ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

27 ぼうけんのしょをつくる


ああ。

ああ、ああ、レイシー。

「うえええええ、れい、れいしー、」

どうして。何で、こうなっちゃったんだろう。
違う、本当は解ってた筈なんだ。何時かはこうなるだろう事。
だけど、でも。レイシー。

「やだよおおお、やっと、えぐ、やっと会えたのに、」

延々と、そればかりが頭の中を駆け巡る。

「やくそくしたのに、ひどいよおお、うう、うえええ、」

違う、本当は、レイシーはちゃんと、私を守ってくれた。
ユーシャさんに私を託してくれさえした。
だけど。

「れいしーのばかああああああ」

何時までも、子供のようにわんわんと泣きじゃくった。
色々な感情が爆発して、悲しくて悲しくて、もう、それしか出来なかった。

皆が何か話している。でも、それも全部遠かった。


でも、その中で、たった一声、それだけが確かに聞こえた。


「魔王はボクが復活させる」


広い荒野の真ん中で、それは一番大きく響き渡った。
思わず泣くのを止めてユーシャさんを見上げる。その表情は見えない。

「ああ?何言ってんだ?折角平和になりくさったのに」
「平和になんかなってない…これじゃ…」
「その通りじゃ、少年よ!!」

遮るように声が響いた。
振り向くと、王冠を被ったおじいさんが此方に走ってきている。

「魔王はまだ生きている、封印されただけじゃ!!」
「王様…!?」

ルドルフさんが呟いた。
ああ、あれが。

「また何時復活するかもしれない、その可能性に人々は恐怖しなければならない。それを平和と呼べるか!?否!!」

うるさい。

「行くのじゃ少年!!平和の為に、世界を救う為に!!」

うるさいうるさいうるさい!!
レイシーが、レイシーが、どんな思いで!!

湧き上がる思いのままに、口を開く。

「さすればお前に勇者の称号と莫大な富を与え」
「うるせぇええええぇえぇえぇぇえええええ!!!!!!!!」

私が叫ぶ前に、ユーシャさんが叫んだ。
その拳は、王様を地面に殴り付けていた。

「魔王とか勇者とか!!称号とか富とか!!そんなもん知るか!!!!」

私が怒る隙も無かった。
どころか、何処かにすっ飛んで行ってしまった。
本気で怒ったユーシャさんは、初めて見た。

「世界を救いに行くんじゃない、友達を迎えに行くだけだ!!」

止まっていた涙が、また溢れ出した。

「魔王を封印するって事は、あいつも一緒に閉じ込めてるって事だろ!?あいつが止めなかったらエノまで、また何百年も、何千年も、誰も居ない空間に…!!」

きっとそれは一瞬だった。
私みたいに、気付けばその日、目覚めていた。
でも、レイシーは、それまでずっとひとりぼっちだった。

それが、ユーシャさんに出会って変わった。
…変わってしまった。

「何ですぐ力を使わなかった?そんなもん決まってるだろふざけんな!!」

ささやかで、それでも大きなものを、望んでしまったのだ。

「あいつだって…あいつだってな…!!」

ずっと、あの幸せな夢を見ていたかった。
ユーシャさんとの旅は、楽しかった。手放したくなかった。
あともう少しが重なって、でも、夢から覚める時が来てしまった。

「世界は平和になんかなってない!!エノがまだ、其処で泣いてるじゃないか!!泣いてる人が居るのに、これで何で平和だなんて言えるんだよ!!」

だけど、夢が覚めても、それを現実にしようとしてくれる人が其処に居た。
たった一人の友達の為に、喉を枯らしてくれる人が。
涙が溢れる理由は、少し前とは違っていた。

「それになあ!!それに何より、あいつが!!」

顔を上げたユーシャさんは、涙を散らして、叫んだ。



「ロスが、笑ってない!!!!」



ユーシャさん。
ユーシャさんは勇者じゃないって言ったけど、でも、私にとってはもう。

息を切らすユーシャさんの肩を、アレスさんが叩いた。
そして、手に持っている小さな機械のスイッチをかちりと押した。

『ロスが、笑ってない!!!!』
「ブフーあまーい!!」
「悪魔か!?」

何時の間にユーシャさんの声を録音していたんだろう。
アレスさんはけらけらと笑った。

「大丈夫大丈夫。クレアシオンさんも、この台詞聞いたら笑ってくれるよ」
「容易に想像出来る!!」

ああ、うん。そうだ。そうだね。笑うだろうなあ。

「笑われても、ボクはロスを救いに行くぞ!!どんなに時間が掛かっても!!」
『どんなに時間が掛かっても!!』
「ちくしょおおお!!!!」
「大丈夫!きっとアルバさんなら出来るよぷぷぷー」
「ルキちゃん!?」
「…ふ、あは、あははっ」
「エノまで!?」

何故だか、笑いが溢れてしょうがなかった。
悲しいけど、それでも今は、少しだけ晴れやかな気持ちでいられた。
ユーシャさんはがくっと肩を下ろしていたけど、その表情は穏やかだった。

「あのね、ユーシャさん」
「うん?」
「私、嬉しかったよ。だからね」

ユーシャさんなら、何故か絶対、出来る気がするから。

「きっと、レイシーを助けてね。――アルバくん」
「…うん、任せろ、エノ!」

アルバくんは、夜明けの太陽のように、頼もしい笑顔を見せてくれた。
私も、涙が溢れるけれど、釣られて笑っていた。

「私も一緒に頑張るよ。どんなに時間が掛かっても!」
「ちょおおお!?ナチュラルに傷を抉るのやめてええ!!」
「あはは」
「どんなに時間が掛かっても、か…じゃあまず三十年だな」
「え?」
「王族に手をあげた不敬罪でな」

三十年だ。

アルバくんはお城の地下牢に入れられた。
えへへ。こういうところも、アルバくんらしいよね!


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