タイトルのない物語―エルフ族のイディア― 上
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『やーい、落ちこぼれー』
『落ちこぼれが歩いてる〜』
『みんなー! 落ちこぼれにぶつかるなよー。落ちこぼれ菌がうつるぞー』
  
 いつもいつも
 こんな感じ
 ただただ
 落ちこぼれているというだけで――
  
 エルフ。一言に表しても、やはり人同様、見た目だけでも個人差は生じるものだ。それは能力でも同じ事。だが、『落ちこぼれ』と蔑まれているこのエルフは、まわりからいつも冷たい目で見られ、軽蔑され、嘲られ……そんな日々だった。
 イディア・レーン。鮮やかで明るい緑の長い髪に、真紅の瞳。細身で、エルフ族ならではなのか背が高く、肉体的年齢は人で例えるとおそらく15歳頃だろう。丈の長い七部袖のワンピースを着ている。
 彼女は他のエルフとは違う点がいくつかあった。
 まず耳の長さ。とても長い耳がエルフの特徴だが、彼女の耳はハーフエルフの耳より少し長いといった感じなのだ。
 次に魔術が上手く扱えない。個人差があるとはいえ、この世界では初級であるファイアボールを習得するのはおそらく5歳頃のエルフでもたやすいことだろう。だが、彼女は20過ぎた今でもそれが出来ていないのだ。
 その次は薬品の調合。これは分量計算などがいるが、不器用なエルフですら最低限の薬ぐらい作れる。が、彼女は作れていない。
 そして極めつけは、容姿がまるで人間とハーフエルフを掛け合わせたようにエルフらしくないということだ。
 だから落ちこぼれとよく言われてしまう。実技系が苦手すぎることもいけないのだろうと、彼女自身諦めてはいる。
 彼女には幼い頃から両親がいなかった。母は彼女を産んですぐに亡くなり、父は5歳頃都に出稼ぎに行こうとして消息が途絶え、1ヵ月後に亡くなったことが判明した。
 彼女には彼女に教えるべき事を教えてくれる存在がいなかったのだ。しかも彼女の親戚は大抵ヒトと結婚し、今はこの里にいない。それに彼女を引き取りにこようとする親戚すらいない。結果彼女は毎日こういった侮辱に耐えつつ、魔術の練習や薬の調合の研究、日常的な家事等をこなしていた。
  
  
 この物語は、そんな少女が送ったとある数日の物語である――
  
  
「イディア・レーン。魔術5点、調合薬2点……全く、どういうことなの? こんなエルフはどの歴史を見てもあなたぐらいよ」
 里の子供たちに魔術を教えているエルフからのきつい一言を頂いても、自分より年下の子供エルフたちの嘲り笑いが聞えてきても、彼女は黙ったままうつむいていた。浴びせるだけ浴びせればいい。
 言葉の暴力なんて、嘲りなんて……小さい頃から日常でしかないんだから。そしてこれからもずっと……かわらないんだから……。
  
