自由主義者の欄外余白 | ナノ

22論


アカギと知り合ってから数ヶ月が経った。
かつて赤城という名前の同級生が居たので、何となく懐かしい気分になった。
性格はアカギと正反対で社交的な人気者タイプ。毎日人集りの中心に居た奴だ。
そんな人間が近くに居たので、アカギを呼び捨てにするのも違和感は無かった。
ついでに敬語じゃなくて良いとも言われているので、遠慮無くそうしている。

アカギのお陰で神話はすぐにまとまり、博士の図鑑制作も順調に進んでいる。
欲を言えば、ギラティナに関する本を見つけてから伝えたかったが…これが未だに見つからない。代わりにダークライやクレセリアの話はよく見掛けるのだが。

「もし彼等が本当に存在するとしたら、イノリは彼等に会ってみたいか」
「ふふ、一度はお目に掛かれたら光栄だよねえ。ああでも実は俺、ディアルガには伝えたい事があるから、叶うならお話もしたいなあ」
「伝えたい事?」
「うん。ちょっと謝罪をね。迷惑を掛けてしまったから」
「迷惑…?接触した事があるのか」
「直接は無いけど、多分。だから俺は、ほぼ彼等の存在を確信してるんだよ」

どころかその二体を生み出した神様と二回程言葉を交わしている。さすがにこれは口に出すと頭のおかしい奴一直線なので止めておいたが。
でも、アカギと友人を続けるなら、俺の体の事も話しても良いかもしれない。

俺の体と言えば、此処最近ぐんぐん身長が伸びていて成長痛が辛い。
当時と比べてほぼ二倍の速さで伸びているので、周囲には異常に映るだろう。
それをカバーしてくれるのが、おふざけで付けられた愛され補正である。
健康的になってきて良かったね、とハマナさんとイナバさんに揃って泣かれた時は突然どうしたのかと焦ったものだ。疑う事を知らなすぎてある意味心配になる。

調べ物も終わって時間に余裕が出来た日、アカギにエルディとカフカを紹介した。
この辺りでは珍しい二匹に、アカギは僅かに驚くと興味深そうに見つめていた。

「るる…」
「あれ、カフカ?どうしたの?」

抱えていたカフカが、アカギを見るやいなや緊張したように顔を隠してしまった。
そういえばこの子、俺以外の人間に対してはちょっと人見知りだったなあ。
研究所の皆にも少し遠慮がちだし…こう言ったらなんだけど、アカギは眼光鋭くて一見睨んでるっぽく見えるから余計怖がってるのかも?

「えい」
「…何をしている」
「いやあ、アカギの眉間の皺を伸ばしたら少しは愛嬌が出るかなあって」
「余計な世話だ」

という割には黙って受け入れる辺りがアカギの可愛いところなんだけどねえ。
ぐりぐりぐり、と人差し指でアカギの眉間を擦りながら、腕の中のカフカに向けてほ〜ら怖くないよ〜とアピールしてみる。

するとそれを目にしたカフカは――何を思ったのか、テレポートでアカギの頭上に来ると、その顔を小さな手でぺしっと叩いた。

ぺしぺしぺし、げしげし、ぺしぺしぺし。

「…………」
「…ええー…か、カフカ?何してるの…」
「るるっ!るるるらっ、らるー!」

カフカは今も尚、アカギの頭にくっついて叩いたり蹴ったりしている。
攻撃と呼ぶには可愛らしいものだが、アカギの仏頂面の上でカフカが暴れ回る為、髪の毛がどんどん面白い事になっていく。はっきり言ってシュールだ。

「カフカ、だあめ。こっちおいで」
「らるるっ!るるるらー!」
「あらら。どうしちゃったんだろうねえ」
「私を警戒しているのではないか」
「だとしても、此処まではっきり態度に出すのは珍しいんだよ」
「…ならばイノリ、バトルをしないか。戦って発散させた方が早いだろう」
「それは…カフカがやりたいなら、構わないけど」

どうする?と訊く前に、カフカは地面に降り立ち、シャドーボクシングを始めた。やる気満々のようである。本当、急にどうしたのこの子。

「決まりのようだな」
「ううん…実はこの子、今までバトルした事無いんだよねえ。お手柔らかに」

正直、俺がこの子の力をまともに引き出せるかも怪しいところだ。
アカギは少し驚いたように目を見開くと、怪我はさせないと頷いてくれた。
ちなみに、エルディは無邪気にもカフカを応援している。

アカギがボールを投げる。出てきたのはニューラだ。
…何となく二者に既視感を覚え、はて、と内心首を傾げた。

「ニューラ、あいつを落ち着かせてやれ」
「にゅうらっ」
「るるっ」
「うん、頑張ろうねえカフカ」
「初手は譲ろう」
「ん、じゃあ有難く」

さてさて、相手は素早さの高いニューラである。
更に言えば悪タイプの為相性としてはこの上無く最悪だが、カフカが満足するまで戦いたい今回は、効果無しというのはお誂え向きだ。

――という訳で。

「まずはカフカ、影分身」
「らるるっ!」

そもそも相手の技が当たったら意味が無いし、初手は積み技安定かな。
至る所にランダムに現れるラルトスの影。
ニューラは本物を見極めるように耳をぴくりと動かした。

「電光石火で全て消せ」
「にゅらっ」

今回の目的上、アカギはニューラの得意とする騙し討ちを使わないでくれている。使われたら弱点な上にタイプ一致で恐らく一瞬で倒されるからだ。
だからまあ、最初はそう来るよね。
ニューラは非常に素早いから、一瞬で全ての影を切り伏せるだろう。
――そのままであれば。

「テレポートから鳴き声!」
「むっ」

影が一斉にシャッフルする。ただ黙って立っているだけなんてナンセンスだ。
その上影からもきちんと声が響く。囲まれた上での鳴き声はさすがに怯む筈だ。
相手に隙がある内に念力を指示する。当然効かないけど、今回はそれで良い。
ニューラはカフカの攻撃にすぐに対応し、上手く躱しながら影を消していく。

「カフカ、もう一度影分身して」
「甘い。挑発」

もう一度技を繰り出すよりもニューラの方が早い。
挑発が決まった上に、他の影もあっという間に消されてしまった。さっきのような誤魔化しはもう使えない…以前に、効いてくれないだろう。

「容赦無いなあ」
「余裕そうだな」
「いやいや」

カフカはレベルが低いからもう念力しか使えない。余裕どころではない。
睨み付けるを挟んだ後に引っ掻くを仕掛けてきたので、念力でほんの一瞬程動きを止めている間に躱させる。…ラルトス本人はあまり早く動けない。

「るるるっ!!」

早く挑発終われ、と念じていると、カフカが回避にテレポートを使った。
あれ、いや確かに早く終わるのを願ったけど、いくら何でも早すぎないか?

「ふむ…?」
「ん、んん?まあ良いか。距離取って鳴き声!」
「電光石火!」

その後も似たような応酬が続き、カフカが疲れてきた頃にバトルは終了となった。
…カフカは物凄く不満そうだったが。



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