冒険者の心得
[ 7/11 ]

 疾走

 獣道をひた走り、両脇の緑が次々と流れていく。
 後ろから響き渡る迫撃の音。ウィルは焦りを微塵も心に置かず、暗い藍色の目に力強い意志すら見せて、木の根を蹴り進む。目指す先に人影を見つけ、彼は声を張り上げた。
「フィリップ、アーエ!」
「万物の根源、純力の矢となりて我が敵を穿て=v
「大地の僕達(しもべ)よ 今ここに集いて討ち果たせ=v
 少年の声と女性の声、ウィルの後ろから響く獣の絶叫。身を翻(ひるがえ)し、立ち上がれば大人の一.五倍はあるだろう大熊へと得物の長剣を構えた。隣に走り寄り、同じく長剣を構えている焦げ茶色の髪の青年と目が合い、にっと笑う。
「効いたろ? オレの純力の矢(エネルギー・ボルト)」
「さあ? 俺は喰らってないんだ。熊に聞いてくれないか?」
 おどければ、相手は面白くなさそうだ。後ろから「気を抜くな」と水を差され、互いに肩を竦めて熊へと構え直す。
 蜂蜜熊(ハニー・ベアー)は血走った目でこちらを睨んできている。注意を飛ばしてきた大斧使いの男が、宗教の者である事を示す聖印を揺らしつつ、暗灰色の髪の青年の隣に並んできた。板金鎧(プレートアーマー)をがちゃがちゃと煩く鳴らしながら姿を見せた、薄らでかい背でできた影に、ウィルは心の中で溜息をつく。
「分かっています。注意引くの頼みます、司教」
「ああ。くれぐれも手はず通りに行くぞ」
 熊の突進を大斧で受け止める司教。鎧で爪の侵入を防ぐその姿は圧巻の一言だ。革鎧程度の青年では、あの腕で締めつけられてしまえば、簡単に骨折してしまいかねないというのに。
 すぐさま木々の間に隠れ、熊の左右へと回り込む青年らの代わりに、男は熊と対峙。再び彼へと振り下ろされる爪の光を、ウィルは確かに見た。
「我らが正義、お見届けくだされ! 騎士神の御名(みな)の元に!」
 爪を再び受け止める巨漢の男性。見計らったように、ウィルの反対側から飛び出した影が熊を斬りつけ、仲間が熊の注意を引く中、青年も飛び出す。
 振り返った獲物が避けに転じるのを、胴薙ぎで追い討ちをしかけた。
 広がる音。
 これだけ傷を負ってもまだ動けるらしい。毛皮を纏った大きな体が覆い被さってきた。直後呪術の声を聞きつつ、抱き締めの攻撃を喰らうまいと体を逃がしにかかる。
「純力の矢(エネルギー・ボルト)ッ!」
 少女の声が響いた。
 射抜かれた衝撃を殺せず、熊は仰向(あおむ)けに倒れていく。暗灰色の髪の青年は顔を綻(ほころ)ばせかけ、慌てたように引き締めて――少年じみた声の青年に肩を叩かれて笑みを隠せなくなる。
「ひゃっほー! 美味しい所持ってかれたな、ウィル!」
「別にお――僕がやる必要ないだろ。いたっ、痛いっ、浮かれすぎだフィリップ!」
「お前達どちらもだ!」
 ズガン
 勢いよく振り下ろされた拳のおかげで、背中の痛みなど欠片もなくしてしまえる衝撃に蹲るウィルとフィリップ。暗灰色の髪と、焦げ茶色の髪それぞれを抑えて呻く若者二人。司教である男性が褐色(かっしょく)の肌に強面(こわもて)の顔で、憤然と見下ろしてきているのなんて、拳のおかげで手に取らなくとも分かる。
「ウィル。確かに、ここまでの誘導はお前に任せた。だが合図は私が担当だったはずだぞ」
「だ……ですが……いっつぅ……」
「フィリップ、前線に出るタイミングは私の指示のはずだ。さらに言えば左右に散った後の行動も身勝手、連携と呼ぶなど見苦しいものに値する!」
「だ、だけどよ……いってぇ!?」
 相変わらず口の利き方を弁えない幼馴染を横目で見やりつつ、さらに自分へととばっちりが来ないよう、ほんの少し足を動かしながら逃げるウィル。女性と少女が近づいてきて、片方は盛大に呆れ、片方は困ったような笑み。
「あなた達、十八でしょ。いい加減大人の落ち着きぐらい持ちなさいよ」
「倒したんだからいいだろ! ご長寿オバサンの小言なんて聞きたかねえよ――いだぁっ!? そりゃねえよオッサン――わ、分かった悪かったよ! なんでオレばっかり……」
 言う必要もない。口の利き方以外ないだろう。守護と正義を司る騎士神の信者は、上下の規律にも厳しいのだ。先輩冒険者相手にフィリップのような口の利き方では、敬虔な信者であるこの男性から拳骨をいくら喰らっても当然というものだろう。
 現に大地に宿る意思、精霊達に語りかけ、最初に援護してくれていたエルフ族の女性は拳を震わせている。
「あたしはまだ二十五……っ。あんたと十も違わないでしょう!」
「アーエ」
「司教、こればっかりは許せないわ。女性の歳を軽(かろ)んじるなんて!」
 重い溜息。上から降ってくるどんよりとした空気に、ウィルは暗灰色の髪の上から頭を押さえるのを止め、見上げた。その間にもフィリップとアーエは言いたい放題の大喧嘩だ。黒髪の少女は困り顔で止めに入ろうとしているも、まるで相手にされていない。
「森中の動物が怯えてしまうな……まったくこの二人は」
「……いっそ、怯えた方が人里に下りてこなくて、好都合なのでは。カヤネ、放っておこう」
「で、でも……と、止まってください、二人共ぉ……」
 それで止まるようなら、この強面司教も溜息をついたりしないのに。
 ウィルは心の中で静かに突っ込み、カヤネのフォローのため、不毛な喧嘩に首を突っ込まざるを得なかった。
 たまに、いやいつも分からなくなる。
 これが冒険者だっただろうかと。


