ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

ぼうけんのしょは・25


ぐるぐると、何時までも、あの光景がリフレインする。

クレアが腹を割かれた日。
エノが腹を割かれた日。

それに重なるように、勇者さんが。
二度と繰り返さないと決意していた筈なのに、エノが。

――ああ。

ああああああああ。

「何です、死なないと思ってました?」

違う、違う、違う――俺は。

突然、首に負荷が掛かった。
それまで居た場所が抉り取られる。
――敵の攻撃だ。何時の間に。

「何呆然しくさってんだよ。お前も死ぬ気分か?」

この声は、フォイフォイとか言う奴か。
頭に打ち鳴らすような痛みが響いて、言葉が上手く聞き取れない。

「これだから戦争を知らない国の兵士さんは」

掴まれていた手が離される。
地面に体が崩れ落ちて――実際、痛みは感じなかった。

――ああ、そうだ。もう、解っていたんだ。俺は。


右手に熱が篭る。

そのまま――全ての力を、開放した。





すうっと意識が浮上する。
何時もは声が出ちゃうけど、今回はそんな事無かったな。

「――――あれ?」

ユーシャさんの声が聞こえた。
何処か気怠い身を起こせば、不思議そうな顔のユーシャさんが目に入った。

「――使った!!使ったな、クレアシオン!!」

ぼんやりしたままの脳が途端に覚醒した。
クレアシオン、クレアシオン?どうして今その名前が。
レイシーを見ると、右腕には確かに勇者の紋章が浮かんでいた。

「クレアシオン…?クレアシオンってお前、勇者の…」
「そうです!彼こそが、伝説の勇者クレアシオンなのですよ!!」

――ああ、レイシーが、力を使ってしまったんだ。

「え、戦士、お前、…貴方が、クレアシオン…?」
「…そうだよー」
「軽ッ!!」

ユーシャさんは、レイシーに対して何処かぎこちなかった。
それが、何故だか酷く悲しかった。
レイシーの顔に色は無い。

アレスさんがレイシーをおじいちゃんと呼んだ。
でもレイシーには元から子供が居ない。アレスさんは撃沈していた。
そういえばレイシー、好きな人居たのかな。

「使いたくなかったんだがなー。使っちまったもんはしょうがない」
「ロス、」
「エノ」

もう、良いんだよ。
そう言って、レイシーはわらった。
レイシーが外したスカーフが、空へ舞い上がった。

「さて、――さっさとお前倒して魔王封印するか」
「何を言ってるんですクレアシオン!!死ぬのは貴方の方ですよ!!」

まっくろくろすけが影を膨らませた。
無数の刃がレイシーに降り注ぐ。

でも、駄目だ。
本気を出したレイシーに、そんなものは意味が無い。
レイシーは、魔力の塊だけで影ごとまっくろくろすけを吹き飛ばした。

「あ、癖でギリギリ死なない程度の攻撃しちゃった」

ぎくりとユーシャさんが震え上がった。
違うよ、多分、もしかしたら違わないかもしれないけど、違う。

「お前の魔法は時間を操る魔法ではないのか?何故世界に何の影響も無い!?」
「お?何だディツェンバー、良い顔だなあ」
「怖いよ伝説の勇者!!」

レイシーは何時もの不敵な笑み――に似せた顔をする。
レイシーは、誰にも解らないくらい、今まで通りを振舞っていた。
――レイシーがそうするなら、私もそうする。

「ロスの魔法、別に誰も時間操作なんて言ってないよ」
「何!?」
「はは、俺の魔法はなあ――何でもアリなんだよ!」

例えば、攻撃魔法を打った後、世界の影響を消す魔法を使う事だって出来る。
二つに分かれたユーシャさんの体を治す事だって、魔力さえあれば簡単に出来る。
私も、多分、死んでたけど、レイシーが治してくれた。

「そして、お前をアフロにも出来る」
「おお、よりまっくろくろすけに近くなった」
「やめたげてよお!!!!」

レイシーが指を鳴らしただけで、まっくろくろすけの頭はもこもこになる。
でも、難しい顔のまっくろくろすけってあんまり可愛くないな。
まっくろくろすけはしばらく何か呟いた後、喜々として立ち上がった。

「そうか、魔王様か!!」

レイシーの顔から、一層色が抜け落ちていく。

「貴方が恐れる程の存在なのだな、初代魔王ルキメデス様は!!」
「本当あの人テンション高え!!」
「魔王?ああ――」

レイシーは、さっきと同じように指を鳴らした。

「こいつね」

しゅんっと傍らに現れたのは、魔王だった。

「え、はあ!?」
「――え?何、此処何処?え…あれ!?クレ、シー!?」

魔王は、隣にいるレイシーに気付くとぎょっと目を見開いた。
レイシーは気にせず魔王に電撃を浴びせる。
泣き叫ぶ魔王に、まっくろくろすけは戸惑っていた。

これで、まっくろくろすけを倒して、魔王を封印すれば。
そうしたら。

「ハッピーエンドだな」

違う。
こんなの、違う。

「お前には、何も怖くなかったのか…?じゃあ何故、お前は…」

そんな筈無い。
レイシーは。

レイシーは、ずっと。

「そうだな」

その時、とうとう完全に、レイシーからは全ての色が無くなってしまった。

「最初から迷う権利なんて無かったんだ」

――俺は、勇者クレアシオンなんだから。

「私はッ!!私の計画はぁぁああああぁぁああああ!!!!」

レイシーは、まっくろくろすけを魔力で塗り潰すように消し去った。
本当に、一瞬で終わってしまった。

「――もう、終わりだよ」


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