ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

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慌ててやられてしまったやっくんの元へ駆け付ける。
やっくんに大きな怪我は無いようだ。

「ロスさんその力は…」
「大丈夫だ、ギリギリで抑えてある…」

多分、とロスさんが呟いた。
一体何の話だろうと思っていたら、何時の間にか黒い男が居た。
ディツェンバー、とやっくんを倒した子供が呼んだ。こいつがディツェンバー!

「ロス?名前を捨てたとでも言いたいのですか」

ディツェンバーは何かに気を取られているようだ。
今の内にロスさんからやっくんを預かった。やっくん、大丈夫だろうか。

「どうして貴方が此処に居るのですか?いや…貴方が此処に居てはいけないんだ」

にしても、開けた屋外なのに影が凄い。黒い。何だあいつ。
ディツェンバーは何事がブツブツ呟くと、急に不敵な笑みを浮かべた。

「成程…解りました、安心しましたよ」

顔に手をやり、仮面を外すように――って影取れたよ!?本当に仮面!?

「貴方、体は復活してますが勇者の力はまだ眠ったままなんでしょう?」

――勇者クレアシオン!!

一瞬、ディツェンバーが何を言っているのか、誰に言っているのか解らなかった。
勇者、勇者?クレアシオン?それってあの、伝説の勇者?

「どうりでやたら魔力が小さい訳です…さっき一瞬ユーリ君の攻撃避けるのに力を使ってましたよね?という事は、使えない訳ではなく自粛してるって事でしょう?貴方が百パーセントの力を出せば――魔王様の封印が解けるんですかねえ!?」
「さあな」
「試してみる価値、ありますよね?それ以外に理由無いですし」

ディツェンバーと話しているのはロスさんだ。
つまり、え、何?ロスさん勇者なの?どエスなのに、伝説の勇者なの?

えっ、という事は伝説のどエス!?何それ踏んでほしい!!!!

ってそれどころじゃないよ!!

「伝説の勇者なら、力使ってあいつ倒しちゃえば良いんじゃない?」
「それだとお爺ちゃんが復活しちゃうかもしれないんだよ」
「だからあいつら倒して、そしたらまた魔王封印すれば」
「無理ですよ猫君」

はっとして振り返ると、ディツェンバーが愉快そうに此方を見下ろしていた。

「強力過ぎる魔力は使うと世界に影響を与えちゃうんですよ」

俺も、やっくんに影響されて知能を得た猫だ。
やっくんの段階でそうなるって事は、勇者レベルの力ならどうなるだろう。
それこそ、世界が貫通する穴が空いてしまうかもしれない。

「それに、千年前は魔王様お一人でしたが、今回は私達も居ます。世界への影響を考慮しながら私達を倒し…更に魔王様を封印するつもりですか?」

ロスさんは力があるけど、ありすぎる所為でまともに動けない。
俺もお嬢ちゃんも戦えないし、他に戦える人は皆気絶中だ。

「ふふ面白くなってきた…ユーリ君、あの三本アンテナ殺っちゃって良いですよ」
「え、本当?良いの!?」
「奴が勇者の力を使わずに死んだら、元々の計画を進行すれば良いだけですし」

ああ、駄目だ。絶望的だ。
あって無いような二択を突きつけられて、ロスさんが歯軋りした。
俺は不安で胸を満たしながら見上げる事しか出来なかった。

ユーリと呼ばれたあの子供の魔族が、頭を変化させる。
やっくんを噛み殺そうとした、あの龍の頭。

「じゃあ死ねよ」

ぴくりと、ロスさんの指が動いて。



ドッ

「へ」
「え」


――誰かが龍に激突した。


「ぐわあああああ!!!!マジかよあいつ撃ちやがったマジ痛え!!!!」

舞い上がる砂埃の中から、現れたのは、赤い子供。
やっくんが俺を託そうとした、あの勇者。

「てか、何処だよ此処…ん?」

ぐるりと周囲を見渡して、勇者は勇者と目が合う。

「よ、久しぶり」

それは何処か、安心するような笑顔だった。

「――何だよお前はあ!?」

邪魔すんな、と振り上げられた巨大な腕は、しかし寸でのところで止められた。
アルバさんを庇ったのは――鮫島さんだ!!

「ツリ目君、回復ありがとう。大分楽になったよ」
「なっ、俺の一撃を受けて無傷だと!?」

当然だ、鮫島さんはどんな攻撃だって受け止める!
ユーリが慌てて後退した。元に戻した腕は服が破けて丸見えだ。
こうして見ると、非力な子供のそれにしか見えない。

「何だよお前、服に防御呪文でも仕込んでるのか!?」
「何も仕込んじゃいねーよ。けどな――」

鮫島さんの学ランが、砂風に乗ってふわりと揺れた。

「俺は背中に、どんな鎧よりも硬えモン背負ってんだよ」
「しまったああ成程おおおお!!」
「いや、理由になってねえよ!!」

アルバさんが叫んだ瞬間、空気が固まった。

「ほ…本当だ……理由になって、ない、」

鮫島さんは崩れ落ちてしまった。

「――勇者さん?」
「反応遅え!!え、気付かなかったの、今更!?」

戦士達が居なくなった後大変だったんだぞ。
仲良しグループに混じっちゃったみたいな感じもあったりさ!
本当、エノが居なかったら大分きつかったからな。
あっそうだ、撃ち出されたからエノ置いてきちゃったよ!!おおお怒るなよ!!
って、あれ、聞いてる?ちょっと戦士ー!

何時も通りのアルバさんに、空気が塗り替えられていく。

「すみません、普段と服が違うので解りませんでした」
「こっちが普段着!!てかお前等の格好の方が変だろ!?」

呆けていた俺達の真上に荷物が落ちてきて、慌てて回避するように伏せる。
中身はロスさん達の装備らしい。一緒に発射されたのか。

「しかし何だよこの状況、あいつら何?めっちゃ睨んでるんだけど」
「――全く、楽しい雰囲気だったのに台無しですよ」

何故か影の仮面を付け直したディツェンバーは、不機嫌そうに呟いた。

「もう少し楽しもうと思ってましたが、これはもう」
「あ、ディツェンバー、危な」

エンジン音が聞こえると思ったら、ディツェンバーが吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばしたのは、見覚えのある鎧の頭部。
其処から降りてきた、アルバさん一行の最後の一人。

「――ロス!ユーシャさん!」
「あっ、エノ!」
「エノ、」

胸中の不安は、すっかり消え去っていた。
ようやく、全員――揃った!


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