 ゲイル・ヴェレイジス国。
 大きな五つの島が十字の形を描き、小さな群島がその周囲を連れそう島国の中でも、南のノムルスに居を構えて活動するのがウィル達だ。それぞれ違う島々からやってきて、いつの間にか仲間として依頼をこなすようにはなったものの。未だに司教の小言には耳が痛いし、フィリップとアーエの口喧嘩は見慣れすぎて止める気も失せかける。
 蜂蜜熊(ハニー・ベアー)の被害に困っていた行商人の依頼を終え、自宅同然に世話になっている宿屋へと戻ってきたウィルは、同室で幼馴染のフィリップが未だに機嫌が悪い事に面倒くさいと露骨に顔に出す。
「おばさん達に手紙送れないだろ。お前も返事ぐらいそろそろ返せよ」
「母さん達は遅れたってなんにも言わねぇよ。どうせもうすぐ帰るだろー」
 毎年確かに、どちらかの誕生日には村に帰り、互いの両親と会っている。もうすぐ自分の番とはいえ、ウィル自身はできれば、今回だけは帰りたいとは思っていないのに。
 簡素なベッドに腰かけ、テーブルを引き寄せて羊皮紙にペンを滑らせていたウィルは、フィリップの親宛の手紙を書きつつ眉を潜めた。
「今年は――」
「あーあーそーだったなーお前らお熱いもんなー。連れて行けばいいだろ、カヤネだけ」
「なんでそこでカヤ――ま、まさか父さん達に会わせるなんて言う気じゃないだろうな」
 顔が強張る暗灰色の髪の青年。フィリップはベッドで魔術に関するレポートを纏(まと)めつつ、にやりと笑いながらこちらを見てきた。
「付き合ってもう二、三年か。なげぇよな。いい加減いいだろ。おじさん達も喜ぶぜ、きっと」
 普通の親ならそうかもしれない。けれどウィル達の親は、元々国から秘密裏に追われていた側だ。
 現にカヤネも元々はその一人。敵であったのに任務を失敗し、殺されそうになっていた所をウィルが彼女を見捨てられずに庇った事で、束縛から逃げ出せたカヤネを自分達冒険者一行に招いたのだ。
 確かにその時から好きだった。一目惚れに近かった。けれどまだ、付き合っているわけではないのに。
 大体、あの司教がいる限り恋沙汰なんて無理だろう。……そういう事を隠れてしなかったわけではないけれど。ばれているのも百も承知だけれど。
「次の依頼まで余裕あるだろ。お前が警戒してたらカヤネだって不安になっちまうぜ」
「……別に警戒している気はないさ、俺だって――はい」
 ノックに応え、扉へと向かう。フィリップが焦げ茶色の目でやや気を遣っているような顔をしてきていたが、司教がやってきたと分かると途端にげんなり顔だ。見慣れたウィルは笑い、開けて仁王立ちの男性に思わず威圧される。
 どうしたのだろう、腕まで組んで。
「次の依頼の話が来た。早々に食堂まで降りてくるように」
「げぇっ、さっき終わっただろ!? また行くのかよ!」
 上半身を起こし、思いっきり嫌そうな顔をするフィリップに、鳶色(とびいろ)の鋭い視線が向けられているではないか。
「フィリップ。以前の損壊はきちんと覚えているだろうな。総額三万リノアの大皿と大理石の階段」
「はーい頑張って働かせていただきまーっす!」
 ウィルはうろんげな顔を幼馴染の魔法剣士に向け、渋々階下に降りるべく準備をする。
 本当に、フィリップが神殿の大皿と階段を依頼の際に破壊しなければ、こんなに頭が低くなる事もなかった気がするのに。

