ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

おきのどくですが・24


城の近くで集団を見付けた。
其処に向かって、ヒメちゃんはラストスパートに入った。
途中、黒い何かを突き飛ばしていた。デジャブ?

「あれ、また何かにぶつかりました?」
「ヒメちゃん、止まれ止まれ。着いた着いた」
「えっ?あああ、早く行って下さいよ〜」

アレスさんは頭部をガンガン殴ってニューヒメちゃんを停止させた。
ずっとルキちゃんを心配していたルドルフさんが飛んでいく。
私もそれに続いてニューヒメちゃんから飛び降りた。

「ロス!ユーシャさん!」
「あっ、エノ!」
「エノ…」

フォイくんと無事を確認しあうユーシャさんの元へ走る。
その隣には、以前の服に戻ったレイシーが居た。
勢い良く抱き着くと、レイシーは柔らかい笑みで迎え入れてくれた。

「エノ、もう少し待ってろ。すぐ終わらせる」

軽く頭を撫でると、レイシーは体を離して武器のエンジンを起動する。
あれ、そういえば交戦中だったんだっけ?
そっか、頑張れレイシー。

「――そうガッカリすんなよ、ディツェンバー。勇者の力が見たかったんだろ?」

レイシーが大剣を構えた。ユーシャさんと並ぶその後ろ姿は凄く頼もしい。

「見せてやるよ。新しい時代の――勇者の力をな」

えへへ。レイシー、格好良い!

「――で、結局何?あいつは敵?」
「黒幕ですよ」
「え、黒幕!?」
「確かに真っ黒だね」
「それとこれとは関係無いと思うなあ!!」

さっきからこっちを睨み付けているまっくろくろすけ。
あいつの所為でユーシャさんは指名手配犯になってしまったらしい。

「まあ幼女の衣服剥いだのは自己責任ですけどね」
「ごめんなさいいいいいい」
「え?幼女の衣服を剥いだ?」
「なっ何でもないです、落ち着いて下さい!」
「最初に会った時、私の服を剥いだんだよ」
「!!!??」

ルキちゃんは素直に進言した。
唯一言い逃れ出来ない罪だもんね、しょうがないね。
怒りに染まったルドルフさんは、悪魔のように赤く燃え上がった。

「ンァァアルバァァァァアア!!!!」
「うわあ!!怒りで羽が生えてる!!」
「待てよ、今は争ってる場合じゃないだろ!」
「こっちも違う感じで生えてる!!」
「良いな、私も何か持ってくれば良かったな」
「仮装大会じゃないからね!?」
「あ」
「そっちはそっちで何してんの!?」
「お前等ふざけてるんですかああああああ!!!!」

まっくろくろすけが地面から黒い波を出して攻撃してきた。
ちなみに、ニューヒメちゃんは酷使しすぎて壊れてしまったらしい。

「何なんですか一体…私の計画を邪魔しに来たのか、お遊戯会を見せに来たのか…お前もあんな啖呵きっておいて、なんてザマですか!!」
「しまった、お遊戯会が滑稽すぎて見とれてしまった…」
「お遊戯会言うな!!」
「――もういい、全員消えて下さい」

途端にまっくろくろすけから巨大な闇が溢れ出した。
まっくろくろすけの足元から溢れ出すそれは、ぐにゃぐにゃと形を変える。
あれは、影?

「これが、私の魔法――ドゥンケルハイト!」

影から刃物が現れる。
正確には、影が武器の形になった。
無限に武器を作れる魔法かな。射程は何処までだろう。
レイシーに言われなくても既に距離は取っているけど…逃げるのは難しいかも。

「切り刻んでやる」

まっくろくろすけが影を指揮しようとして――その動きが止まった。
影がまっくろくろすけの意思に反するように、その腕を絡め取っている。

「はい残念、オレでしたー」
「なっ」

まっくろくろすけの影の中に、違う影が紛れ込んでいた。
あれは見覚えがある。やっくんを洗脳した奴だ!
岩にもたれ掛かっていた魔女さんが、ビッ、と指差した。

「ディツェンバー、お前が影を使った攻撃をするのは知ってたほが」
「だからこうして二つに分裂し、お前の陰に潜むタイミングを計っていたのさ!」
「……?仲間割れ、?」
「鮫島の技で味方に着いた」
「えっ、やっくんの友達だよね?凄い」

遠くに避難しているミーちゃんとやっくんの他に、赤髪の学ランさんも居た。
あの学ランさんが噂の鮫島さんか。後で挨拶したいな。

「私がただ腰を痛めて動かないだけだと思ってたほがか…?あまあまほがよ!」
「残念だったなああディツェンバァァァァ!!貴様は実は既に、我々の策に嵌っていたのだああああ!!」
「早く攻撃してええええええええ!!!!」

ユーシャさんが叫ぶと同時、まっくろくろすけの影の切っ先が走る。
二人は一撃で倒されてしまった。凄い威力だ。

「ほら言わんこっちゃない!!!!」
「あー」
「全く、洗脳が役目のお前達が洗脳されてどうする」

折角のチャンスが消えてしまった。
でも、まっくろくろすけの方も大分消耗してるように見える。
私はこのままレイシーの邪魔にならないように、ユーシャさんの後ろに居よう。

「――そうだ、お前だ」
「え?」

レイシーとユーシャさんが居れば、大丈夫――



「お前、最初に死ね」


ざしゅ。


闇の向こうから溢れた赤が私に降り注ぐ。
脳の奥がちかちかと瞬いて。それで。

お前が。

お前が。

憎い。憎い。憎い。



あ。

思わずそんな声が飛び出た。
声と一緒に、同じ赤がごぽりと溢れた。


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