自由主義者の欄外余白 | ナノ

21論


「さて、今日はミオに行く日だな。迎えは何時も通りの時間で良いかな」
「はい、お願いします」

博士は一週間に一度、ミオの図書館で勉強する時間を作ってくれた。
コウキくんの吸収スピードが異常に早く、このままでは先生の面目が丸潰れなので負けじと本を漁っていたら、博士が提案してくれたのだ。

勿論タダという訳ではなく、図鑑の説明文を考えるのに協力するのが条件だ。
具体的には、ディアルガとパルキアの伝承について。
いくらポケモン図鑑でも、伝説ポケモンの詳しいデータなど取れる筈も無いので、伝説ポケモンの項目は伝承に関する記述を増やす予定らしい。
博士もこういった方面は研究対象ではないので、あまり詳しい訳でもない。しかし忙しい身の為、諸説ありますの諸説を全部調べる訳にもいかなかった。

そこで、俺の出番という訳だ。ある程度は俺の判断で整理し、後はオーキド博士と都合が合う日に二人で纏め上げる、という流れだ。
博士からは有名な物をいくつかピックアップする程度で構わないと言われている。
なので俺がする事と言えば、ひたすら二匹の伝承に関する記述を探すだけだ。

それを午前中に済ませておくと、午後からの時間は自分の勉強に使う。
まだ情報が古い所為か、人によってポケモンのタイプの説が違って面白い。
悪タイプと鋼タイプの存在に気付いている人もたまに見掛ける。

ただ、何となくラルトスの項目に目がいった時、毒タイプの技に弱いという記述を二度も見掛けたのも気になった。エスパーが毒に強い、ならまだ解るが。
…俺の知らないタイプがある?まさかなあ。

借りていた本を戻しながら気になる本を手に取っていると、ふと視線を感じた。
顔を上げれば、あまり顔色が良いとは言えない男が此方をじっと見つめている。
視線の先は…ああ、この本が読みたかったのかなあ。

「えっと…読みますか」

あまりにも熱い視線を頂いて居心地が悪かったので、此方から切り出してみた。
すると、男は無言で本を受け取って視線を落とした。
聞いているかは怪しいが、目の前の棚にあった本だという事も伝えておいた。
何時も変な場所に返却されて整理が大変だって、図書委員の子が言っていたなあ。

「先程、気になる事を呟いていたが」
「え?」
「ポケモンのタイプの相性について。現在広く認知されているものとは一部異なる可能性がある…君も気付いているのだろう」
「えっ、もしかして貴方もですか」
「ああ。私以外に気付いた者と実際に会ったのは君が初めてだ」

この人も研究職か学者だったりするのだろうか。
あまり日に当たっていないのか、血色の悪い相貌からは、室内に篭って一心不乱に机に齧り付く典型的な研究者像を容易く想像出来た。

「良ければ君の考察が聞きたい。時間を貰って構わないだろうか」
「はい、俺で良ければ是非」

この人を取っ掛かりに、本来のタイプ相性を広める事も出来るかもしれない。
それに研究所の人以外と意見を交わす機会は無かったし、良い勉強になる筈だ。

早速近くの机に向かい、時には参考にした本も広げながら話し合った。
おお、この人、悪タイプと鋼タイプの存在を確信してる!
気付けば新タイプ相性表が完成していた。一仕事終えた後の爽快感を覚える。
うんうん、俺の記憶に間違いが無ければこれで合っている筈だ。

「わあー…凄い、嬉しいなあ。ありがとうございます、楽しかったです」
「此方こそ有意義な時間を過ごさせてもらった。君はよく此処に来るのか」
「はい、毎週この日に。神話について調べながら勉強していて」
「神話?それはディアルガとパルキアの神話か?実を言うと私もそうだ」
「えっ、そうなんですか」

この人は元々、神話を調べに図書館に来ていたそうだ。
うわあ、偶然は重なるものなんだなあ。

もし来週も会えたら、一緒に神話について調べる約束をした。
これで図鑑制作も捗りそうだ。今日は良い人と会えたなあ。収穫収穫。
もうすぐ時間というところで解散し、迎えに来た博士の元へ行くと、何か良い事があったかと微笑まれた。あはは、解りやすかったかなあ。

「友達が出来たようで何よりだ」
「友達…」

友達かあ。
島のポケモン達は家族だし、研究所の人も友達という感じではない。
つまり、この世界で俺に友達と呼べる人が出来たのは、これが初めてだった。

少し面映ゆい気持ちになりながらそれを伝えると、博士に頭を撫でられた。
お祖父ちゃんという雰囲気だからか、博士に撫でられるのは嫌ではない。
ハマナさんも見た目子供な俺をよく撫でたり抱き締めたりしてくるけど、精神年齢年下の女性にされるのはさすがに恥ずかしいものがあるんだよねえ…。

――あ、そういえば、あの人に名前を訊くのを忘れていた。

来週また会えたら、名前を訊こう。
歳も本来の俺に近そうだったし、仲良くなれると良いなあ。





興味深い少年に出会った。
この年頃の男児にしては少々色白い肌に、栄養失調気味と思われる線の細さ。
いかにも病弱な文学少年と言った風貌の子供だ。
深い緑の瞳に宿す透明な光は、世界を切り離して見つめているようだった。

少年が抱えていた本は、私も以前手にした事がある物だった。
いくらか言葉を交わして気付いたのは、彼も私と同じ頭脳を持つ子供だという事。
生を受けて二十余年、此処まで白熱した議論が出来たのは初めての事だった。

すぐに確信した。
彼も私と同じ世界を見るに違いない。
彼も私と同じ世界を望むに違いない。

――彼を私の夢に加えるのも面白そうだ。

週に一度、図書館に通っていると話した少年。
同じ曜日に同じ場所で、開館と同時に待っていると、すぐに少年は現れた。

「先週は自己紹介もしてませんでしたよね。俺、一緑って言います」

少年は、穏やかな笑みを少しだけ子供らしくして、そう名乗った。
こうして話せる友達は初めてだと、透明な光に微かに色を混ぜてそう言った。
私に向かって友達などと言ってくる人間も、初めての事だった。

そうか、そうか。友達か。
それならば、長く付き合っていこうじゃないか。
君は私に、何を見せてくれるのか――――


「私はアカギだ。友人として、仲良くしよう」



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