ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

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あ。


思わずそんな声が飛び出た。
昨日もこんな感じで目を覚ました気がする。

目の前には、赤い目をした男。頭に何か、青い炎のような物がくっついている。
あと、顔が死んでる。この人大丈夫かな。大丈夫じゃなさそう。うん。

「生きてる?」

こくり、小さく頷いた。

「ふーん。チョコ食べる?」

友達に貰ったお菓子を試しに差し出してみた。
赤い目の男は僅かに首を傾げた後、緩く横に振った。要らないらしい。
仕方ないので大人しく鞄に戻しておく。鞄の中身は大分少なくなっていた。

どのくらい寝てたかな。家族や友達は心配してくれているだろうか。
ぼんやりしていると、突然全身を柔らかな光が包んだ。
驚いて包まっていたシーツの中から飛び出して、また驚いた。

膝小僧の擦り傷があら不思議、綺麗さっぱり消えている。
ついでに言うと地面を転がって出来た諸々の傷も跡形も無い。なんとまあ。

さっきまで全身を苛んでいた、じくじくとした痛みも消え去った体を見下ろして、再び顔を上げれば、赤目の手からキラキラと柔らかく暖かい光が灯っている。
あの奇妙な巨大生物がいる時点でお察しではあったけど、やっぱり抑えきれない、この胸のトキメキ!

「これが噂のホイミかあ」

ケアルでもヒールでもキュアでも良いけど、とにかく回復魔法である。
此処で重要なのは魔法という部分だ。皆の憧れ、長年の夢、超能力だ。
赤目は何か言いたげに熱い眼差しを送っている。ホイミじゃないのは知ってるよ。

「ありがと。返せるもんは無いけど」

さっきのチョコは要らないと言われてしまったし、他の物はいざという時の為にも手放すのは惜しい。また危機一髪な鬼ごっこが始まるかもだし。
だから曖昧に微笑んでそうお礼を返せば、赤目はさっきのように首を横に振った。構わない、という事らしい。それで良いなら有難く。
よいしょ、と鞄を肩に掛けて、ひらりと手を振った。

「そんじゃまた。どっかで会えると良いね」

と、一歩踏み出そうとした瞬間、ぐいっと力強く引っ張られて変な声が漏れた。
軽く涙目になって振り返れば、少し焦ったような色を滲ませる目が其処にあった。

「ぐ…な、何すんの」
「…外はまだ危険だ。行ったら死ぬぞ」
「あ、喋れたんだ」

ごめん。ごめんって。今までずっと無言だったからそう思ったんだよ。もうそんな残業続きのサラリーマンにも劣らない死んだ顔に戻られても私困っちゃうよ。
それにしても、まだ、か。それってさっきまでは危険じゃなかったって事だよね?私が此処に来た時は何も居なかったし、それ程危険そうな感じも無かった筈だし。

「詳しく訊いても良い?私が寝てる間に何かあったんだと思う。何で危険なの?」
「…近くの森から変な臭いが流れてきて、魔物が暴れまわってるんだよ」
「変な臭い」
「あれが薄まるまでは此処で大人しくしてた方が良い」
「多分それ私の所為だよ」
「は?」

ぽかんと此方を見るその顔はさっきより打って変わってとても笑えた。
肩を震わせていると睨まれた。眼光が鋭い。
ああ、本当だ。生きてる。

「その、魔物?から逃げる為にね、香水をありったけ振りまいたから。っふふ」
「……」
「あんたさ、そっちの方が良いよ。その顔。さっきのより全然」

そう告げると、ちょっと驚いた顔をして、その後すぐにふい、と逸らされた。
あまり良い表情とは言えないけど、むすっとした不機嫌そうなそれは、血が通って大分可愛らしくなった。何よりである。

「で、あんたも此処に逃げ込んだんだ。先客が居てごめんね」
「別に」
「私は何か大規模な迷子っぽくてさ。気付いたら森の中だったんだよね」
「気付いたら、?」
「そ。そんでなんか謎の巨大生物に襲われてて。吃驚したけど何とか逃げ切って、命辛々辿り着いたのが此処だったってワケ」

絶対使わないけどお姉さんも仕事だし、と受け取った試供品が無ければ、とっくにお陀仏だっただろうな。人生何が活路を開くか解んないね。ありがとうお姉さん。あんたの事は忘れないよ。私の命の恩人として私の心に刻んどく。

赤目は何やら深刻そうな様子で考え事に耽っているようだ。
もしかしたら私が此処に居る理由でも知ってるのかな。
この人も突然の迷子で、同じ境遇の人を探してるとか、あるかも?なんて。

「ねえあんた。あんたも迷子ならさ、一緒に行こーよ」
「俺は迷子じゃない」
「んじゃ保護して。私あれと戦えないもん。でもあんたは見た感じ戦えそうだし。少なくとも対処は出来るでしょ?」

此処に無傷で居るのがその証拠だ。
対する赤目は嫌そうに顔を顰めた。確かにお荷物が増えるのは嫌だろうな。
でも私だってこのままこんなとこで死にたくないもん。

「……断る」
「じゃあ勝手に着いてく。死んでも気にしなくて良いよ。恨みもしない」
「それは、」
「とりあえず人が居るとこまでね。後は自分で何とか帰る方法を探すから」

逃すまいと赤目のマントをしっかり掴めば、赤目は深い深い溜息を吐いた。
見事勝利を獲得した。意地でも着いてってやる。

「あ、あんたシーツ要る?多分そのままだと寒いよ」
「要らない」
「私、小舞蒔笑乃。笑乃で良いよ」
「おい」

構わず赤目の周りにシーツを巻きつけていく。
さすがにマント一枚じゃ冷えると思うんだよね。雨降ってきたし。雨漏り凄いな。

「あんたは?」
「…クレアシオン」
「長いね。クレアって呼んで良い?」
「やめろ」
「えー。じゃあシオンって呼ぶ」
「…それもやめろ」
「んー。じゃあレイシー」
「……、……もうそれで良い」
「やった。レイシー、寒いから入れて」

シーツが少なくなった代わりにレイシーで暖を取ろうとしたら逃げられた。


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