「あ、落ちこぼれだー」
「今日の点数どうだった、落ちこぼれー」
 帰る道でもからかわれる。それも年下の子供たちばかり。親も止めようとする者は少なく、その止め方も「そのぐらいにしておきなさい」程度で終わる事がほとんどだ。イディアはうつむきながら歩いていた。
(どうせ全部私が悪いんだもの……)
 自然と、小さくため息が出てしまう。
(仕方ないわよね……私がこの集落にいることがいけないんだもの……)
 再びため息が出てしまう。次の瞬間、彼女に向かって勢いよく水がぶちまけられ、彼女の服や髪はぐっしょりと濡れ、ぽたぽたと滴が滴り落ち始めた。
 子供エルフたちが更に周りに集まってくる。が、誰も彼女に対して「大丈夫?」とか、「誰だよこんな事したの!!」とかいう声を出そうとはしなかった。みな同じ顔。嘲りや嫌らしい、いじめや差別めいた顔をしていた。
「駄目だろー。落ちこぼれ菌が増殖しちまう」
 どっとまわりの子供たちに笑いが生まれる。だが、その笑いの中心で、イディアは笑っていなかった。笑う気などとうに失せている。ここ10年笑ったためしがない。
「こんな落ちこぼれなんてさっさと家に帰っちまえよ」
「いっそのこといなくなっちゃえ〜」
 イディアはそれを聞き、ふと思ったように空を見上げる。空は迷いも曇りもない、住んだ青空だった。誰の心を映すでもなく、イディアの絶望に浸りきった悲しい顔すら映さずに。
「そうね……そういうことをした方が楽かも……」
 誰にも聞えないような小さな声。だが、彼女が口を開いた途端、今度は彼女に熱湯がかけられる。とっさに腕で顔を庇ったが、最初に水をかけられていなければ今ごろ火傷をしていたかもしれない。
「熱湯消毒しても意味無いだろー」
「えー。でも消毒したら少しは菌が減るでしょ〜?」
 イディアはため息をついて歩き出した。周りの冷たい空気のおかげで熱湯も威力を失っていく。が、彼女にはもうどうでも良かった。いまはただ、あそこに向かうだけ。
  
 エルフとして
 生まれてきたくなんかなかった……
 こんな事になるぐらいなら……
  
  
(だから……こうすれば、早かったのよね……)
 イディアは深呼吸した。そしてこの近くの聖域に住まうといわれる精霊に祈りを捧げ、自分のライセがエルフでない事を願うと、彼女は丈夫で高い木の枝から宙に身を躍らせた。
  
  
  
  
  