「つまり、だ。オレが魔術の塔(がくいん)≠フ学院長の親戚ってのを、知ってての依頼ってわけか?」
 食堂に下りたのは泣けなしの時間で食事を済ませるためであって、話を聞きに行く事など既に終了していた事を知ったフィリップは、早速街道を歩きつつ苦い顔。ウィルも気まずげだ。司教は筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の腕を組んだまま、頷いてくる。
「確かに最初は断る事を考えはした。だがお前達の事を知りすぎている事が不安になってな。単なる薬草探しらしいし、いくら言葉の悪い依頼人とは言え相手は少女。見逃すなどできないだろう」
 どれだけ礼儀作法や上下関係に厳しくとも、人の安否を第一に考えるこの司教にはいくら尊敬を示しても足りないものだ。彼のようになりたいとは思えないけれど。
 げんなりするフィリップを見やり、ウィルは頷く。
「司教の言うとおりだと僕も思う。僕達の事に詳しいっていうのも、気にならなくはない。受けていいんじゃないか? 個人的に相手を探ったって、司教は気にしないでしょう?」
「私なんぞより、心配する相手を違(たが)えるな、ウィル」
 言われ、ぽかんとして。やがて赤面した彼は、盛大に言いたい事を口に広げそうになって、堪えた。
「で、いつになったら移動してくれるんだよ。しきょーさんよ」
 見えた街道の入り口。響く剣呑な下町訛りの声を聞き咎め、ウィルもフィリップも固まってまじまじと相手を凝視した。
 青い髪、青い目。エルフ以上に長寿な種族の特徴である、人間でもエルフでもドワーフでもない特異な色の目と髪の少女は、やや褪せた服にボロボロの襟を縫いつけた粗末な服を着ているではないか。動きやすそうなその格好と、顔の鋭さがちぐはぐな彼女を見て、ウィルは言葉を失う。
「ティファ!? じゃあ依頼人って」
 親の冒険者仲間である少女――否(いな)、女性はにやりと笑ってみせた。
「毒消しの薬草、ヴェルドーテ十株。痺れ毒用の解毒草ファンステスは八株。馴染みでも手抜いたら承知しねえぞ」
「よく言うぜ師匠気取っといて一年放置しやがって! いってぇ! 殴らなくてもいいだろオッサン!」
 途端に、笑いが弾けた。

