ヶ関の駅前で先程の後輩らしき男の肩に腕を回す、爪楊枝を咥えた男の姿があった。少し身を屈めて普段頭一つ分高い自分を人混みに紛れさせ、踵を返す。
 なんで言わないのよ、これは言えというお告げだよ、とむくれた桜の声が後ろから聞こえた気がしたが、振り払った。

***

あやめ────消息

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