 体が定期的に揺れている。足は動いていない。いや、全身が動かせない。イディアは多少ごつごつとしている何かに運ばれている事に気付き、ゆっくりと目を開けた。
 黒く塗られた部分鎧に、多少だぼっとした感じのある黒い服。黒い髪はかなり乱れ、背は彼女より頭一つ高いといった感じだ。耳は尖っておらず、明らかに人間だ。腕は多少細いが、腰に長剣をつっている事から剣士であることは容易くわかる。
 イディアはいつの間にか息を潜めていた。この人……私をどこに連れて行くつもり?
 ふと、剣士は洞窟らしいところに目が止まるとそこに入っていく。浅い洞窟――といっても入口から少し行った所は曲がりくねり、そしてようやく広い空間に出るといった感じの洞窟だが――にはモンスターが巣食っているような形跡はなく、それを確かめた剣士は壁際まで行くとしゃがんだ。
「起きてるんなら自力でおりてくれよ」
 多少苦笑めいたその台詞に、イディアは驚いたように身を固める。口を開いても大した声は出ない。
「なんだよ。もしかして風邪ひいてんのか?」
 背負っているというのに起きていることは分かっていると言いたげな口ぶりだ。イディアはそろそろとおりようとし始め、剣士はそれに気付いたのか更に壁際に近付き、彼女が倒れるのを防いでくれた。
「……………………………」
「すんげぇ黙りようだなおい」
 ついつい突っ込む剣士。イディアは剣士をまじまじと見る。
 まだ幼さが抜けきれていない、喜怒哀楽がはっきりしていそうな顔。黒い瞳はどこかまだ少年と言った感じが抜けきれていないようだ。かなり長い時間日に当たっていたのだろうが大して日焼けをしておらず、黒い服装が意外に似合っているようだ。
「まぁ……しゃーねーか。お前エルフなんだろ?」
 初対面の人に対して(厳密にいうと人ではなくエルフだが)敬語抜きでしゃべる青年に対し、イディアはとりあえず頷いた。剣士はそれを見て頭をかきつつ困ったように唸る。
「てことは集落の奴なんだろ? ……こっからだと……モンスターたちに見つかるよなぁ……」
(モンスター? ……追われてるの……?)
 イディアは声が出ない代わりに目で剣士を問う。剣士はその視線に気付き、苦笑したように頷いた。
「ちょっと怒らせちまって……どうせすぐ忘れると思うけどな」
 考えが甘すぎると、イディアは思わず思ってしまう。
「とりあえず……名前教えてくれねーかな? 分かんないままだとなんて呼べばいいか分かんねーし。とっさの行動も出来ないかもしれねーし」
 口調が微妙に不良っぽいとも思いつつ、イディアは洞窟の冷たい床に細い指を当て、浅いがくっきりとした字を書いてみせる。そこだけわずかに光っていたようだが、彼女は気付かなかった。
「イディア……へー、いい名前じゃん。俺はライディル。ライディル・ヴェルグ。なんか硬い感じの名前だろ?」
 だから村にいた時はライルって呼ばれてたんだけどな。ライディルと名乗る剣士は笑いながら付け足す。
「よろしくな、イディア……って、そういえばどっちが年上なんだ? エルフって見た目と年齢って全然違うんだろ?」
 なんかどうでもいい事まで考えているようだが……どうやら彼なりに敬語を使うべきかそうでないか悩んでいたようだ。
 イディアはとりあえず自分の年齢を書く。といってもまだ二十歳なので恥ずかしくも何ともないからなのだが。
 そしてライディルはというと
「……俺まだ19なんだけど」
 微妙にショックを受けたご様子だった。
 そしてまた敬語を使うかどうかで悩みだしたのだった。
 イディアはそんな彼を眺め、なぜか今までのような孤独感がどこかにいっていることに気づく。
(私みたいなエルフ、おかしいと思わないの……?)
 今までそう思っていたのは自分だけだろうと思っていた。父親ですら、自分を見る時に良い顔をしたためしがなく、家にいるときは家事を娘に任せ、ずっと母の写真だけを見ていた。
 イディアはライディルにその事を聞こうと思い、声が出ない事を思い出す。そのもどかしさに、彼女はつい膝を抱いてしまった。
「寒いのか?」
 ライディルの問いに首を振るイディア。だが、彼女の意に反して体は震えていた。あの時かけられた熱湯や水などで、服はまだ濡れたままだったのだ。
 ライディルは手に持っていた荷物(といっても中身は携帯食料や毛布、水ぐらいしか入れていないようだが)の中から薄いがしっかりとした生地の毛布を引っ張り出し、イディアにかける。イディアはつい身を縮めてしまったが、じんわりと暖かくなる毛布に身が包まると気を緩める。
「……なんかあったんだろ?」
 ライディルの率直な質問だ。イディアは黙ってうつむいた。
「人に言えねー事か?」
 イディアは黙ったままだった。あの事を話すべきか迷っていたし、話さなくてもいいのでは……という思いが強かった。
 それに、なぜライディルは赤の他人である自分を心配するのだろう。こんな落ちこぼれなんかを……。
 ライディルはそんな彼女を見、「言えねーんなら無理して言わなくていいぜ」と慌ててつけ足した後、洞窟の入口へと繋がる細い曲がりくねった通路の手前に座ると眠り始めた。
 イディアはぽかんとしたが、ずっしりと重たくなった疲労が眠らせようとしている事に対抗できず、そのまま深い眠りに誘われるがままとなった。
  
  
 イディアはエルフの集落に居た。そこで一人の少女が周りのエルフたちにいじめられ泣いていた。
 何かを言う度に、彼女は蹴りつけられ、殴られ、水をかけられ……。
 今では日常茶飯事でしかなく、反応する事にも疲れた彼女には思い出したくないものだった。
 何を言っても誰も助けてくれない。助けを求めて声を出せば暴力を振られる。父親に泣きすがっても突き放される。家に閉じこもろうとすれば窓から石を投げ入れられる。
 何でこんな目に合うんだろう……。イディアははちきれそうになる自らを抱き締めた。
  