「へえ、その一年の間に賠償額三万なんて大目玉食らってたわけか。お前いったいどんな馬鹿術飛ばしやがったんだよ。親父が聞いたら泣くぜ」
「うっせえな、ティファだって学院の備品いくつか壊してたんだろ!」
「あれはオレじゃなくて、ウィルの両親なんだよな。あとラドンな、ラドン」
 聞いたウィルは飲んでいた水が喉に詰まりかけて咽た。背中をカヤネが叩いてくれ、気まずくも礼を言う。司教が近づいてきて互いに苦い顔になった。
「すみません、口の悪さは師匠譲りなもので……あと両親」
「いや、今はとやかく言う気はないが。……お前も苦労していたのだな」
 苦労していないわけがない。嫌いになれないほど誰に対しても自由なだけだけれど、フィリップのこの破天荒ぶりを見て今さらのように言われて、ウィルは司教を呪いたくなったほどだ。
 薬草が生えている森。今でも迷いの森として知られるそこに向かうのはいいものの、戻ってこれる自信でもあるのだろうか。ティファことティフィーア曰く、「もう普通に平気になった」との事らしいが――思えば詳しく教えてもらった覚えがない。
 肝心な所で抜けているのだ。両親の話も、フィリップの両親やティファや、彼らの仲間であるラドンの話は、いつも。
「ティファ。迷いの森は長い間遭難者が多発しているんだろう? ノムルスの領主達が開発を渋るくらいに」
「ああ、それもう解決してるぜ」
 は?
「貴族連中に言ったら好き勝手自然壊しやがるから、一部にしか知らせてないけどな」
 え?
「ってわけで、この事知ってるのはアースィクラフター家に深く関わってる奴ぐらいなんだよ。最近あいつの家、爵位上がる話も出てるの、そのせいな」
 ちょっと待って。
 アースィクラフターはウィルの両親やティファの親友、ラドンの家の名だ。つまりは、彼も関わった出来事のはず。
 道理でやたらと、両親達の昔話に虫食いのように抜けた場所があったわけだ。ウィルは溜息をついて首を振る。
「いいのか……そんな森に勝手に入って。余計帰ってきたら怪しまれそうだよ」
「あら、入れるわよ。エルフならあの森の外周ぐらいよく行くもの」
 けろりと、そのエルフのアーエが伝えてくれてがっくりと首が傾(かし)ぐウィルとフィリップ。そのフィリップへと耳打ちするのはティファではないか。上手く聞き取れないけれど、幼馴染がやたらと驚いた後耳打ちし返しているのを見ると、自分には知られたくない会話なのだろうか。
 ――面白くない。二人していつも徒党を組んでコソコソして。最終的な悪戯(いたずら)の成果の実験台は、全部自分で。
 カヤネが不思議そうにティファを見ている。ウィルは肩を竦めた。
「ティファはあまり、人に心を開かないんだ。僕らの親は特別らしいんだけどな」
「そうなんですか? ――でも、温かい人ですね」
 ウィルは頷いた。どれだけ口が悪くても、決してウィルやフィリップを差別する事のない人だ。むしろ姉貴分だからこそ、わけ隔てなく接してくれる彼女にも、両親に負けないくらいたくさんの知識を教えてもら――
「……悪戯や悪巧みや、トラップの知識しか教えてもらってない気がする……」
「え……そ、そんな事はきっと! ……あ、あはは……」
「あったぜ、この薬草な――おっ、なんだよ。ここ群生してるじゃねえか。間違えて葉が二股になってる奴採るなよ。そっちは汁に痺れを起こさせる魔力持ってやがるからな。そっちのじょーちゃんは分かるんじゃねえの? あんた、盗賊出身だろ」
「え、ええ!? なんでご存知なんですか!?」
 聞いた一同は盛大に言葉に詰まる。アーエがやっと、弓を持ち替えてカヤネの肩に手を置いた。
「あんた、あれっだけ足音しないじゃないの。街道でも。普通は気づくわよ」
「……す、すみませぇん……」
 何故だろう。冒険者で言えばいい事のはずなのに。
 すぐに薬草を探そうとして、躓いてこけて。例の汁に痺れる効果がある草を思いっきり踏み倒したらしく痺れている少女を助け起こしたウィルは、ひどく居た堪れなかったのだった。
 ガサッ
「――司教」
「ああ、聞こえていた。どうやら先客がいるようだな」
 素早く声をかけると同時、司教も頷いてくれている。カヤネが目を回しているのを見て不安になるも、仕方ないとアーエの傍まで背負っていく。アーエは複雑そうだ。
「これで元は凄腕の盗賊だったっていうんだから、本当なのか全く分からないわよ……」
「あの時は気を張り詰めすぎていたんじゃないか? 少なくとも、僕にはそう見えるな」
「どうやらお出迎えらしいぜ――っと、いきなり穏やかじゃねえなっ」
 貫くように迫ってきた蔓を避け、短剣で切り裂いた少女。フィリップも剣を抜き、自らに迫る数本の蔓を切り払った。
「肉食蔓(かずら)、キラークリーパーか。ティファ。火いるか?」
「はっ、オレを誰だと思ってやがるんだてめぇ。水の精霊と共に在(あ)る水の神子(みこ)族、ティフィーア様だぜ。履き違えてんじゃねえよ!」
 言うが早いか、迫り来る蔓を切り払うと同時に詠唱を始めているではないか。フィリップは笑いながら「そーでした」などとおどけて見せ、彼女の詠唱を妨げないよう敵の蔓を切り捨てにかかっている。
 ウィルも前線に立ち、司教からの合図が来ないのを悟るとすぐに蔓へと切りかかった。さらに地面から水鉄砲が飛び出し、ウィルが払い損ねた蔓を水圧で切り裂いてみせた。
 緑が溢れる奥に見える、岩肌に張り付いていたのだろう本体。
「アーエ、あそこだ!」
「光の使途よ、その強き意思にて我が道を照らせ!=v
 青白い光の球が浮かび上がったかと思うと、一直線に肉食植物へと突進して大火傷を負わせた。光が消えると同時、植物は痙攣したかと思うとばったり動かなくなる。
 後ろから拍手が聞こえ、ウィル達はぎょっとした。司教が満足げな顔をしているではないか。
「うむ。合格だ」
「だな。ったく紛らわしすぎるぜ」
 ティフィーアまで。アーエもフィリップも困惑する中、はっとしたウィルは思わず怒気を堪え忘れる。
「あっ、まさかこの依頼、司教も一枚噛んでたんですね!」
「いや? ティフィーア殿からの依頼のついでにテストを」
「噛んでるじゃねえかよ思いっきり! いってぇ!?」
 思いっきり殴られた焦げ茶色の髪の少年。ウィルは頭痛を堪え、どうやら司教に麻痺毒を取り除いてもらったらしいカヤネが落ち込んでいるのを見て、フォローに回った。
 フィリップ絡みのフォローより、カヤネのフォローの方が断然落ち着けるから。
「要するに、また別の依頼を受けるに当たって、僕らに司教がいなくても連携が取れるかの確認をしたかったんじゃないんですか。カヤネの麻痺は思いっきり計算外だったようですが」
「相変わらず察しがいい。まあ、そういう事だな。暫く神殿関係で私が抜けなければならない。穴をティフィーア殿が埋めてくれるそうだが、お前達も一度ご両親の元に帰るんだろう。その間に私の用事が終わるとは到底思えないものでな」
 そこまで長く空ける用事が迫っていたなんて、知らなかった。きっと司教の事だから教えなかっただけなのだろうけれど。ある程度状況が飲み込めたウィルは苦笑いした。
「まだ新米だった僕らにずっとついてきてくださってたんです。そろそろ期待以上の成果を出せるように頑張りますよ」
「ついていくも何も、私はあくまで自分が雇った冒険者の負債返済が、きちんと解決するかを監視していただけなのだが」
「さあー元気よく帰ろうじゃねえか我が家に! 本土行こうぜはっやっく!」
 顔を引きつらせたままの笑顔で上ずった声で。
 皆、盛大に笑い飛ばしていた。

