散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 4月

 夜桜を眺めながら、僕は親友の家に向かって歩いた。手にしたずしりと重いスーパーの袋にはアルコールとチーズ、それからナッツ。親友はバイトあがりにツマミを作っているので、少し回り道をしても構わないだろう。
「桜ちゃん……」
 やっと今年もあなたに会える時期がきた。楽しみで、ちょっと不安だ。何度も景に話そうと思った。今日もそのうちの一回だ。頭がおかしいと言われかねない夢の話だが、あいつならなんだかんだ受け入れてくれるだろう。でも結局、なんだかもったいなくて毎回やめてしまう。
 彼女欲しくないのか、と色んな人に何度も問われた。欲しいよ、と答えた。誰でもいいわけじゃないからな、と付け加えた。
『じゃあ降谷はどんな人がタイプなんだ?』
『つまり、明るくて、話を聞いてくれて、あと年上か!』
 好みの調査を頼まれたという同級生の男がガッツポーズをしたのは先月の飲み会でのことだ。意中のバイトの後輩にお願いされたらしい。タイプも何も、思い浮かべた人がいるだけだ。年上、と景が苦笑いで小さく呟いたのが聞こえた。想像したのは僕の初恋の人、エレーナ先生のことだろうな。
「年上なんてもんじゃないよな……」
 はあ、と不毛な恋心に溜息をつく。好きなんだから仕方ない。理屈じゃないんだ。
 初めて会ったあの日にはとっくに大人だと認識した。以来十年、これっぽっちも老ける──顔は分からないから、肌や体つきだ──気配がないから、都合よく見積もって二十かそこらだとしても今は三十。二十五なら今は三十五。言ったら怒られそうなので黙っているが、三十五から四十五とかだったらさすがに見た目に出そうなので、ほぼ却下している。推定年齢差、十から二十。二十歳と三十歳なら、二十五歳と三十五歳なら見込みがあるんじゃないかと夢見るのをやめられない。
 例え、実態がもっと開いていようと。
 きっと桜ちゃんは未来の人だ。その憶測を伝えるつもりはない。ますます閉じられてしまうから。例えばハイドロコロイド系の絆創膏が一般的なこと。例えば、身近にある音楽のこと。地名だって、どこかの市が改名したとしたら。進行する地球温暖化も、つまりはそういうことだろう。会話の中で引用した歴史上の人間も、童謡も、彼女は知っていた。過去は同一だ。
 いつかこの世界にいる彼女を捕まえにいく。その為にも、僕は警察官にならなきゃならない。ぶわりと風が吹き、桜が巻き上げられ、空へと飛び立つ。ほとんど無意識に手を伸ばし、その花弁の一つを手の中に収めた。

***

かすみ草────切なる願い

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