  
「うっわ……」
 ひんやりとしたものが額に当てられている気がする。イディアは目を開けた。
「!?」
 そして見事に真っ赤になる。目の前にライディルが居たのだ。イディアの額に手を当てて困ったような顔をしている彼はイディアの起きた直後の反応を見、ぽかんとする。
「どうしたんだよ……? てか熱凄いぞ」
 ライディルは赤面しているイディアをよそに荷物を漁り始めた。が、目的のものがなかったのか洞窟の入口付近を困ったような感じで見つめる。
「どうすっかなぁ……」
 薬切れてら……。そんな事を考えていそうだ。
 イディアは毛布を顔の辺りまで引っ張り上げ、赤面しきった顔を毛布に埋めた。
(何で赤くなるんだろう……)
 今まで人前で赤くなった事ないのに。いや、なる必要がなかったのだろう。彼女は小さくため息をついた。
  
  
 イディアは不思議な空間にいた。なぜかそこはどの色ともつかない不思議な色をしていて、それでいてなんだか不安になる事も、楽しくなる事もない。ただ無情な空間といっていいほど、何もなかった。
 いや、ないわけじゃない。
 小人のような何かがいた。独りで小さく泣いていた。誰も聞いていない空間にただ独り、静かに泣いていた。
「でたい……よ……ここか……ら……」
 イディアは胸が掴まれる思いだった。あの子をどうにかしてあげたい。だが、手を差し伸べても気づいてもらえず、口を開いても声は出ない。近づこうとしても逆に離れてしまう。必死になってもがけばもがくほど、彼女はどんどん暗闇に追い込まれてしまった。
 気がつけば、そこにいたのは彼女だけになっていた。
  
  
 ふと目が覚める。先ほどのが夢だという事に気づいたが、なぜか気が気でならなかった。
 洞窟を見回すと、ライディルの姿が見当たらなかった。ぼんやりとした視界で彼を探すが、彼の荷物が見つかっただけだ。
(……どこに行ったの……?)
 イディアは立ち上がろうとするが、思いのほか力が入らない上必死で振り絞っても頭痛に妨害されてしまう。寒気や吐き気がするし、腕は立ち上がると力を入れても震えて力を入れない方がいいと警告している。
 本当に風邪を引いてしまったらしいイディアは、毛布に包まったまま意地の悪い温かさを伝える服を嫌らしく感じた。
 毛布を更にきつく体に巻きつけると、ライディルの顔が頭に浮かんでくる。
(……なんで私を許してくれたの……)
 分からない。イディアはただ考えていた。なぜ落ちこぼれの、しかもエルフらしくない、エルフとは呼べないといっても過言ではない自分を……自分の存在を認めてくれるんだろう……?
 ふと、石床を踏み歩く音が近づいてきた。薄暗い洞窟内を明かりが照らし、イディアは眩しげに目を細めた。
「あ、起きたんだな」
 ライディルだ。服や鎧は濡れたように湿っており、乱れ髪からは雫がぽたぽたと滴り落ちている。イディアはつい目を丸くしてしまった。
「大丈夫か?」
 イディアはその質問をそっくりそのまま本人に返してやりたかった。だが、それでもとりあえず頷いておく。声が出せないので反論が難しかったのだ。
 ライディルはほっとしたようにため息をつき、手に持っていた包みを解くと、荷物の中からコップを取り出して水を注ぎ、包みの中身――どうやら薬らしい――を入れてイディアに差し出した。
「風邪薬。さっき集落までもらいに行ったんだ」
 集落と聞いたイディアの表情が暗くなる。ライディルはそれを見てあのときの答えられなかった原因が集落と関係あるらしい事に気づく。
「とりあえず飲めよ。体調整えておかないと何かと辛いだろ?」
 イディアは首を振った。ライディルはそれを見て眉根を寄せる。
「なんで……? まさか死にたいとか言うなよ」
 イディアは黙ったままだ。声が出せないのだから黙るしかない。
 それにライディルの言っている事は本当だ。自分自身生きていても無駄だと思ったからこそ、木の枝から飛び降りるような真似をしたのだから。
「……一応、集落の奴らにお前の事聞いて回った」
 ぴくり、とイディアは反応する。
「まさか全員が全員、『そんなエルフは知らない』なんて答えるとは思っても見なかったけどな」
 それにあまり感じがいいとも言えなかったし。どうなってんだ? ライディルは疑問をぶつける。
 イディアは黙ったままだった。
 やはり、自分の名前はとうに忘れ去られていた。いつも『落ちこぼれ』と呼ばれるだけで終わっていたから当たり前なのだろう。
 だが、それでも名前を忘れられる事は辛かった。覚悟はしていたし、そうなる事もたやすく分かっていた。
 けれど、名前を忘れ去られて、さらに嘲りの名で呼ばれていじめや差別を受けて……。なんだか理不尽な気がする。
 イディアの目に熱いモノが込み上げてきた。その様子を見たライディルはぎょっとする。
「わ、わりぃ。きつく言っちまって……」
 イディアは首を振った。ライディルには謝ってほしくなかった。悪いのは全部私なんだから……。
「……薬、ちゃんと飲んでくれよ。死にたいとか関係なしで」
 ライディルはコップを突きつけるように前に出す。イディアはこくりと頷き、少しずつ飲み始めた。その度にじわりじわりと苦味が広がり、おいしいとはとても言いがたい。が、薬と水だけにしてはなぜかまろやかな甘味も隠れており、それが蜂蜜だと気づくまでに多少時間がかかった。
  