「おい、ウィル! 荷物さっさと纏めろよ!」
「だっ、から、最後の土産、入らな――あれ?」
 すんなり入った。不思議に思って鞄の後ろを見るも、破けてはいない。よくよく見れば、小さいくせにかさばっていたうちの一つがなくなっているではないか。
 血相を変えて探すと同時、いつの間にかティフィーアが部屋に入ってきていて、彼のベッドで小さな箱を見て感心している。
 小さな、箱?
「へぇー、お前ついに指輪買ったのかよ。いつ渡すか知らねえけどおっせーなぁ」
「ティファアアアアアアアアアアアアッ!? 返せよおい!」
「カヤネー、ウィルが渡したいもんあるんだとー」
「あ、はーい。なんですかー?」
「いっ、いや後でいいんだ後で! 返せティファッ、俺の立場も返せ!」
 ベッドで退屈をしていたはずの幼馴染が爆笑し、逃げるティフィーアは彼の腹を盛大に踏んづけて悶絶させて、避けそこなったウィルも間違えて背中を踏んでしまって。
 旅立ち早々慌(あわただ)しくなっていた自分達を、アーエは白けた目で見ていた。
「あたし、変かもね。彼氏を踏み潰されても逆に清々してるだけだなんて」
「ええっ!? 付き合ってらっしゃったんですか!? あっ、ウィル、ティファさん、だめですって暴れちゃあっ」

