ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

きえてしまいました。・26


「うわああああ俺も殺されるんだああああ!!もう御終いだあああ!!」
「うるさいなあ」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ魔王に、レイシーは溜め息を吐いた。
すると魔王は突然、あっ、と空の向こうを指差した。レイシーがその先を見る。

「馬鹿め、引っ掛かったな!!未来予言!!」

レイシーは構わず魔王を殴り飛ばした。

「お前本当能力使うの下手だな」
「おじいちゃん…」

ルキちゃんは残念なものを見る目で魔王を見つめていた。
魔王は尚も駄々っ子のように騒いでいる。

「あ、そうだ、そうだった!!」

がばりと起き上がる魔王の顔は、一転して満面の笑みだった。

「そういえばお前、俺のこと殺せないんだったな!」

ふっと、憎悪が湧き上がり、そうになるのを、ぐっと堪えた。
必死に何でもないふりをして、何も考えないようにして。
ああ、この時点でもう駄目なのかもしれないけど。

「何時までもあんな過去にしがみついて!!だからお前は所詮人間なんだよ!!」

駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ!!
笑乃、あんたは出来る子。
耐えろ耐えろ耐えろ、耐えろ、耐えて。

「殺さなくても封印出来んだよ」
「そうだった、そうでした!!うわああああ許してええええ」
「ろ、ロス、私も行く!」
「は?」

慌ててレイシーの傍に駆け寄った。
全力で感情を殺していたレイシーは、途端に困惑した視線を向ける。

「もう、置いてかれるのやだ!約束破るのもやだ!」
「エノ、お前…」
「あーっ!!お前あの時殺したお荷物ヒロイン!!何で生きてるんだよ!!」

魔王は、私の事を覚えていたらしい。
幽霊でも見たかのような目で私を指差す魔王に、私は呪うように睨み付けた。
――駄目だよ笑乃、まだ耐えて。

「えっ、え?エノも、魔王の知り合い?どういう事…?」
「…ロス、ねえ、私も一緒に、封印してよ。寂しいのはもうやだよ」

説明するには、時間も無ければ心も持たなかった。
ユーシャさんの声を無視して、レイシーに懇願する。

「ロス、」
「エノ。そっちじゃない」
「……レイシー?」

首を傾げると、レイシーは満足そうに笑みを浮かべた。
けれどそれは何処か寂しげで、私は、嫌な予感しかしなくて。

「エノ、俺は、何よりもお前が大切なんだ。何よりも、愛おしいんだ」

レイシーは私の頬を撫でると、柔らかく目を細めた。

「約束、破ってすまないな。――幸せに生きろよ」

レイシーは、私を突き飛ばした。
立ち上がろうとしたら、動けなかった。
その場に繋ぎ留める、レイシーの魔法だった。

ひどい、こんなの、ひどい。
解ってる。レイシーは本当は酷くないのに。

「っやだ!!やだ!!レイシー!!やだああああああ」

汚く我武者羅に暴れまわった。喉を割くように名前を叫んだ。
周囲の目なんて気にせずに、何度も何度も。

「戦っ、……、…クレアシオンさん」

ユーシャさんが引き止めるように呼び掛ける。
もう、頼みの綱はユーシャさんしか居ない。

「どうしても…おま、貴方も一緒じゃなきゃ…」
「何です、俺が居ないと夜一人でトイレに行けませんか?」
「行けるよ!!」

こんな時でもふざけるレイシーに、全身の力が抜けた。
それと同時に、きっと私は、未来を諦めてしまったのだ。

「いや、その…まだ12人の魔族も封印しないといけないし…」
「そんなもんやっといて下さいよ、勇者さんが」
「そんな!!ボクは勇者なんかじゃ…貴方の子孫じゃないんでしょう!?」

実際は勇者の血も何も継いでなかったユーシャさんは、不安そうに震えていた。
けれどレイシーは、魔王から生まれた勇者は、それも軽くあしらった。

「誰かの何かじゃなきゃ何にもなれないんですか?」

ユーシャさんは言葉を詰まらせた。

「自分で勝手に勇者になって下さいよ。大丈夫出来ますって。というか出来ないと困ります。勇者さんにはエノを守ってもらわないといけないんですから」

良いですか?勇者さん。
エノは俺の大切なヒロインなんですから。
本当、頼みましたよ。それじゃあ。

レイシーは、そう言って微笑んだ。


「頑張れよ、アルバ」


きれいに、きれいに、悲しすぎる程のえがおで。


「楽しかったぜ」



「ロス!!!!」


ユーシャさんの手は、空を切って。

その指先に、レイシーと同じ目の色をしたスカーフだけが、静かに舞い落ちた。


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