「……落ち着いたか?」
 2、3時間ほど経過した頃にライディルはイディアに尋ねた。イディアは小さく頷き、ずっと手に持っていたコップを床に置く。
「……私……の……せい……だから……」
 ようやっと出てきたか細い声。ライディルはそれを聞いて暗くなる。
「だけど、険悪な感じはなかったぜ?」
 それどころか誰もイディアの存在など知らないかのような物言いだった。ライディルはそれが許せないのだ。
「同じエルフなのに、相手の存在を認めないのはおかしいだろ?」
 同じ種族っていう仲間なんだぜ? ライディルは続ける。
「俺のいた村でもよくいじめとかあったけど、そんなもんじゃないだろ。まるで一人だけあの場所にいない感じだったし……しかも周りはそれを気に留めていないんだぜ? 誰かが止めるべき事を止めないなんておかしいだろ」
 イディアは首を振った。もう体は震えていなかった。だが、心は震えていた。辛くてしょうがなかった。今まで誰にも言えなかった、言っても聞いてもらえなかった事だから。
 だが、ライディルになら打ち明けられそうだった。エルフである自分を、ヒトであるライディルは認めてくれた。
 普通ならヒトは魔術を使えるエルフを妬むものだ。だが、ライディルは妬む事もなく、自分を放っておく事もなく、そばにいてくれている。だから……だから打ち明けられる気がするのだ。
「私……エルフに見える?」
 ライディルはそれを聞いて多少困ったような顔をする。やっぱり……とイディアは思った。
「私……これでも、純血のエルフなの。でも容姿がエルフとはかけ離れていて、もしかしたらヒトに近く見えるぐらい。こんなのが同じエルフだと思ったら、誰だっていやなんでしょう」
 ライディルの表情が暗くなる。そんなんじゃないだろ……。
「それに、エルフなのに魔法薬調合も、ましてや魔術もできない。こんな『落ちこぼれ』が同じ集落で、同じ空気を吸っているとなると……もっといやなはずよ……」
 言い切ると同時に、再び涙が溢れてくる。ライディルは目線を伏せ、納得した。
(だからいじめや差別が……だけどそんな能力の差なんて、誰にでもあることだろ? 落ちこぼれなんて言い方は差別やいじめの種以外なんでもねーじゃねーか)
 正直エルフがそんな風に言う事など考えてもみなかった。いや、同じヒトの感情ですら、時々分からないものがある。
 エルフは自分たちとは違う種族だ。だからこそ、もっと分からなくなるのだろう。
 ふと、ライディルはイディアが石床に書いた文字を見る。それは暗いはずの部屋に灯していた明かりの影となっている場所に描かれているにも関わらず、弱々しいがかすかに光を放っていた。
 その光はまるで、イディアの心を映し出しているかのようだった――。

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