 ゲイル・ヴェレイジス国、ノムルス島アースィクラフター家領地の一画にて。

「ほらよっ、カヤネ! ウィルからのプレゼントだと!」
「え? あ、ありがとうございま――」
「ティファお前っ、俺の台詞まで返せ!」

 冒険者とは
 危険ですら楽しみ、旅の合間でも楽しみ抜く。そんな力強いエネルギー溢れる人生と世界の開拓者。

「いってぇ……オレもお前の事愛してるぜアーぅぐぇふぁっ」
「あんたは一生寝てなさいこの誑し魔っ!」
「こりねぇなお前ら……」

 ……なのかもしれない。



平成23年9月頃 執筆



*あとがき。*
 オリジナルにしてますが、ちゃっかりこれ、過去に執筆したソード・ワールドを参考に考えたオリジナル長編小説の短編です(^^; ソード・ワールド要素がほとんど入っていないこれならギリギリセーフかなぁと思って投入しましたけど……セーフ? アウト? ……ボール、かなぁ(汗)。
 長編のネタも結構引っ張ってきてあるので、なんとか長編小説も投稿サイト様のほうにだけでもアップしないとかなと、やや不安には感じてます(汗)。
 ギャグプッシュな小説でしたが、楽しんでいただけましたら幸いです(^^

[*prev] [next#]
[目次]
back to top
しおりを挟む
しおりを見る
Copyright (c) 2020 *そらふで書店。* all right reserved.

  
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -